第五章、プロフィール
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
一週間が過ぎて木曜日の平日、
竜彦の恩人が経営する秋山の喫茶店サファイアで、
真理と亮が店で二人を噂していた。
亮、「スゲー美人じゃん、照れちゃったし」と、
告げるとカウンターの中で、コップを布巾で拭いていた、
秋山の女房の明子が、「へー、
あのワルにそんな清楚な彼女が付くなんて、
世の中捨てたもんじゃないね」と、関心していた。
すると秋山は笑いながら、「あいつはワルだったけど、
イケ面で女には優しいから、頭の毛の横線伸ばせば、
普通の女に怖がられないで、モテるんじゃねーのか」と、提案した。
その事に対して真理は、「あいつは女にモテようなんて、
考えてやしないって。
自分のポリシーで生きているから、誰に何を言われ様が、
自分のスタイルは曲げられないの」と、念を押した。
すると幼い弘美がテーブル席で、
一人で座り面白くない様子であった。
それを見た真理は、「ねえ、あの彼女どうるのかな竜彦。
かなり御機嫌斜めの御様子だけど」と、
告げると秋山は、「あいつにはまだ早過ぎるぜ。
二十年経ったら考えな、アハハハハ」と、笑い飛ばした。
するとそこへ噂の竜彦が店の扉を開けた。
秋山は即、「おう、いらっしゃったか、
イケ面モテモテ竜彦君」と、声を掛けた。
それを聞いた竜彦は、「なんだよいらっしゃたかって。
いらっしゃいでいいよ。
それに俺はイケ面でも無いし。
いらっしゃったかなんて言われたら、
背筋が寒くなるぜ」と、呆れた。
すると明子は、「それで彼女はどうしたのよ」と、
聞かれると真理は、「放って置くと寂しがるよ」と、からかった。
竜彦は一旦店を出ると、後ろに立っていた玲菜を店に招いた。
その途端店内に居た仲間達は、「おー」と、声を上げた。
そして先に玲菜をカウンターの椅子に座らせると、
自分もその横の椅子を引いて座った。
すると急に後ろのテーブル席に、座っていた弘美が立ち上がり、
声を上げて、「この人だよ、兄ちゃんが 一目惚れした人は、
この人だよ」と、叫んだ。
秋山は急に弘美に顔が強張り、
「オメーは黙ってろバカヤロー」と、激怒した。
膨れる弘美。
だが真理、亮、明子は大笑いだった。
玲菜と竜彦は照れていたが竜彦が、「紹介するよ、
中原 玲菜十九才もう時期二十歳に成る。
出身は名古屋の熱田区。
お父さんはカナダ人、お母さんは日本人のハーフで、
幼い頃カナダに住んでいたが、父親が交通事故で他界してから、
母親の故郷である名古屋に戻り、母子家庭で育った。
幼い頃からフィギアスケートを遣っていて、
訳遭ってこの浜に流れて来た。
大雑把に説明したが、詳しくは玲菜が皆と馴染んで来たら、
それとなく皆に事情を話すだろうから、
その時は暖かく見守ってくれ」と、
軽くプロフィールをすると、玲菜は頭を下げて、「初めまして、
地元でお騒がせして済みません。
大分噂になってしまった様ですが、
私の方から正式に交際を求めました」と、
語ると秋山は、「そうか、
噂が轟いて妖精の耳にも入ったか」と、
悟ると真理は、「誰かさんが『妖精に惚れた』と騒ぐから、
『浜で名の知れた画家が妖精に恋をした』と、
噂が立って今浜では話題の中心よ」と、
亮の方に振り向いた。
亮は人差し指で自分の顔を指し、「俺か」と、答えると真理は、
「そうよ」と、咎めた。
すると弘美が急に、玲菜が座っているカウンターの横に座り、
玲菜を見詰めた。
その姿を見た玲菜は、弘美に振り向くと微笑んでウインクをした。
その時急に弘美は感情的になり、
玲菜を指差して、「この人ウインクした。
私に今ウインクした」と、叫んだ。
すると真理は、「取られた側の怒りが爆発したか」と、嘆いた。
明子、「女の嫉妬ってもう、
この年齢から芽生えているのね」と、やはり嘆いた。
すると玲菜は弘美に、「ごめんなさい」と、
一言謝ると不貞腐れて弘美は黙っていた。
秋山、「おめーには同年代の、
あのやんちゃ坊主共がお似合いだよ」と、進めると弘美は膨れて、
「翔太も雄太もガキだから嫌い」と、叫んだ。
秋山、「生意気な口叩きやがって、
おめーも相当ガキだろう」と、咎めた。
真理は、「誰に似たのかな」と、尋ねた。
すると明子が、「それは父親に決まっているでしょう。
私は幼い頃は素直で大人しい子で、
近所では通っていたのだから」と、責任をな擦り付けると、
秋山は、「ふざけるなよ、俺だって近所では大人しい、
素直な秋山 清二君で有名だったんだぜ」と、
両者責任のな擦り合いであった。
亮、「だから子供は親の姿を見て育つと言うでしょう。
弘美は今そのままの親を見てるから、
ませる訳でしょう」と、忠告すると秋山は、
「俺を見ていた訳じゃーねーよな」と、
弘美に問うと明子も空かさず、
「私を見てそう成る訳がないじゃない。
このぶっきら棒の父親を、
見ているに決まっているでしょう」と、反論した。
真理、「どっちもどっちじゃない」と、口を挟んだ。
ふと皆んなは竜彦と玲菜を見た。
両名立場を無くして俯いていた。
それを見た秋山は空かさず、「まあ、弘美には年相応の、
お付き合い出来る異性が一番いいよ。
兄ちゃんは今までお前の事を構って来た。
だがな兄ちゃんに甘え過ぎだ。
ぼちぼちその恩を返せよ」と、
告げると真理は、「そうだね。
こう見えても兄ちゃんは優しいもんね。
今まで弘美の我侭聞いてくれていたのだから、
その恩を返すつもりで、
玲菜さんに譲って上げなさいよ」と、
優しく問いかけると明子も、「私達も客商売で日曜日も仕事だし、
満足にこの子を構って上げられなかった分、
竜彦兄ちゃんがその代役を、勤めて来た事に感謝するけど、
兄ちゃんだっていつまでも、弘美のおもりも出来ないのよ。
暖かくその恩を思い返すつもりで、譲って上げなさいよ」と、
言い聞かせると、弘美は玲菜に向かって、「大事にしてよね。
私があんたに紹介した様なもんだからね。
そこんとこよろしく」と、
言って椅子から降りて、店の奥に入って行ったのだった。
それを見た、玲菜を抜かした五人は同時に、
「かっこいい」と、呟いたのであった。
弘美が去った後、仲間達はコーヒーを飲みながら、
しばらくこの喫茶店で話をしていた。
自ら玲菜は自分の生い立ちを語り、
それに対して皆同情していた。
真理、「そっか、頑なに練習の日々で、
目を掛けて来たコーチが、どうしても手放したくなくて、
闇雲に玲菜ちゃんを追いかける日々が続き、
耐え切れなくなった玲菜ちゃんも、
わき目も振らず必死に逃げて来た先が、
この横浜だった訳ね」と、語ると玲菜は、
「私も死に物狂いで技を磨きましたが、
彼女の強引な指導に着いて行けなく成り、
遭えなく逃亡者です。
言い訳かも知れませんが、もし私がまた新しい技を編み出したら、
それをチームメイトに叩き込むと思います。
するとまたチームメイトの、
誰かの死を招き兼ねません」と、辛く悟った。
明子、「もうコーチは、なり振り構ってられなくなったのね。
メダルを獲得出来る選手が出れば、
フィギュア界でも 一目置かれ存在に成れるから、
どうしてもその技で、
オリンピックに出したかった訳ね」と、納得していた。
秋山、「つまりあれか、コーチはコーチだが選手でもあったコーチは、
もう選手としては、フィギュア界には君臨出来ないから、
今度の目標としてはコーチとして名を馳せて、
フィギュア界に縋り付いていたい訳だ」と、
尋ねると真理は、「不器用なのね、つまりスケート馬鹿で、
他には何も才能が無いと踏んだコーチは、
フィギュア界に縋り付いて行くしか無く、
選手としてはもう活躍する場が無いけど、
優秀なコーチならば、フィギュア界に留まる事が出来る。
今後コーチの指導の下で、オリンピック選手を大勢出せば、
フィギュア界に君臨し続けられる」。
亮、「それ、人のふんどしで相撲取ってねえ」と、問いかけた。
竜彦はコーヒーを一口飲んで、
「初めはコーチはそんなつもりでは無かった様だ。
教え子が県大会で、トロフィーを多く獲得する様に成ってから、
急に欲が出たらしい。
更に玲菜の編み出した技が災いして、野望に満ちた訳だ」と、
悟ると皆納得していた。
玲菜、「現実は厳しく銅メダルでも良いから、
メダルさえ取れば仕事は有るんです。
テレビニュースでのスケートの解説者だけでは無く、
様々なスポーツキャスターの仕事も来る様です。
無ければプロに転じてテーマパークでの、
アイスショーなどにも出演出来ますが、
彼女の足はもうボロボロで、手術をしてもハードな滑りは出来ないと、
医者から宣告されてしまった様で、結果的にコーチに転じるしかなく、
私を幼い時から手掛けて来たコーチは、
私をオリンピック選手代表に仕立て上げて、自分がフィギュア界での、
絶対的な地位を築くのが夢の様でした」。
真理、「一度はチーム内で選手候補から、玲菜ちゃんを外したけど、
結局忠実に自分が思うように、仕向けられるのはチームの中では、
一番古い教え子である、玲菜ちゃんしか居なかった訳ね」と、
問いかけると玲菜は、「それは一瞬の出来事で彼女は変わりました。
県大会でのチームは皆上位ランクなのに、
全国大会では最高でも皆七位下が最高ランク。
それでも彼女はチームメイトに感情的には成らず、
根気良く指導を行っていました。
良きアドバイザーにも転じていて、
選手の辛さも熟知した指導を行っていました」。
真理、「でも玲菜ちゃんのトラブルから、
偶然編み出された技を目の当たりにした瞬間、
彼女は変貌を遂げてしまったのね」と、
悟ると玲菜は小さく頷いた。
秋山は重苦しい面持ちで、眉間にしわを寄せ自分の顎を掴み、
「スポーツ選手は潰しが利かないと言うが、
そう言う要素では無い様だな今のそのコーチは。
他の仕事も出来たいや、引退直後は遣るつもりでもいたが、
これは推定だが現役引退後はもうスケートは、
不可能と判断したコーチは、
今後営む職種の繋ぎに、指導者のサポート役として、
たまたま個人経営での、子供のスケート教室を手伝う事に成った。
彼女はその時、素直で才能が有る幼い女の子を個人的に指導する。
別に指名された訳では無いが、成り行きでそう成った。
するとその子はスクスクと、その才能を伸ばして行くと、
回りも同調して上手く成る。
忽ち経営者寄りも、教えるのが上手いと評判に成ると、
これで食えると判断してメインコーチと成り、
経営者側も評判を聞き付け、生徒が増えた行った事に彼女を称えた。
だがその影にはいつも、一番最最初に手掛けた教え子が居た。
俺がここで具体的に何が言いたいかだが。
玲菜ちゃんを指導する事で、選手と言う立場から、
指導者としての自信が付いた。
コーチは玲菜ちゃんを側に常に置く事で、
コーチとしてのプライドを保てた。
新しく入って来る幼い子でも何でも、
『私が最初に指導した、幼い頃から手掛けたその子が、
こんなにスケートが上手く成りました』と言う実績を見せられる。
すると教室に入れたいと思っている子供の、
その親に信用を得られるが、欲が出てしまった。
もっとコーチとしての実績が欲しいと。
その時偶然にも玲菜ちゃんが、世界で誰にも真似出来ない技を、
偶然編み出してしまった」。
そして竜彦が口を挟んだ、「自分が最初に手掛けた子が、
金メダルを取れると」。
そして皆、思いに更けた行った。
すると真理、「愛していたんだね」と、呟くと
竜彦は、「ああ、俺もそう思うよ」と、同感であった。
明子、「全て自分の言う事は忠実にこなし、忠実に聞くと思ってた」。
秋山、「女房に愛想尽かされて出て行かれた、
旦那みたいだなコーチはまったく」と、嘆いた。
すると亮、「なあ、一人過酷な練習をさせて死なせた訳だろ、
そのコーチ親から訴えられなかったのかな」と、
悟ると玲菜は俯き、「もうその事は語りたくは無いけど、
裁判を起こされ刑事責任を問われました。
多分今でもその決着が付かず、その事でチームは解散。
私はチームが解散する前に、自らチームを辞めたので、
後からチームメイトから聞かされました」と、
告げるとこの場の空気が重くなる。
明子、「それでも諦めずに、
玲菜ちゃんを追うのね」と、一つ溜息を付いた。
竜彦、「結局コーチはそのまま単なる、
スケート教室の指導者で居れば、個人経営でも利益を出せて、
コーチ自身もその立場で十分遣って行けたはずが、
チームを組んで大会に出場すると、
県では高成績が得られたのが発端で、
全国大会で上位を狙い、生徒がいつかオリンピックの、
日本代表選手として出場して、
金メダルを狙う事を夢を見てしまった。
その時、偶然にも新たな技を編み出した玲菜に期待する事で、
遠い夢ではなくなったのさ」と、悟ると真理は、
「生徒とコーチの関係は、
たった一つの神技から引き裂かれてしまった」。
すると急に玲菜は感情的になり泣きながら、
「コーチの夢を私が叶えて上げたくて、
色んな技を考えました。
結局辿り着いた先は、トリプルアクセル以上の、
回転が出来るかが勝負でした。
幼い頃から母子家庭で育った私に取っては、
夜遅く帰る母に代わって良き話し相手でした。
たった一つトリプルアクセルを行う最、
間違ってエッジに、もう片方の靴のエッジを引っ掛けてしまい、
つんのめってそのまま仰向けで、倒れれば引き裂かれずに済んだのに、
その時、失敗を恐れてジャンプして、うつ伏せで氷に落下しようと、
体を大きく捻った時から、もう彼女と私を引き裂く、
切欠を招いてしまいました。
そして彼女を路頭に迷わせてしまった」と、
語ると真理も感情的になり、「それは違うわ。
玲菜ちゃんのせいじゃない。
玲菜ちゃんは頑なにコーチを称え、練習に励んで来た。
神技を編み出せたのも、
コーチの期待を叶え様と努力して来た結果だわ」。
明子、「その努力の甲斐あって、
生徒を大勢抱えるコーチとして名を馳せた」。
亮、「溺れたんだコーチは、従順で素直な玲菜ちゃんが頑なに、
神技を完成させ様としている姿を見て、
自分がフィギュア界で伸し上がれると踏んで」。
竜彦、「結局最終的には連盟の幹部が狙いだと思う。
だがチームメイトの一人を、死なせたのはお粗末だったな」。
秋山、「竜彦これも神の思し召しだ。
お前も生い立ちは自慢出来る方じゃないだろ。
お前の親の夫婦関係は、お前が幼い時からズタズタだった。
金は有るが絶縁関係。
お前も一人寂しく幼少時代を過ごしただけに、
この子の今の気持ちが解るはずだ。
お互いに心の傷を癒しあえば、
二人は幸せに成れる」と、案じて上げた。
その時、ここに居る仲間達は、
この二人を篤く見守る様であった。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html