第三章、巷(ちまた)
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
次の日、竜彦は画家である創作活動終えて、
横浜で手広く店を展開しているサーフショップ、
根岸に在るヤシの木本店に出向いていた。
店内ではドレッドヘヤーの店主と話をしていた。
店主の牧田が笑いながら、「スケートリンクの幽霊だか、
妖精と恋に落ちそうな、元横浜で幅利かせてた悪だってか、
アハハハ」と、笑い飛ばした。
そして牧田は竜彦の表情を伺い、「何だ怒らねーのかよ」と、
伺うと竜彦は、「亮に、『しゃべるな』って言う方がどうかしてるぜ。
覚悟は出来てるよ」と、呆れていた。
すると冬だと言うのに、
店内でTシャツ姿の色黒の女性店員が、
「亮の話だと近所のガキ共が、『大滝リンクには妖精が住んでいて、
兄ちゃんはその妖精に惚れちゃったらしい』と、
聞いてるけどその子の素性分ったの」と、
尋ねると竜彦は、「ああ美紀さん、
実はあれから偶然出くわして、訳ありなんだよ」と、
告げると美紀は頷いて、「あんなボロボロのリンクで、
ユニホーム着て練習しているスケーターなんて、
訳ありに決まってるでしょ」と、念を押した。
牧田は竜彦に、「どんな訳が有るんだよ」と、尋ねた。
竜彦は、「言わないよ。
話を広められても、彼女が困るだけだから」と、口を摘むんだ。
美紀、「大方どこかで挫折したスケーターが、
挫折した姿を見られたく無いけど、密かにまた羽ばたきたくて、
人気の無いリンクを見つけて、
滑っていたとかでしょう」と、女の勘が冴えた。
それを聞いた竜彦は、「俺の口からは何も言えないよ。
ただ深い訳が有る様だが、あえて深くは聞かなかった」と、
告げると店から出て行った竜彦であった。
それを見た牧田と美紀は、
負い目を感じる様な眼差しでいたのだった。
その夜、竜彦は行き付けのダーツバーのカウンターで、
酒を飲んでいた。
その横には真理が居た。
竜彦はウイスキーのロックを飲みながら、考え事をしていた。
そんな竜彦に真理は、「気にしてるんだ」と、問いかけると、
竜彦は、「何を」と、聞き返した。
真理はカクテルを呑みながら、「妖精さん」と、答えた。
竜彦は否定もせずに、「ああ、訳が有るらしいが、
かなり重症らしい」と、軽く答えた。
その事に対し真理は、「体がそれとも心が」と、
問いかけると竜彦は、「両方かもな」と、両手を後頭部に回した。
真理、「あれから一人で、スケート行ったんだ」と、
尋ねると竜彦は後頭部に両手を回しながら、「いや、
偶然十六号線の、中浜の交差点に在るコンビニに寄ったら、
そこでレジをしていて、その時は何も言わず、
俺は外でタバコを吸っていたら、
あの子が店から出て来て、話し掛けて来たんだ。
名前は中原 玲菜十九才で、
故郷は名古屋で、地元でアイススケートを、
遣っていたらしい」と、言う話に真理は頷いて、「らしいか。
惚れたねと、言うより惚れられたね」と、確信を得た。
竜彦はその時、何も言わずウイスキーを 一口呑んだ。
真理、「その子誘わなかった」と、
問いかけると竜彦は、「どんな風に」と、逆に問いかけた。
それを耳にした真理は、「竜彦確信しているんだ、惚れられた事」。
竜彦、「別に」と、軽くあしらった。
真理、「最初は妖精の縄張りに入って来た、
若い男と連れ添いの子供がはしゃいでいる姿を見て、
妖精はその姿を見て、楽しそうだから自分も加わりたくて、
その周りを滑り様子を伺っていた。
妖精ははしゃぎ、その優美な姿を見せて翻弄させた。
調子付いて自信が無かった技を御披露したが、舞えなかった。
その時、見ていた優しい男性から手を差し伸べられた」。
竜彦、「彼女は俺に告げたよ。
今現在働いている掛け持ちのバイトの場所を」と、
呟くと真理は、「妖精に惚れられたか、
優しい絵描きにね」と、呟いた。
竜彦はその時微笑んで、
「噂が広まらなければ良いがな」と、やはり呟いた。
今宵浜では、二人の愛の行方を期待するかの様に、
巷では噂の二人に成るのであった。
次の日、玲菜が働いているコンビニに足を運んだ真理。
店に立ち寄ると、午後は客が疎らな店内に、
若い年の頃は二十歳前後の、チャラ着いた男性客二人が、
レジの女性に話し掛けていたが、
その女性店員は迷惑そうな顔付きだった。
それを見た真理は、ウォークイン冷蔵庫からドリンクを一つ取り、
レジに歩いて行くと、話し掛けている男性の前に立った。
男性達はしきりに、玲菜を遊びに誘っている様であった。
茶髪のロン毛の男性、「ねえ、いいじゃん。
楽しいぜクラブは」と、誘うとベリーショートで金髪の男性が、
「クラブが嫌いなら、居酒屋って言うのも有りでしょう」そう問いかけると、
玲菜は俯き加減で、「夜働いているバイト先が、
居酒屋なのでちょっと」と、
拒むと男性二人は途端に目の色を変えて、「何処よ」と、はしゃいだ。
玲菜は弱った顔で、「言えません」と、切り返した。
すると店内に響き渡る様な声で、
男性二人は同時に、「えー」と、
声を上げそして茶髪のロン毛の男が、「つれないっしょ。
言ってくれれば呑みに行くから何処よ」と、
場所を教えて貰いたくてせがんだ。
もう一人の男性も、「夜、送り迎えしちゃうよ俺達」と、
しつこく迫っていた。
玲菜はその時、後ろの真理に気づいた様で男性客に、「済みません、
後ろのお客さんがお待ちになっているので、申し訳有りませんが、
レジを開けて貰えますか」と、
問いかけると男性二人は、急に玲菜に顔を近づけ来て、
ロン毛の男性が、「何処の居酒屋で働いているか、
教えてくれたら退いて上げるよ」と、からかい半分で答えると、
金髪の男は、「俺の連れ同士、大勢連れて呑みに行って上げるから、
何処か教えてよ」と、ヘラヘラしならが迫っていた。
すると不意に男性客の首に、背後から腕が掛かった。
そして背後から男性客に顔を近づけた真理、「あんた達、
この子誰の彼女だか知ってるの」と、
尋ねると急に血相を変えた二人の男性であった。
そしてロン毛の男性が、「あ、あれ、
その声は真理さん」と、問いかけると金髪の男も、
「え、誰の彼女って」と、尋ねて来た。
真理、「元、デスアローゼヘッドの竜彦の彼女だよ」と、
答えると急に男性二人は玲菜に、「済みません」と、答えた。
そして真理は二人の首から腕を放すと、
男二人はそそくさ、店から出た行ったのであった。
店内には真理と玲菜二人きりになった。
俯く玲菜に真理は、「あいつら街のチンピラみたいな連中で、
目を付けられるとひつこいから」と、忠告した。
そんな忠告に玲菜は、「彼女って私、
あの人とは何も関係は有りません」と、
きっぱりと否定すると真理は、「では何故、
竜彦には夜働いている店を教えたの。
今でもあいつの格好はアウトローで、
性格や髪型は以前寄りかは落ち着いたけど、
アメリカンバイクでドカドカ音を立てて来て、
黒い皮ジャン姿で短髪で、
頭に横線入れてるあいつには」と、
追求すると玲菜は横を向き、「ただ」と言って口を閉ざした。
真理は微笑んで、「ただ何となく、
見た目寄りも優しい人だと、思ったからじゃない」と、
推測すると玲菜は真理に顔を向けて、
「私の彼に対する何を聞きたいのですか」と、逆に追究して来た。
真理、「プライド少し高いか」と、確信した上で、「浜では既に、
竜彦のあなたに対する噂は広がり始めているの。
あいつはそんな事で動揺する程ヤワな奴じゃない。
でも仲間内があなたと竜彦の事を、
どんなに騒いでもあいつは、それを差ほど否定しない。
あいつはワルだったけど、自分の気持ちを人に素直に伝える。
つまりあなたの事を気にし始めてる。
私は昔からのあいつの悪友でもあったけど、彼女では無い。
あなたもあの時リンクで、手を差し伸べられた時から、
何かが心の中で芽生え始めていると思う。
私はあなたに、なんでこんなおせっかいな事を言のか、
それは浜の奴らは普通のナンパ連中と、さっきの奴らみたいに、
悪質なナンパ連中が存在している。
どちらの連中も女の子には敏感で、
あなたみたいな清楚な、ハーフぽい子にいは目を付ける。
竜彦はこれからきっと、大滝スケートリンクに姿を見せる。
彼が好きならしっかりいとした態度で、
きっぱりとあんな連中には、
『他のお客様に迷惑ですので、
当店でのそうい言った誘いは、一切受け付けません。
無論私個人のプライベートも、
関与しないで下さい』と、断る事ね」と、
指導すると玲菜は自制した面持ちで俯き、
「はいこれからそうします」と、言って真理が持って来たドリンクを、
清算すると真理は小銭を出してお釣りを貰った。
真理はその時、玲菜に微笑んで店から出て行ったのであった。
真理が立ち去った後、思いに更ける玲菜であった。
やはり浜の噂は広がりが早く、
元アウトローの集団であるヘッドは、
更生したとは言えその名は今でも健在で、
竜彦は誰よりも喧嘩も強く、度胸も据わっていた。
彼が更生した事は巷では驚きであった。
その彼女だと玲菜の噂が立てば、
手荒な真似は出来ない浜の若い連中である。
真理はそこが狙いであった。
真理は長年同じワル仲間と巷では囁かれて来たが、
彼の優しさは真理がよく知っていた。
そして竜彦の生い立ちも。
女の勘か玲菜は、竜彦に相応しいと判断したのか、
玲菜と竜彦の行く末を、アシストして上げたかった様である。
そして一週間が経ち、平日の昼間の古びたスケートリンクには、
人の気配がまったく無かった。
そこに一人ベンチシートに座る竜彦は、リンクを見詰めていた。
すると青いユニフォームを来た、
女性のスケーターが、扉を開けて出て来た。
その時、竜彦は振り向きもせず、ただリンクを見詰めていた。
スケーターは静かに氷のリンクに降り立ち、そっと滑り始めた。
そう玲菜である。
玲菜はベンチに座っている竜彦など気にせず、
ただリンクの外側を滑り回り続けた。
三周程回った所でリンクの真ん中に滑り立ち、そこで静止した。
すると左足をそっと前に出すと、スマートなフォームで回転し始めた。
三回転した所で竜彦は座っていたベンチから立ち上がり、
リンクの縁に両手を乗せて彼女を見詰めたいた。
すると玲菜は竜彦の前に滑って来た。
そして、「この間は有難う」と、声を掛けて来た。
竜彦、「ここがお気に入りの様だな。
巷ではもう既に噂に成っているよ。
あの古びた大滝スケートリンクには、
妖精がいる」と、告げると玲菜ははにかみ、「妖精だなんて、
今の私にはそんな美しさはないの」と、告げてまた竜彦の前から離れて、
中央付近で軽く滑っていた。
今このリンクは二人だけの物に成っていた。
竜彦は玲菜を見つめながら、「少数だけど、
噂を聞き付けた物好きな野郎が、君を見にここに来ている様だよ。
それに気づいていると思うけど」と、問いかけると玲菜はまた、
竜彦の前に滑って来て、「元、地元では一目置かれる存在の、
デスアローゼヘッドの彼女が、このリンクで滑っているから、
手を出すなって」と、首を傾げた。
竜彦はその時、微笑んで、「俺はそんな噂は流してないぜ」と、
否定すると玲菜は、「私もその事に対して否定はしてない」と、
言ってまた竜彦の前から放れた。
竜彦、「あのガキ共と、ここに来たのが原因だ。
そこから噂が広まっている」と、
弁明すると玲菜は竜彦の前を滑りながら、
「居酒屋の若いお客が噂していたのを聞いたの。
私に気づいて無い様子で、
『大滝スケートリンクには妖精が居るが、
その妖精に目を付けたのが、有名な拳と度胸で横浜では、
幅を利かせていたあの勝田 竜彦。
十対一で喧嘩させたら、勝つ奴は居なかった』と、噂していたの」。
それを聞いた竜彦は大笑いで、「それは大げさだな。
十対一で喧嘩して敵う訳がないだろ」と、
切り返すと玲菜は、「十対一で喧嘩させたら誰にも負けないけど、
子供三人には敵わないのね」と、からかった。
竜彦、「見ていたのか、このリンクから君が去った後に」と、
問いかけると玲菜は、竜彦の前を滑りながら、
「掃除のおじさんから聞いたの。
私が去った後、子供にからかわれて、
リンクで子供達を追いかけていたけど、
どの子供も捕まえられなかったって」と、微笑んだ。
この時ばかりは竜彦も、さすがに照れながら、「やられたよ、
あの悪ガキ共には」と、はにかんだ。
それを見た玲菜は竜彦の前で佇むと竜彦は、
「君はリンクの上では強いんだな」と、
人差指で玲菜のおでこをつつくと、
玲菜はつんとした顔をして背けて、また中央に滑って行った。
そんな玲菜に竜彦は、「プライド高いんだな、
リンクを降りるとそうは見えないけど」と、問い掛けた。
玲菜はリンクで滑りながら、「あなたの知り合いの女性にも言われたわ。
自分ではそうは思わないけど」と、
否定すると竜彦は、「真理が居酒屋に来たのか」と、尋ねた。
玲菜はリンクで舞いながら、「何も聞いてないのね。
先週嫌な若い男二人にコンビニで絡まれたの。
その時、私は助けて貰ったみたいで、
その真理さんが、『では何故、竜彦には夜働いている店を教えたの
少しプライドが高い』って」。
そこで竜彦は付き合いが長い、
真理の事で勘が走り、「その嫌な男達に浜では俺が元悪名高い、
デスアローゼヘッドのヘッドだと告げて、
今噂が広がっている訳か。
あいつ浜のふらつきから、君を守る手段を取ったな」と、察した。
すると玲菜は滑りながら、「嬉しかった」と、呟いた。
竜彦はその事に対して、何も答えなかった。
玲菜、「個性の無いスケートしか知らない、
見知らぬ私を助けてくれるなんて。
竜彦君もその知り合いの真理さんも」と、答えてリンクから上がり、
扉を開けてこのリンクから立ち去ったのであった。
竜彦はこの時、心の中で真理に感謝するのであった。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html