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第二章、バイト

この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。

尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。


そして三日後の日曜日、



竜彦は弘美の両親が経営する、喫茶店で食事をしていた。



鉄板ナポリタンを食べながら、



店主の秋山 清二とカウンターを挟んで秋山が、「悪い事したな、



弘美をスケート場に連れて行ってくれたらしいが、



その分の代金を払うよ。



お礼に今日の所はナポリタン奢から」と、面目無さそうな顔付きで謝った。



竜彦はナポリタンを食べながら、「大した金額では無いからいいですよ。



それに奢って貰うとここ来辛くなるから、



そんなに気を使わないで下さい」と、



秋山の好意を遠慮した。



秋山はやはり面目無さそうに、



「悪いな親が客商売だと、娘と遊んでいる暇が無くてな。



商売は軌道に乗っているが、



親子とのスキンシップが疎かになってしまって、



その肩代わりを何時もさせてしまって」と、頭を一つ下げた。



すると竜彦も面目無さそうに、「水臭い事言わないで下さいよ。



俺が画家に成れたのは、秋山さんの力添えじゃないですか。



俺の絵を秋山さんの知り合いの、



絵画鑑定士の水野さんに紹介してくれたから、



今の俺が有るんです。



秋山さんに足向けて寝れませんよ」と、謙遜した。



秋山、「それはお前の才能が有ったからこそさ。



俺はただ知り合いを紹介しただけで、



水野のお目に適ったお前の実力だろ」。



竜彦、「そんな事無いですよ、



俺はただ遊びで路上に悪戯描きしていた、



単なるふらつきなだけでしたから。



そこから拾い上げてくれたのも秋山さんだし、



頭が上がりません」と、深々と頭を下げた。



その時、秋山は微笑んで、「確かに今は大分落ち着いたな。



あのまま港のふらつきでいたら、



今頃マフィアの仲間だぜ」と、忠告すると、



竜彦は苦笑いで、「ヤバかったです」と、



また頭を下げるのであった。



するとそこへ二人、男性と女性客が店を訪れた。



一人はサーファーの様で、冬でも肌は日焼けしていた。



もう一人は女性でスタイルも良く美人で、



落ち着いた雰囲気の様相である。



その男性が竜彦が座っているカウンターの左隣に座り、



女性は竜彦の右隣に座った。



そして二人はニヤニヤしていた。



それを見た竜彦は、「なんだよ、何か良い事でもあったのか」と、



二人に問いかけると男性は、「惚れたな」と、叫んだ。



女性も笑い出し、「惚れた惚れた」と、同調した。



竜彦は顔を強張らせて、「あのガキ共、



お前らにもう話したのか」と、尋ねると、



女性が、「もうあのやんちゃ共、大騒ぎだよ」。



男性、「兄ちゃんねえ、凄く優かったのだってさ」。



竜彦、「それ弘美が告げ口したのだろ」と、悟った。



女性、「ちょっと嫉妬してる気配もあるけどね」。



男性、「あれは半分焼いてるな」と、忠告した。



それを聞いた秋山は、「あいつ生意気に、



『兄ちゃん一目惚れだよあれは』と、



騒がしかったぞ」と、大笑いであった。



それを聞いた竜彦は、



ホークを鉄板の上に置いて首を傾げて、



「そんなんじゃねーのに」と、誤解を解いた。



女性、「あの子、竜彦に甘えてるから、他の女性に優しくすると、



無意識に許せなくなるのよ」と、悟ると男性が、「真理の言う通りだな。



女のジェラシーは怖いぜ」と、脅かした。



すると真理は、「そうだね亮も相当やらかして苦労してるからね」と、



中傷すると亮は何も言えなくなるのであった。



中島 亮(23)竜彦の悪友だったが、今はプロのサーファーであり、



常にはサーフショップに勤めるスタッフであった。



伊丹 真理(23)やはり竜彦の悪友であったが、今は美容師である。



三人は高校時代に知り合い、互いに中退して不良だったが、



当時リーダー格であった竜彦が更生して、



画家を目指した事に見習い、この二人は自力で技術を学び



今に至る仲間達であった。



真理、「雄太が言ってたけど、



まるで妖精の様な綺麗な人だったとか。



あの古めかしいスケート場で、スケートを練習している子なんて、



初めて聞いたけど、どう言う素性の子なのかな」と、考えていた。



すると亮が急に震えだし、「オイオイ、



あのボロボロの昭和も懐かしい様な佇まいの、



大滝スケートリンクで妖精みたいに滑っている、



スケーターとはもしかして、幽霊じゃねーのかよ」と、



告げると竜彦は呆れて、「ばーか、立ち上がらせた時に、



手に温もりが有ったよ」と、訴えた。



秋山、「それで弘美が言うには、大きくジャンプして着地に失敗して、



氷の上に体を酷くぶつけて、竜彦が立ち上がらせて立ち去る途中、



目に薄っすら涙が溜まっていたと聞いたが、



痛かったせいで泣いていたのでは無く、



何か深い訳でもある様な気がするが」と、悟った。



するとまた亮が、「やっぱり幽霊じゃねーのか。



戦前から在りそうなスケートリンクだから、



オリンピックに出たかったけど、



戦争で出場出来なくて、



その思いが幽霊と化してあそこで滑っているとか」と、



脅かすと秋山も、「ばーか亮、確かに古い個人経営のリンクだが、



立てられたのは昭和38年で、



東京オリンピックが開催された年に作られ、



当時はスケートは流行りで、大勢の人で賑わっていた様だ。



俺はまだ生まれてなかったが、俺が幼い頃はだな、



日曜日になれば大勢の人が、スケートを楽しんでいた。



いつの間にか流行がすたり、



今は広告出しても、差ほど人は集まらないだろうが、



人が疎らな分だけ、練習し易いから滑ってるのだろ」と、悟った。



竜彦、「俺がガキの頃も普段は人も疎らで、



親父が昔スケートが得意で、



俺を連れて大滝スケートリンクに来るのが、



週末のお決まりパターンだった。



俺も徐々に上手くなり、



たまに中坊の時に暇だと一人であそこで滑っていたな。



とにかく安くて、500円で何時間でも滑りたい放題だから、



退屈凌ぎにはなってた。



随分スケートなんて滑ってなかったけど、



たまには滑るのも良いもんだなと思ったよ」と、語った。



話も弾み喫茶店で別れた仲間達は、職場に戻る様であった。



竜彦はバイクに跨り、エンジンを掛けてバイクを走らせた。



走りながらタバコが吸いたくなり、



路上で目に付いたコンビニの駐車場で、



バイクを停め皮ジャンの胸ポケットから、



ジッポと外国のタバコを出した。



コンビニに置いてある灰皿に歩いて行き、



タバコを握ると感触が無い。



しかたなく空のタバコの箱をゴミ箱に捨てて、



コンビニの店内に来店した。



そしてレジに佇み店員の顔も見ずに、



俯き加減で自分が吸っている、



タバコの銘柄を告げると店員も客の顔を見ずに、



レジフロアーの壁側に設置されている、



タバコの棚からタバコを探して清算した。



260円になりますと告げられ、竜彦はハっとして顔を上げた。



店員もその竜彦の表情に驚いた。



そうその店員は大滝スケートリンクで滑っていた、妖精であった。



その時、二人は見詰め合った。



だが客と店員の立場が二人の脳裏に過ぎった。



店員は一瞬躊躇ったが、即今置かれている立場をわきまえ、



冷静な顔付きで、竜彦が金を出すのを待っていた。



竜彦も客としての立場をわきまえ、金を店員の前に小銭で出すと、



微笑んで、「有難う御座います」と、頭を下げた。



この時、二人の心に何かが芽生えたのであった。



何も言えない二人であったが、竜彦は買ったタバコの封を開けながら、



店内から出て行き、置かれていたコンビニの灰皿の前で、



タバコに火を点けて、タバコをその場で吸ったのであった。



何気なくその姿を店内から見ていた、大滝スケートリンクの妖精は、



レジを他のアルバイト店員に交代して貰い、店を出て竜彦の前に佇んだ。



それを見た竜彦は、「こんな所でバイトしてたのか。



てっきりお嬢様だと思ったけど」と、



告げるとバイトの女性は、「スケートが出来る女の子は、



世間から見ると、お嬢様と言われがちなの。



私はそんな事は無いの、



自分で稼いで、自分の趣味を楽しんでいるだけ」と、



答えると竜彦はタバコを吸いなが、



「あれが趣味レベルと言えるのか。



トリプルアクセルが出来るレベルで、



趣味と言えるとは到底思えないぜ」と、



悟ると女性店員は切ない顔付きになり、



「色々訳が有るの」と、答えた。



竜彦も俯き加減で、「訳は誰でも有るさ。



これ以上聞かないよ、俺もあまり自慢出来る人生を、



歩んで来た訳では無いから」と、



喘ぐと店員は俯き加減で、「あの時は有難う、



恥ずかしい姿を披露してしまって」と、顔を赤らめた。



竜彦、「あのボロボロの大滝スケートリンクで、



妖精が滑ってると言う噂がその内広がるぜ。



大昔から横浜の連中は、噂を広げるのが何より好だ」。



女性店員、「それって私の事」と、



尋ねると竜彦は一つ溜息を付いて、「もう俺のダチがあんたの事を、



『あそこに昔からの怨念をいだく、



幽霊ではないか』と、思っている様だから、



サーファー連中には話を十倍にして話すだろうし、



あの演技は趣味レベルで行える様なもんじゃない。



プロを彷彿する様な華麗な滑りは、ただ者じゃない」と、



探ると女性店員は、「挫折したの。



オリンピックを目指して練習に励んでいたけど、



練習中に足を挫いてから、滑る事がトラウマになり、



それでも夢を捨てずに練習に励んだけど、



オリンピック候補から外されて、ホームグラウンドを捨てて、



コーチから目が届かない所に身を潜めた」と、語った。



竜彦はタバコを吸いながら、「浜っ子ではない様だな。



でも噂が県外に伝われば、



コーチの耳に入るのではないのか」と、



警告すると女性店員は、「大丈夫コーチは一度捨てた選手は、



追わないから、ただ」と、言い掛けて口を摘むんだ。



竜彦、「ただ故郷から離れて、捨て切れない夢を追いかけている。



宛ての無い夢だけど、誰にも束縛されないリンクを見つけて、



そこで僅かな可能性を追いかけてる」と、



心の内を探ると女性店員は俯いて、「あなたは鋭い人ね。



何となくあの時、あなたに手を差し伸べられた時から、



気づかれている様な気がしてた」そう言って顔を上げ微笑んで、



私の名前は中原 玲菜 十九よ。



高校を卒業してから静岡県の浜松市で働き、



この横浜に流れて来たの。



故郷は愛知県の名古屋だけど、親元離れて朝はここでバイトをして、



夜はまた居酒屋でバイトをして、生計を立てているの」と、



自己紹介をすると竜彦はタバコを消して、



「俺は昔から地元育ちで不良だった。



今は更生して画家をしている。



運良く拾われてな、まともに飯食わして貰っているよ。



名は勝田 竜彦、生い立ちはボロボロ。



だが良い知り合いに巡り合えて、今は順風満帆だな」と、



告げると玲菜は、「私もあまり生い立ちは語りたくはないの。



私はいつもあのスケートリンクかこのコンビニか、



夜は8時まで本牧和田の郵便局の隣の、



雲海と言う居酒屋で働いているから」と、告げて店内に戻って行った。



それを見詰める竜彦だったが、バイクに戻り跨りエンジンを掛けて、



ヘルメットを被って立ち去るのであった。

オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html

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