第十五章、相談
この物語はフィクションで、登場する人物や建物は実際には、存在いたしません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。
あの出来事から五日後、
今日は竜彦の実家に玲菜の母親を招いていた。
無論、この間の大滝スケートリンクの出来事も話して、
撮影したVTRも見て貰った。
そして告訴するかどうかを、玲菜の母静香と話し合っていた。
静香を向かい合わせにテーブルを挟んで、
玲菜と竜彦がソファーに座っていた。
だが全て未遂で終わっていた為に、慰謝料を要求したとしても、
逆にこちらが裕子に金を払っても、
金で裕子が玲菜から放れてくれる訳でも無く、
実刑判決が下されたとしても、罪は軽く直ぐ釈放されてしまうので、
徹底的に気が狂ってしまった裕子を玲菜から、
突き放す手立てにはならなかった。
仕方なく話を変える母静香であった。
静香、「ねえ竜彦君。
作品の報酬の事なんだけど、玲菜の作品の報酬は全て、
竜彦君の利益にしていいのよ。
もう婚約している事だし。
今まで玲菜の事で、大変お世話になってしまっているし、
玲菜をここまで幸せにしてくれたのも、竜彦君のお陰だから」と、
敬うと竜彦は微笑み、「いや、その事で玲菜とも話し合いまして、
これからは一つの口座を作り、そこに報酬を入金する事にしました。
二人が下ろせる口座と言う事で、
これから暮らして行く為の資金にします」と、告げた。
それを聞いた静香は気が楽になった様子で、「そうね、
これから夫婦としてお互い補って暮らして行くのだから、
その方が良いと思うわ。
私もこれから竜彦君の絵画の手助けとして、
売買する時は私がサポートさせて貰いますね。
美術商との商談には私が応じますから、
竜彦君は創作活動に専念して下さい。
これでも昔は不動産を切り盛りしていたから、
売買契約の事に対しては、ちょっと自信が有るのよ、
高値を付ける事には」と、誇りを持っていた。
竜彦、「それは頼もしいです。
いずれにせよ玲菜を描いた作品には、高値が付きますから、
その分の中間マージンを多く取って頂き、
お母さんの利益にして下さい。
これで俺が玲菜を描き、それを玲菜のお母さんが売る。
そしてその儲けと我々の報酬の差額を、
多く取得しても構いません」と、
母が有利な契約を結ぶと静香は、「竜彦君は優しいのね。
私まで補ってくれるなんて、娘が何だか羨ましいわ」と、尊敬した。
すると玲菜は顔が強張り、「あまりお母さんの取り分の差額を多く取って、
生活費に回さないでよ。
私達だって生活して行くお金が要るのだから」と、忠告した。
静香、「そんなに心配しなくても、
私はちゃんとあなた達の事を考えているわ」と、
言い返すと玲菜は信じ切れなかった。
それを見た竜彦は静香に、「玲菜は今ちょっと人間不信に陥っていまして、
裕子の事で大分ショックを隠し切れない様子です。
幼い頃、半分母親代わりだった裕子が、
ナイフを自分に突きつけた事が、ショックで堪らない様です。
なので実の母でもつい心の中に蟠りが出来てしまい、
疑い深くなります」と、告げると静香も罪悪感に駆られた。
静香、「ごめんね玲菜。
土日休みなら日曜日は遊んで上られたのに、
母親としてズルかった事が、
今の悲劇を招いてしまったのかも知れないわね。
日曜日も私は仕事に疲れて、家でゴロゴロしていたから、
玲菜は日曜日でもスケートに励んでいたわね」と、後悔した。
すると竜彦は、「それは仕方がありません。
俺の母も父が浮気をしていて、
日曜日でも父は愛人の家に入り浸りで、母は毎日酒浸り。
俺も寂しい毎日を送りました。
それに比べれば玲菜はまだ幸せです。
玲菜はまだ二十歳です。
なのでこれからお母さんは玲菜を慕って頂いて、
玲菜と遊びに行って欲しいと思っています。
俺の描いた作品を高値で売ったらそれを元手に、
暇を見て一緒に遊びに出かけて下さい。
お金には余裕がありますので、
生意気ですが俺の作品の売り上げで、
暮らして頂く様に願います」と、頭を下げた。
その意味は母静香は今の仕事を辞めて、
竜彦の絵画を売って生計を立て、
この家で一緒に暮らすと言う事を伝えたかった。
そんな粋な計らいに、心打たれたのは玲菜であった。
こんな最高の幸せが飛び込んで来たのにも関わらず、
裕子が自分の周りをうろうろする事に、恐怖から恨みに変わり、
玲菜は裕子に殺意を抱いたのであった。
逆に今度は裕子を、地獄に落とそうとする思いを抱いた。
それも全て竜彦の計算通りであった事は、
玲菜は気づかなかったのであった。
竜彦はこれから愛した女性の柵を解き放ち、
玲菜には最高のシナリオを描く、アーチストに成るのであった。
その夜の事である。
竜彦の両親が出て行ってしまったこの邸宅には、
玲菜と竜彦しか住んでは居なかった為、
竜彦の両親の寝室は、何も手が付けられておらず、
両親が出て行った時の、ベッドもそのままの形で残されていた。
従い事前に玲菜が布団などを、クリーニングに出していて、
直ぐ玲菜の母が来て泊れる準備が整えられていた。
今日は竜彦を交えて家族水入らずで、夕食を共にしていた三人は、
久しぶりに味わう一家団欒の夕食を満喫していた。
その夜、母静香は竜彦と二人だけで、話したい事があるとの事で、
竜彦は静香を行き付けのダーツバーに誘った。
そしてダーツバーに、静香と竜彦が足を運んでいた。
カウンターの椅子に、隣同士で座る竜彦と静香は、
竜彦はいつもの様に、ウイスキーのロックを頼み、
静香は店のオリジナルカクテルを呑んでいた。
すると静香は酔いが回った様子で、大胆な事を口にする。
静香、「あの子、営みはベッドで燃えるでしょう。
私がそうだった」と、訪ねると竜彦は答え様が無く、
ただはにかんで頭を掻いていた。
そして静香は一方的に話し始めた。
静香、「初めて夫と出会った時は、私が二十歳だった。
不良で大きなバイクに乗っていて、
私はホームステーでカナダに居たの。
そこの家がレストランを経営していて、
私はそこで手伝いとして働いていたら、
大きな音立てて、仲間と 一緒に黒い皮ジャンを着て、
サングラスをしてレストランに入って来た。
そのヘッドらしき大柄の男が怖くて、
それでも仕事だから仕方なく、黙って注文聞きに言ったら、
サングラスを外して、ハンバーガーとコーヒーを注文したの。
かなり強面だったけど、少年の様な眼差しに何となく私は心引かれた。
その強面の男性は私を気に入った様で、
いつも店を訪れ、私がその男に注文を聞きに行くと、
私だけはチップを弾んでくれた。
常連客で身形とは違う彼の優しさに、
自然と引かれてしまった私がいたわ」。
それを聞いた竜彦は微笑んで、「お母さんは美人だから、
玲菜の父に、 一目惚れされたんですね」と、悟ると静香は、
「あら、竜彦君はどうなの。
玲菜を最初見た時どう思ったのかしら」と、
からかうと竜彦は苦笑いで、
「弘美、勘が冴えているのは良いのですが、
それを口に出すのが玉に瑕でして。
俺が始めてリンクで玲菜と出会い、転んだ玲菜に手を差し伸べた所を、
カギ共に捉えられてしまった時、
俺の心の内を言われそうな気がしましたが、
案の定、口のされてしまいました」と、はにかんだ。
それを聞いた静香は笑い、「惚れたなって」と、伺うと竜彦は、
「あの時、何かお互い通じ合う物が、有る様な気がしました。
それは愛情です。
彼女の寂しそうな眼差しは、今でも忘れられません。
僕もそうでした。
愛情に飢えている様な眼差しが」と、
思いに更けると、ウイスキーを一口呑んだ竜彦。
そんな竜彦を横で見詰めながら俯く静香は、
「夫と私は、出合って間もなく恋に落ちた。
彼も竜彦君にそっくりで、不良だったけど私と付き合う様に成ると、
自ら更生して自力で不動産を立ち上げたわ。
やはり親子なのね私達。
出会う運命の男や、好きに成るタイプも同じ」。
竜彦、「結局俺と玲菜は裕子が居なければ、
出会う事が出来なかった。
でも裕子にそれを感謝し様にも、
彼女は悪魔に成ってしまった状態では、受け入れません。
なので裕子に我々とフェアーな立場で望む様、
要求しても彼女は聞く耳を持ちません。
無論端から俺は土台無理な話だとは思って、
裕子と話し合い、玲菜の気持ちを汲んで上げ、
裕子と玲菜の本音を互いに伝える事が、俺の役目だと思いました。
それは真理も、同じ気持ちだったと思います」と、
告げると静香も思いに更けた。
そして静香は、「その発端は私が夫を亡くしてしまった事が、
全て裏目に出てしまう結果に出たのね。
夫は更生してもバイクは好きで、それだけが唯一の趣味だった。
カナダは寒い土地だから、冬には道路が凍結する。
その春先の出来事。
まだ溶けない山道の氷の上を 一人でバイクに乗って、
走行中にタイヤが滑り、転んで自分は道路に投げ出されて、
運悪く反対車線から車がやって来て、頭部を引かれてしまった。
私は路頭に迷ったけど、この土地で夫と事業を営み、
夫が自力で積み上げて来た不動産を潰すまいと、
幼い玲菜を抱えて経営に望んだけど、カナダもその時から景気が傾き、
どんどん地価は下落して行ったわ。
遭えなくこれ以上赤字が膨らんだら、
夫の残してくれた財産は全て無くなる事を懸念して、
夫の兄に事業を託し、私は玲菜を連れて日本に帰国した。
そして両親の実家に転がり込んで、
私は出版社の編集部に所属する事が出来た。
英語もそこそこ堪能だったので、翻訳の仕事などにも回されて、
その報酬も多く、しばらくしてマンションを買い、
玲菜と一緒に住む事を選んだ。
カナダの夏はとても心地よく、森林がとても綺麗で過ごし易いけど、
冬になると雪に覆われ気温も、
マイナス二十度から三十度に達してしまう。
子供が冬に遊ぶとなると、身近な所ではスケートだった。
湖は氷付きスケートをただで楽しめた。
スケートリンクも、日本よりかは格安値段で滑る事が出来ると、
安全で尚且つ一人で遊ばせる事が出来て、職場から近かったせいもあり、
玲菜の幼少期はスケート教室に通わせた。
日本に帰国しても、名古屋と言う土地柄でスケートは盛んだった。
玲菜は自らスケート教室に通う事を望んだ。
私も収入はそこそこ有ったから、通わせる事に迷いは無かった。
でもその行く末に、こんな悲劇が待ち受けているなんて、
思いもしなかった」と、
嘆くと竜彦は、「俺はバイクはもう乗るのを止めました。
理由は近所迷惑と言う事でして」と、恥かしそうに頭を掻くと、
静香は微笑み、「竜彦君だけが近所から、咎められるのは平気だけど、
今度は玲菜まで悪く言われる事が、辛いからでしょう」と、
察すると竜彦は面目無さそうに、「その通りです」と、頭を下げた。
それを見た静香は笑いながら、「玲菜には弱い様ね。
横浜のドンも妖精には逆らえな様ね。
私の夫も街のドンだったけど、私の言う事はよく聞いてくれたわ。
そっくりね」と、からかうと竜彦は、
「今まで女には強かった方ですが、玲菜には弱いんです。
産まれて初めて俺は、怖いと言う事を知りました。
それは玲菜を失う事です。
そして産まれて初めて、最高の怒りを感じました。
裕子と言う女に。
俺は今まで向かって来る者に対しては、暴力を振るって来ました。
つまり力で来る者には、力で捻じ伏せて来た。
ですが玲菜と知り合ってから、玲菜を守ろうとする時、
暴力では解決しない物がある事を痛感しました。
それは真理も同じ事を思っているはずです。
裕子をこてんぱんに殴る事は容易い事です。
あの時、本当にそうしたかった。
俺の大事な玲菜の首に、
ナイフを付き付けた俺の怒りは、耐え難い物が有りました。
でも玲菜には裕子の思い出が有ります。
昔は母親代わりであった事実は拭い切れません。
恥ずかしながら俺は今まで、
人の気持ちなど解ろうとした事は、有りませんでした。
裕子と同じで、自分本位な生き様を貫いて来ました。
玲菜に教えられました。
玲菜はまず自分の事よりも、先に人の事を考えて上げられます。
だから俺達の仲間に愛された。
弘美の事も考えてくれた玲菜を、大切にしたいと感じました」。
その時、静香は竜彦と亡くなってしまった夫と照らし合わせ、
竜彦は我が 一人娘に、最も相応しい人物だと感じて成らなかった。
それは竜彦は亡くした夫が与えた、
玲菜に最も相応しい男性だと、確信を持ったからである。
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1536491.html




