第一章 一目惚れ
横浜市の寂れたスケートリンクに、近所の子供達にせがまれて、
久しぶりにスケートを滑りに来た勝田 竜彦は、
そこに現れる氷の妖精を見てしまう。
妖精は悪魔に追われていたが、人々の力で悪魔を追いやるのである。
アイス エルフィン
(氷の上のやんちゃな妖精)
原作:シャイニーパステルムーン
(松本 誠也)
The world of the Holy Mother
†
ここは神奈川県横浜市。
閑静な住宅街にドカドカと音を立てて、
アメリカンバイクで走って来た若者がいた。
彼は自宅に到着したらしく、バイクを家の前で止めて、
エンジンも止めた。
バイクから降りてヘルメットを取ると、
自宅に隣接している車庫のシャッターを開けた。
何気なく若者は、「あーあ、バイクの吹けが悪くてしょうがないな。
そろそろキャブ交換しないと、
その内止まるな」と、嘆きながら着ていた、
黒い皮ジャンのジッパーを下ろし、バイクを車庫に入れた。
勝田 竜彦(23)勉強は苦手ではあったが、
若くから絵画の方では才能が有り、横浜港の壁に落書きをして、
その落書きから認められた、アウトローからの成り上がり者である。
するとそこへ、近所のやんちゃな子供三人が訪れた。
広川 翔太 七歳、秋山 弘美 七歳、川田 雄太 七歳、
同級生でもあり、近所に住む仲良しであった。
翔太が車庫を訪れ、バイクを点検している竜彦に、「よう兄ちゃん、
今日もバイクが彼女かい」と、
尋ねるとそんな生意気な七歳児に、一つ頭に拳骨を食らわした。
竜彦、「相変わらず生意気なガキ共だな。
今日は休みなのか」と、
呆れると翔太は、「兄ちゃんだって『昔は生意気なガキだった』と、
爺ちゃんが言ってたぜ」と、言い返した。
竜彦はバイクのキャブをいじりながら、
「お前ほどではないよ」と、呟いた。
すると弘美が、「竜兄ちゃんは、今でもやんちゃ坊主だと、
私のパパも言ってたよ」と、訴えた。
すると竜彦は弘美に振り向いて、「秋山さんがか。
余分な事ガキに吹きこみやがる」と、やはり嘆いた。
そして雄太が、「オイラの父ちゃんも、
『やんちゃだけど悪い奴ではないな』と、
隣の大下さんと話していた所見掛けたよ」と、
告げ口すると竜彦は一つ溜息を付いて、
「あーあ、近所じゃー悪名高い訳だな俺は」と、
嘆いたのであった。
竜彦は二年前に両親が離婚してしまい、自宅だけを竜彦に残し、
両親が自宅から出て行ってしまったのであった。
竜彦もアーチストだけに、報酬も多く家を受け継ぐだけの財力が有り、
崩壊した家族では有ったが、唯一の救いとも言えたのである。
すると弘美が急に騒ぎ出した。
弘美、「ねー兄ちゃん、スケート行こうよ」と、せがんだ。
そんな弘美に竜彦は、「なんだよ藪から棒に」と、顔を強張らせた。
弘美、「あのねあのね、
今日は金沢区の、大滝スケートリンクが半額なの」と、
せがむと子供達も、そんな弘美の唐突な発言に言葉を無くした。
竜彦も首を傾げて、「なんで突然そこでスケートなんだよ。
お前その前にスケートなんてやった事あるのか」と、
尋ねると弘美はあっさり「無い」と、一言。
子供達と竜彦は軽くコケた。
すると雄太が、「スケートって寒いよね。
僕は寒い所は苦手なんだけど」と、引いた。
それを聞いた翔太は、「今日だって外はかなり寒いぜ。
どうせ寒いのだから同じだろ」と、
語ると竜彦が笑いながら、「ちげーねー」と、答えた。
弘美、「雄太のいくじなし」と、
言い放つと雄太は顔を強張らせて、
「いくじが無いのじゃなく、寒いのが苦手なの」と、怒った。
竜彦、「それはさて置き、
弘美は何で急にスケートを遣りたくなったかだが、
どう言う風の吹き回しなんだ」と、
尋ねると弘美は俯き加減で、
「だって今日、家にスケートリンクの広告が入って来て、
見ていたら行きたくなったんだもん。
ママは今日は仕事だし、パパも仕事だし」と、だだを捏ねた。
竜彦、「当たり前だろ。
秋山さんも奥さんの明子さんも、喫茶店を切り盛りしてるのだから、
平日のこんな時間に、余裕かまして遊んでいる訳にも行かないだろ」と、
咎めると弘美はぐずっていたのであった。
仕方なく自家用車で子供達を、
スケートリンクに、連れて行く破目になる竜彦であった。
早速四人は親が乗っていた今は、
竜彦所有のの1BOXカーに乗り込んで、
大滝スケートリンクに向ったのであった。
到着すると駐車場に停めてある車は疎らで、
四人は車を降りて、スケートリンクのチケット売り場に向かった。
四人分のチケット代金を竜彦が払い、
リンクのフロントに足を運んでも、
人の気配は無かった。
フロントの若い女性にチケットを渡し、
四人はスケートシューズを借りるフロアーに足を運ぶと、
スケートなど行った事が無い子供達は、ドギマギしていた。
早速係りの男性に、自分の足のサイズを全員告げると、
靴を一人一人渡されたが、
スケートシューズなど履いた事が無い子供達は躊躇っていた。
フロアーのソファーに座る子供達の前に竜彦がしゃがみ、
一人一人子供達に靴紐を靴の穴に通して、縛って上げていた。
そして自分もソファーに座ると、
手馴れた手付きで自分もシューズの紐を縛った。
そして立ち上がり、「よーし、リンクに行くぞ」と、
子供達に告げると、気合を入れて子供達は、「おー」と、
叫んでシューズを履いたまま覚束ない足取りで、
リンクに向かうのであった。
リンクに佇む四人ではあったが、他の客は二人しかおらず。
若いカップルで、手を繋いではしゃいでいる姿しか見受けられなかった。
早速竜彦だけ氷のリンクに降り立つと、一人で滑り始めたが、
直ぐ様子供達の前に来て、
「お前らまずは氷の上に立って見ろ」と、指示すると、
怖い事を知らない子供達は、
竜彦が簡単に滑れるのならば、自分達も滑れるだろうと、
躊躇しないで氷の上に立った。
子供達は立つまでは良かったが、いざ滑ろうと足を前に出した瞬間、
子供達三人はバランスを崩して転んでしまった。
それを見て笑う竜彦であった。
だがやんちゃ小僧三人は負けず嫌い。
なんとか上手く滑ろうと、フラフラしながらも、
独自の運動神経で必死に転ぶまいと、
バランスを保ちながらギクシャクしながらも、
滑る事が出来ていた。
それを見ていた竜彦が子供達に、「おお、上手い上手い。
その調子でコツを掴めば、時期にスムーズに滑れる様になるぜ」と、
習うより慣れろの精神を叩き込むかの様であった。
しばらく子供達の様子を見てサポートに入る竜彦。
コツを教え始め、一人一人手を引いてサポートしていた。
そして子供達は個人個人グラ付きながらも、
自由にリンクを滑っていると、
フッと誰かがこの四人の前を横切った。
軽快に氷の上を滑る音と共に、
青いスケートユニフォーム姿の若い女性が、
リンクの端から端まで軽快に滑る姿を、
目の当たりにする四人は滑る足を止めた。
すると急にリンク中央に佇み、
滑り出すとそこでスピンターンを始めた。
年の頃は十七歳位で、ハーフの様な顔立ちの女の子であった。
ショートカットのヘヤースタイルで、
スケーターで有ると確信出来るような姿で、
縦横無尽にリンクを滑っていた。
時よりこの四人の前を通過したり、時には離れたりと、
まるで氷の妖精が、この四人をからかっている様な滑り方であった。
竜彦もその姿を氷の上で佇み見詰めていた。
リンクの中央で急にジャンプする姿に、
心奪われるリンクに居る疎らな客であった。
その女の子は腰に両手を回して、
子供達の周辺で滑るとなんとなく微笑んだ。
子供達から少し離れて滑っていた竜彦の前に滑って来て、
やはり微笑んだのであった。
竜彦はただボーっと、その女の子を見詰めたいた。
するとその女の子はまた中央に滑って行き、
ジャンプしながら二回転のターンを決めると、
今度はリンクの端の方に滑って行き、
方向を変えてまた中央付近で体を反転させて、
後ろ向きで滑ると体を捻り前向きの姿勢で、
トリプルアクセルを決めた。
そして今度は真顔で、四人の前に滑って来て方向転換すると、
また中央付近で先ほどの様に、
ジャンプすると今度は先ほどよりも、
高くジャンプをした。
またトリプルアクセルを決めて、
氷に足が着いた瞬間バランスを崩して、
氷の上に体を激しく叩き付けてしまった。
しばらく起き上がれないでいた姿を、
目の当たりにした四人は放心状態であった。
すると竜彦がそっとその女の子の前に滑って行き、
上半身を起こした女の子は、竜彦の顔を見詰めた。
竜彦は女の子の前に手を差し伸べた。
そして俯き竜彦の前にそっと手を差し出した。
悲しそうな眼差しで。
その手を掴んで女の子を立ち上がらせる竜彦。
女の子は、青い衣装に付着した細かい氷を手で払い落とすと、
女の子は俯いて、「ごめんなさい」と、一言告げてこの場を立ち去り、
リンクの入り口へとゆっくり滑り出して、氷のリンクから上がり、
大きな扉を開けて、出て行ったのであった。
それを見て子供達が竜彦の前に滑って来て翔太が、
急に大きな声で、「兄ちゃん惚れたな」と、言い放つと、
雄太と弘美も続けて、「惚れた惚れた」と、からかったのであった。
すると竜彦は激怒して、「この生意気なガキ共が」と、
子供達を追いかけ回すが、逃げる時だけは何故か子供達は、
氷の上を軽快に滑り出し、ゲラゲラ笑いながら、
広い氷のリンクに散らばるのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、
建物などは実際には存在しません。
尚この技は架空であり、実際に物理的に出来る技では有りません。