王都工房の買い占め
王都工房の買い占めは、音より先に値段で来た。
ロッコが持ってきた帳面には、鉄くず、古布、古い車輪、割れ魔石の値が赤く書かれていた。
「三日前の倍ですぜ。王都の連中、使い道も聞かずに買っている」
ミナは眉を動かさず、帳面を見た。
「売る人は増える」
「ええ。高く買うと言われれば、辺境の村は売る。悪い話じゃない」
「でも、うちには来なくなる」
「そういう狙いでしょうな」
アルトは作業小屋の釘箱を見た。
鉱山で拾った鉄片のおかげで少し増えたが、防壁を伸ばし、橋を直し、倉庫の棚を作ればすぐ足りなくなる。
「王都工房は、新品を作るために古い鉄を集めているんでしょうか」
ロッコは首を振る。
「使い切れる量じゃない。相手に渡さないための買い方です」
ミナが腰の鍵を弾いた。
「なら、相手の土俵に乗らない」
「どうします」
「買わないで集める」
その日の午後、ミナは村人と周辺村の代表を広場へ呼んだ。
「売るなとは言わない」
最初の一言で、周囲がざわついた。
「王都に売れば金になる。必要なら売っていい。ただし、ここでは金の代わりに修理、塩、粉、灯り、橋の使用を返す。どちらが暮らしに必要か、自分で選んで」
ロッコが横で帳面を掲げる。
「再生村は、材料を受け取るだけじゃありませんぜ。直した物が戻る。水路や橋も使える。帳面に残る信用もある」
アルトは材料表を板へ書いた。
鉄片。
木材。
布。
縄。
割れ魔石。
それぞれに、何へ変わるかを短く書く。
鉄片は釘と金具。
古布は水こしと包帯。
縄は束ねて荷止め。
割れ魔石は弱い灯り。
難しい説明はいらない。
見れば、暮らしの何に変わるかわかるようにした。
老婆が、曲がった鍋の取っ手を持ってきた。
「王都に売れば銅貨になるって聞いた。でも、うちの鍋を直してくれるなら、こっちへ出す」
それが最初だった。
一人が出すと、次が続いた。
大きな山にはならない。
しかし、必要な分が少しずつ集まる。
レムは材料表の前で、持ち込まれた物を黙々と分けた。
「これは鉄。これは錆びすぎ」
ニコが横から聞く。
「錆びすぎはだめ?」
「アルトなら、別の使い方を考える」
レムは当然のように言った。
アルトはその言葉に、胸の奥が温かくなった。
王都では、バルドが同じ頃、買い取り記録を見ていた。
金縁眼鏡の奥の目が細い。
「量は集まっている。だが、質が悪い」
職人が頭を下げる。
「辺境の廃材ですから」
「廃材を買えと言ったのは、こちらだ」
バルドは書類の角をそろえた。
「問題は、使える廃材ほど再生村へ流れていることだ。金だけでは止まらないか」
彼は怒鳴らなかった。
ただ、机の上の古い鉄片を見つめる。
「規格外を使えば、事故が起きる。だが、彼らは事故を起こさず使っている。なぜだ」
バルドはその答えを知りたがっていた。
認めたくはない。
しかし、無視もできない。
夕方、再生村の材料置き場には、小さな箱がいくつも並んだ。
大きな勝利ではない。
けれど、買い占めに潰されない道ができた。
ミナは板の表を見て言った。
「村の強さは、倉庫の大きさだけじゃない」
アルトがうなずく。
「何に変えられるか、ですね」
「それと、誰が覚えているか」
ミナはレムとニコを見た。
二人は材料箱の前で、真剣な顔をしていた。
アルト一人の目ではなく、村の目が増え始めていた。




