五話 最後の一枚
ソラがガミガミと何か言っているが、
ハルは、聞く意識を違う場所へ移したので、
気にならない。
便利な力だ。
ハルの頭の中に、ディナの声が繰り返し聞こえる。
「お母さんは、帰ってきますか?」
大忙しの店は、いつもディナと父親だけ。
心のどこかで、そんな事も考えていたので驚きは少ない。
今の時世的に、片親や孤児はどこにでもいる。
しかし、「帰ってきますか?」とディナは言った。
何か事情はありそうだが、答えが見つかりそうも無いので、
ハルは考えるのを止めた。
そろそろ、ソラの機嫌を取ろう。
ちょうど疲れた頃だろう。
「大体、お前は偉大な私を――」
「変な意味で言ったんじゃないよ」
「誰にも知られたくない事も、あるのかな……って」
「だからと言って悪趣味とは――」
「ごめん……あやまるよ……」
「……まあ、お前がそう言うなら……」
怒り疲れたのか、ソラはあっさり引き下がった。
会話を終えた二人の視線は、
自然にディナの方へ向けられた。
ディナは、いつもと変わらず笑顔で働く。
昼下がり。
ディナの店に、束の間の平穏が訪れる。
昼の片付けを終え、簡単な賄いを二人で食べた後、
夕方の準備を始めるまでの貴重な時間だ。
「こんにちは!」
穏やかだが、はっきりとした声が店に響く。
「あっ……ノア……」
ディナは、声の主を見てそう呼んだ。
「ディナ。今日もお疲れ様。ちょっといいかな?」
ノアは、ディナの目を真っ直ぐ見つめて言った。
「えっと……もうすぐ……夜の準備があるから……」
「行ってこい!」
ディナが喋り終わらないうちに、父親が大声で言った。
「ありがとうございます。おじさん!」
「え……でも……」
ディナは頬を赤く染めながら、あたふたとしている。
「ノア!
そいつは働きすぎだから、少しゆっくりさせてくれ!」
「はい!」
ディナの意思など関係なく、話が進んだ。
「じゃあ、行こうか」
「……うん……」
スタスタと店を出るノアの後ろを、
ディナは前掛けを外しながら追った。
二人は、花畑の横の小さなベンチにやって来た。
「はい……」
ノアは、ディナの為に白いハンカチをベンチに敷いてあげた。
「ありがとう……」
ディナは、礼を言ってその上に腰を下ろした。
「ディナ、忙しいのに付き合ってくれてありがとう」
「……ううん。大丈夫……」
ディナの頬は、ずっと赤いままだ。
「なかなか感じの良い小僧だな」
ソラが呟く。
「そうだね……」
澄んだ目、しっかり伸びた姿勢、
優しい振る舞い。
ハルも、ソラと同じ印象を覚えた。
「ディナは、やっぱり街には出ないの?」
「……うん……店の手伝いがあるし……」
「お父さん……一人には出来ないから……」
ノアはディナを見つめ、
ディナは顔を伏せている。
「そうか……残念だな……」
「僕は、ディナと一緒に街に出て、
二人で色んな景色を見たかったな」
そう言うと、ノアはそっと天を仰いだ。
ディナは、ハッと顔を上げ、
「わたしも……」
と呟いた後、口をつぐみ、また俯いた……。
ノアは、ゆっくりと視線をディナに戻すと、
「じゃあ、せめて明日のお祭りは一緒に踊ろう」
「明日、会場の入り口で待ってるから」
そう言うと、スッと立ち上がった。
「仕事の邪魔してごめん。
明日、待ってるから……」
そう言い残し、その場を後にする。
「待って!」
「わたし……行けない!
……店も……着ていく服もないし!」
ディナは叫んだが、
後ろ姿のノアは、ゆっくり手を振り、歩み去った。
「複雑そうだね」
「そうだな……」
ハルの言葉に、気のない返事をしながらソラは、
ほんの一瞬、ディナの顔から笑みが消えたのを見逃さなかった。
「ディナ……」
少し離れた場所から、父親が歩み寄ってきた。
父親は、ディナの頭にポンと手を置き、話しかけた。
「ノアは、村を出るんだな……
まあ、この街の子供達は大抵そうだ……」
「うん……」
「大きな街に出て、広い世界を見るのは良い事だ」
「……」
「お前達はもう十六。
この村では成人だ」
「うん……」
「行っても、いいんだぞ……」
「行かない……」
「どうしてだ?」
「一人になったら、お父さん……大変だし……」
「店のお客さんも、村の人も好きだから……」
「……気を使うなよ」
「そんなんじゃ、ないよ!」
「本当に行きたくないの!」
「……そうか」
「うん!」
「じゃあ、明日の祭りだけは行け」
この父の言葉にもディナは首を縦に振らない。
「どうして?」
「いつもお祭りの日は、お客さんが沢山来て。
お父さんも一緒に大騒ぎ……」
「そうだな……」
父親は、バツが悪そうに、頬を掻く。
「今までお前は、いつも皆の世話をしてくれたな」
「でも、今年は行け」
「明日の祭り……主役が行かないと始まらないだろ?」
父親は、諭すように語りかける。
ディナは少し黙っていたが、
「お祭りより、店にいる方が楽しいから!」
「それに……」
「着ていく服も無いし……」
「だから行かない!」
そう言うと、いつもの笑顔で店へ走っていった。
父親は、深いため息と共に店へ歩き出した。
その日の夜。
店の二階のディナの自室……
ディナは、白いハンカチを眺めながら、
過去を思い出していた。
親子三人。
お母さんの手料理。
美味しい、美味しいって食べるわたし……。
「ディナの笑顔が一番の幸せ」
お母さんの声。
「手伝ってくれてありがとう」
そっと頭を撫でる、暖かい手。
帰って来なかった、あの日……。
何があったか、わからない。
何処にいるかも、わからない……。
部屋も荷物もそのまま。
お母さんだけがいない。
「神隠しだ」
「事故にでも……」
「男と逃げた……」
好奇の目。
ディナが七つの頃だった。
ディナは、母親の帰りを待った。
笑顔で、一生懸命働く。
それが、最後に薄く残った母親との触れ合いだった。
同時に、ディナの心に絡み付く、
抜け出す事のできない透明な鎖だった……。
ディナは、机にハンカチを丁寧に置き、
洋服の入った引き出しを引いた。
一枚の洋服を持ち、鏡の前に立つ。
真っ白な、フリルの付いたワンピース。
スカートの裾は、優雅に花のように広がっている。
母親の物だった。
年に数回。
ディナと街にお出かけする時には、決まって着ていた。
ディナは、自分の身体にあてがってみる。
小柄だった母の服は、ピタリと合った。
ディナは服を置くと、階段を駆け降りた。
「お父さん!」
「やっぱり……明日……」
「お祭り、行ってもいい!?」
ディナは、父親にすがるように話した。
父親は、少しポカンとした後、
「ああ……行ってこい!」
「店の事はいいから、楽しんでこい!」
そう言って、優しく微笑んだ。
「本当に? 一人で大丈夫?」
「大丈夫だ!」
「でも……やっぱり心配……」
「子供扱いするな」
そう言って、ハハッと笑った。
「じゃあ……本当に行くね!」
「しつこいな……」
「行けって」
「心配ない。明日は父さん、お酒も飲まない」
「だから、行ってこい……」
父親が喋り終わる前に、
ディナは父親に抱きついていた。
次の朝。
そよそよと風に揺れるハルの元へ、
ディナがやって来た。
「お花さん! 今日わたし……」
「上手に踊れますか?」
ディナは、いつものように花びらを散らしだした。
踊れる。
踊れない。
…………踊れる!
「お花さん! ありがとう!」
ディナは、綺麗に咲いた笑みを残し、走り去った。
ハルは、優しい風に誘われ、
気持ち良さそうに揺れていた。
昼と夜が交わる時間。
いつもなら穏やかな顔を見せる村だが、
今日はどこか浮かれた雰囲気がある。
ディナは自室で、パタパタと足音を立て、
忙しく身支度をしていた。
いつもは「邪魔だから」と一つに纏めた髪を、
丁寧に梳かし、母の洋服に袖を通す。
唇に、ほんのり薄く紅を引き、
鏡の前に立ってみせた。
「うん……綺麗かも!」
ディナは、鏡の前でヒラヒラと身体を踊らせた。
その頃。
店には、いつもの顔ぶれが集まって来ていた。
手に手に、酒を携えている。
「よう! オヤジ」
「いらっしゃい」
父親は、常連の一人と言葉を交わす。
「今年の酒は、上物だぜ!」
「おお。良さそうだな!」
「早速一杯やるか?」
「いや……今日は飲まない」
「どうして?」
「ディナがいないからな」
常連は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「本当だ。ディナちゃんはどうした?」
「祭りに行くんだよ」
父親は、ぶっきらぼうに答えた。
「……あー! そうか!」
「もう十六か!」
常連は、合点の言った顔で頷く。
「まあ、いつもオヤジと俺達の世話でよ」
「祭りに行く事なんて無かったもんな!」
「そうだよ。だから今日は俺が世話係よ」
「だから飲まねえ」
常連達は、そのやり取りを聞き、
「ほぉ~」と感嘆のため息を漏らす。
「よし! じゃあよ!」
他の常連が、周りを見ながら叫ぶ。
「ディナちゃんが安心して行けるようによ!」
「俺達皆で、手伝おうや!」
「おう!」
常連達は、声を揃えて叫ぶ。
「そうしたらよ!」
「オヤジも一緒に飲めるじゃねえか!」
その提案に常連達は、頷き賛同する。
「いや、俺は……」
父親は断ろうとするが、
「いいから、いいから」
「娘の、めでたい日だろうが?」
「お前が飲まなくてどうするんだよ?」
常連達は、そうだ! と頷く。
「まあ、とりあえず一杯だけでもよ……」
そう言って、父親の前にグラスを置き、酒を注いだ。
常連の一人が、グラスを高く掲げ叫ぶ。
「じゃあ、この店の看板娘に乾杯だ!」
常連達は、声を揃えて「乾杯!」と叫び、
一気にグラスを傾けた。
父親は苦笑いを浮かべながら、
グイッと酒を口に含んだ。
ディナは、階下の騒がしさを気にしながらも、身支度を終えようとしていた。
何度も鏡の前に立ち、入念に確認する。
「よし! 大丈夫!」
ディナはそう言うと、
四隅をきちんと揃えた白いハンカチを、そっと懐に入れ、部屋を出た。
祭りの時間には少し早いが、待ちきれない様子だ。
ディナは、トントンと階段を降り、
店へと繋がる扉を開けた。
「おお~!」
店から一斉に歓声が上がる。
「こりゃまた見事な……」
父親と常連達は、目を丸くした。
彼らが知っているディナは、
髪を纏め、古い前掛けをした、
地味だが笑顔の可愛らしい少女だ。
しかし目の前に現れたのは、
長い髪とスカートを靡かせ、
少し大人に成長したディナだった。
ディナは、常連達の視線に少し照れながら、
店の中を歩いた。
数歩進むと、上機嫌な父親が目に入った。
「飲まないって言ったのに!」
ディナは、父親に近づき、頬を膨らませた。
「あ……いや……これは……」
父親はグラスを隠す素振りをしながら、
あたふたと言葉を探す。
「ディナちゃん、違うんだよ!」
常連の一人が助け舟を出し、経緯を説明する。
「……てワケだからよ、怒らないでやってくれよ!」
常連は、頭の後ろに手を当て、頭を下げた。
ディナは、元々怒ってはいなかった。
むしろ、嬉しさが体を駆けていた。
「皆さん、ありがとう」
ディナの笑顔が、店内をより一層明るくした。
「でも……」
ディナはそう言うと、ゆっくり店内を見渡す。
テーブルの上には、空のグラスと、
使い終わった食器が散乱している。
「仕方ないな……」
ディナは少し呆れた笑顔を見せると、
テーブルの上の食器を重ねだした。
「あ~! 俺達がやるよ!」
「せっかくの服が汚れちまうよ!」
常連達は口々に言うが、あてにはならない。
「大丈夫」
「まだ時間はあるし、慣れてるから」
そう言うと、テキパキと動き出す。
みるみるテーブルが片付いていく。
「ディナ、俺がやるから!」
父親も慌てて止めるが、ディナは動きを止めない。
「これだけ片付けたら行くから。座ってて」
そう言って、最後のテーブルの食器を片付ける。
「よいしょ……」
そう言って、山積みの食器を持ち上げ、
洗い場に運ぶ。
その時、手洗いから、ふらふらと一人の男が出てきた。
「あ! ディナちゃん! 俺がやるよ!」
そう言って、ディナに近付く。
「大丈夫! 座ってて!」
「ディナちゃんこそ! 服が汚れちまうよ!」
男はしたたかに酔っている様子で、
ディナの言葉に耳を貸さない。
男は、ディナの持つ食器を奪おうとする。
「大丈夫だから! 座ってて……」
そうディナが言いかけた時、
積み重ねた食器の上に置いたグラスが倒れた。
じわり……と、嫌な感覚がディナを包む。
グラスからこぼれたワインが、
白い洋服の肩から腰辺りまで染め上げた。
ディナは、食器を洗い場に置くと、
壁に掛けていた前掛けを取った。
さっきまで顔の赤かった男は、
すっかり酔いが覚めたのか、顔が青ざめている。
「大丈夫、大丈夫……」
ディナはそう言いながら、前掛けを付け、腕をまくる。
「ディナ、すまん……」
「俺が悪かった! 早く着替えて祭りに……」
「大丈夫だから!」
ディナはそう言うと、ニッコリと笑って見せた……。
ディナは洗い場に進み、洗い物を始めた。
父親は、頭を抱え込み、座っている。
店内は、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、
常連達は、一様に目を伏せていた。
カチャカチャと、皿洗いの音だけが響く……。
ディナの背中は小さく震え、
時折、腕で目を拭っていた……。
その頃。
ノアは、約束の場所でディナを待っていた。
格式の高そうな衣服を身に付け、
髪もしっかりと整えられている。
祭りの会場には、
着飾った同年代の男女が集まってきていた。
その中に、まだディナの姿はない。
ノアは、真っ直ぐ前を見つめながら、
ディナを待っている。
「ノア、私と踊ろうよ」
綺麗なドレスの少女が、ノアに話しかける。
「ごめん、先約があるんだ」
ノアの返事を聞いた少女は、
「そう……」と言いながら去っていった。
ノアは、じっとディナを待った。
そうしていると、会場に美しい音楽が奏でられた。
男女は手を取り合い、
お互いの目を見つめ合いながら、
優雅に体を揺らす。
成人と門出の舞いを、見物客はうっとりとした表情で見つめている。
ノアは、じっと会場の入り口を見ている。
いつしか音楽は鳴り止み、
人々は散り散りに居なくなった。
ノアは、ふうっと息を吐き、
空にある満月を見上げた……。
遠くに聞こえる音楽が消えた頃、
ディナは片付けを終え、前掛けを外した。
いつしか店内には人影は無く、
父親とディナだけになっていた。
「ディナ……すまん」
父親は、深い後悔の中にいた。
「大丈夫だよ……」
ディナは、ずっとその言葉を繰り返す。
「ディナ! 俺が悪かった!」
父親は、テーブルに両手をつき、深く頭を下げる。
「大丈夫……もういいから……」
ディナは俯きながら繰り返す。
長い髪が顔を隠し、表情は見えない。
「少し……風にあたってくる」
そう言うと、そっと店を後にした。
ハルは、灯りの消えた村を見ていた。
さっきまでの賑わいが嘘のように静かで、
月あかりが、ぼんやりと花畑を照らしていた……。
花畑に一つ影が落ちた。
ディナが立っていた……。
俯き、いつもの元気は無い……。
月を雲が覆っていく……。
ディナの姿は、ゆっくりと闇に溶けた……。
ぽたり……と、ハルの花弁に雫が落ちた。
雨ではない。
ぽたり、ぽたりと、雫がハルを濡らす……。
ディナは泣いていた。
暗闇に紛れ……
声も出さず……。
ディナは泣いていた……。
雲が月を通り過ぎ、青く世界を照らした……。
ディナは、そっと涙を拭い、
ゆっくりとハルに手を伸ばした……。
「わたしは……」
「明日からも……上手に……」
「笑えますか……?」
ディナは、優しくハルを摘み、
静かに呟きながら、ゆっくりと花弁を散らす……。
笑える……。
笑えない……。
ハルの生命が散っていく……。
「ねえ?」
「なんだ?」
「僕の花びらは何枚?」
「……」
「何枚?」
「……三十四枚だ」
「お願いがある……」
「何だ……?」
「お願いがあるんだ」
「言ってみろ」
「僕の花びらを、一枚増やして」
珍しく、少し早口だった。
「何になる?」
「……わからない」
「でも……そうしたいんだ……」
「そうか」
「それは、些細な願いか?」
「わからない。でも……そう思う」
「この娘は、お前をじっと見ている」
「無理だな……気付かれる」
「……」
笑えない……。
ゆっくりと花びらを散らしていた、ディナの手が止まる……。
ハルは、ディナの瞳に映る自分の姿を見た……。
花びらが四枚……。
ディナの瞳に映る自分は、滲み揺らいでいる……。
笑える……。
笑えない……。
笑える……。
ディナの声は小さく震えている。
ハルは、ディナから目を離さない……。
笑え……ない…………。
ディナは、震える手で最後の花びらを散らした……。
ハルの生命も全て散った……。
はずだった。
最後の花びらの裏側
小さな……小さな花びらが一枚……。
ディナの目から、
ポロポロと大粒の涙が溢れた。
笑える……。
ディナは最後の花びらをそっと指先でつまみ、ゆっくりと散らした……。
同時に、ハルの意識が舞い上がりはじめた……。
「……増やしてくれたんだね……」
「ん?……まあな」
「これで良かったのか?」
「……わからない」
「でも……前に進める……」
「……そうでしょ?」
「そうだな……」
二人の意識は、ゆっくりと空に還っていく……。
「ディナ」
声がした……。
「……ノア……」
そう言いながら、ディナはハッとした。
「ごめんなさい……約束……」
「お父さんが酔ってて……服も……」
ディナは謝りたかったが、
上手く言葉が繋がらない。
「あ……ハンカチ……返そうって!」
あたふたとハンカチを取り出し、ノアに手渡す。
ノアは受け取ったハンカチで、
そっとディナの涙を拭いた。
そして優しくディナの手を取り、真っ直ぐに瞳を見つめた……。
「踊ろう」
穏やかな声が、夜に溶けていく……。
ディナは泣きながら……
笑った……。
二人は見つめ合い、静かに体を揺らす。
「やっと本当の笑顔が見れたな」
「え?」
「なんでも無い」
ソラは、ふっと笑った。
「それよりハル、お前はどうだった?」
「花として生きて……何か感じたか?」
「……そうだな……」
そよ風にひらめくように、ゆっくり遠ざかる景色
コツコツと、優しく二人を包む足音
月明かりに照らされる、二つの花を見ながらハルは
「……綺麗だ」
ハルは、ずっと二人を見ていた……。




