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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
はじまり

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8/18

休む理由

 今日は、何もしない日だと決めた。


 リュカがそう言ったとき、ミアは少し驚いた顔をした。


「……いいの?」


「いい。というか、必要」


 朝の空は高く、雲が薄い。

 村の外れの草地は、風がよく通る。


 畑仕事も、準備も、話もない。

 ただ歩いて、腰を下ろすだけ。


 ミアは最初、落ち着かなかった。


 座っていても、無意識に周囲を見ている。

 耳を澄ませ、空気を感じ取ろうとする。


「今日は、それしなくていい」


 リュカが言う。


「……癖みたいなものだから」


「じゃあ、癖が抜けるまで休めばいい」


 ミアは、少し困ったように笑った。


 二人は並んで草に座る。

 背中を倒すと、空がそのまま視界に入った。


「村って、静かだね」


 ミアが言う。


「うるさい日もあるぞ」


「そうじゃなくて……

 何も求めてこない感じ」


 リュカは、その言葉を少し考えた。


「放っておいてくれる、ってこと?」


「……うん。たぶん」


 風が吹き、草が揺れる。

 それだけで、時間が進む。


 ミアの呼吸が、少しずつ深くなっているのが分かった。


「ねえ、リュカ」


「なに?」


「どうして……一緒に行くって言ったの?」


 直球だった。


 リュカは、すぐには答えなかった。


「正解だったから、じゃないのは分かる」


 ミアは空を見たまま言う。


「止めたかったわけでもないでしょ」


 しばらくして、リュカは口を開いた。


「……一人で行く顔してたから」


 ミアが、ゆっくりとこちらを見る。


「それだけ?」


「それだけ」


 少し間があって、リュカは付け足す。


「一人でやるの、慣れすぎてる」


 ミアは、目を伏せた。


「……そう、見えた?」


「見えた」


 即答だった。


 ミアは、しばらく黙ってから、小さく息を吐いた。


「じゃあ……今日は」


「今日は?」


「何も見ない」


 リュカは頷いた。


「見なくていい」


 二人は、再び空を見る。


 雲が、ゆっくり流れていく。


「ねえ」


 ミアが言う。


「世界って、こんな感じだったっけ」


「どんな?」


「……ただ、流れてるだけ」


 リュカは、少し笑った。


「たぶん、それが普通」


 ミアは、その言葉を噛みしめるように黙った。


 しばらくして、風が少し強くなる。

 ミアが、無意識に肩をすくめた。


 リュカは、考えずに外套を外し、差し出す。


「寒い?」


「……いいの?」


「いい」


 ミアは一瞬ためらってから、それを受け取った。

 布越しに、リュカの体温が残っている。


「……あったかい」


「それ、俺のだから」


「知ってる」


 そう言って、ミアは少しだけ笑った。


 その笑顔を見て、リュカは視線を逸らす。


 胸の奥が、少しだけ忙しい。


「ねえ、リュカ」


「ん?」


「一緒に行くって……

 休む時間も、含まれてる?」


 リュカは、少し考えてから答えた。


「むしろ、そっちが本体」


 ミアは、一瞬きょとんとしてから、吹き出した。


「……変なの」


「そうかもな」


 でも、悪くなさそうだった。


 草地に影が伸び、日が少し傾く。

 今日は、本当に何も起きなかった。


 それが、ミアにとっては新鮮で、

 少しだけ、怖くて、

 でも――悪くなかった。


「……休む理由、分かったかも」


 ミアが小さく言う。


「なに?」


「一人で考えなくていいから」


 リュカは、何も言わなかった。

 ただ、隣にいる。


 世界は、今日は静かだ。


 それで、十分だった。

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