行かなくていい場所
2話連続の2話目です。ちょっと重いです
夜は、静かだった。
昼の浅いざわめきが嘘のように、村は眠っている。
戸口の外に出ると、空気は冷えていて、胸の奥まで届いた。
ミアは、眠れなかった。
目を閉じても、昼間の感覚が戻ってくる。
音が少ない。
息が浅い。
――聞こえないふり。
そう決めたはずなのに、身体は正直だった。
そっと外へ出ると、月明かりが畑を照らしている。
その先、使われなくなった空き地があった。
何もない。
火も、水も、人の気配も。
「……やっぱり、起きてたか」
声に、ミアは振り返る。
リュカが、少し離れたところに立っていた。
「起こした?」
「いや。俺も、寝られなかった」
二人は並んで歩く。
足音だけが、静かな道に残る。
空き地に近づくにつれ、ミアの呼吸が浅くなる。
「……ここ、来なくていい」
リュカが言った。
「うん。本当は」
ミアは頷く。
「行かなくていい場所」
「だったら――」
「でも、分かる」
ミアは、空き地を見た。
「ここに、溜まってる」
「何が」
「みんなが、無理しなかった分」
月明かりの下、地面は静かだった。
風もない。
音もない。
「このままだと……別のところが、壊れる」
それは予感だった。
確信ではない。
でも、無視できない感覚。
「だから……」
ミアが、一歩踏み出した。
「ミア――」
止めるより早く、空気が変わった。
重さが抜ける。
胸の奥に溜まっていたものが、ゆっくり流れ出す。
風が通った。
葉擦れの音が戻る。
息が、深く吸える。
村の呼吸が――確実に良くなった。
錯覚じゃない。
はっきりと、そう分かった。
「……よく、なった」
思わず、リュカは呟いていた。
ミアは答えない。
代わりに、肩で息をしている。
顔色が、明らかに悪い。
それでも、立っている。
――分かっている。
これは、今だけだ。
この楽さが、次を呼ぶことも。
ミアは、先を見ている。
それでも、やった。
リュカは拳を握る。
止めなきゃいけない。
頭では、分かっている。
でも――。
村は、確かに楽になった。
今、この瞬間だけを見れば、これが正解だ。
そう思ってしまう自分が、いた。
「……ミア」
遅れて出た声は、弱かった。
ミアは、かすかに振り返る。
「……ごめん」
それは謝罪じゃない。
確認でもない。
ただの、事実だった。
二人は、その場を離れた。
空き地には、何も残らない。
ただ、静けさだけが、また溜まり始めている。
帰り道、ミアは小さく呟いた。
「ここ……長くはいられない」
リュカは、答えなかった。
答えられなかった。
村は、今日も息をしている。
少しだけ、楽になった呼吸を。
その代償を、
誰が払っているのかを知らないまま。
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