進む理由
夜明けは、静かだった。
焚き火はすでに消えている。
灰だけが残り、温度も匂いも、ほとんど失われていた。
夜が何事もなく過ぎた証拠だ。
リュカは、地面に残った足跡を踏み崩す。
わざとだ。残す理由はない。
「……行けそうだな」
誰に言うでもなく、そう呟く。
ミアは、少し離れた場所で空を見ていた。
朝の空気は冷たく、でも澄んでいる。
「うん」
短い返事だった。
歩き出す前に、ミアが一度だけ振り返る。
焚き火の跡、夜を過ごした場所、何もない草地。
「戻らない?」
自分でも、なぜ聞いたのか分からなかった。
リュカは、少し考える。
「戻れるとは思う」
「……でも?」
「戻っても、
同じ朝じゃない」
ミアは、それを聞いて、静かに頷いた。
道は、昨日よりも荒れている。
人の気配はさらに薄く、代わりに獣の痕跡が増える。
それでも、足は止まらない。
「ねえ」
歩きながら、ミアが言う。
「どうして、ついてきてるの?」
唐突だった。
リュカは、即答しない。
しばらく、靴底の音だけが続く。
「理由があるなら……
もう、とっくに言ってる」
「じゃあ、ない?」
「あるけど、
名前がついてない」
ミアは、少しだけ笑った。
「それ、
進む理由にしては弱い」
「そうか?」
「うん。
でも……嫌いじゃない」
風が、前から吹く。
進む方向からだ。
ミアは、歩きながら言う。
「私ね。
止まると、分からなくなる」
「何が?」
「自分が、ここにいる理由」
リュカは、それを否定しなかった。
「歩いてると?」
「……少し、分かる」
道の先で、地形が変わる。
草が途切れ、岩が増え、視界が開ける。
また、境界だ。
ミアは、そこで足を止めない。
立ち止まる前に、一歩踏み出す。
リュカも、並ぶ。
「進む理由ってさ」
「うん?」
「分かったら、
終わりな気がする」
ミアは、しばらく考えてから答えた。
「……じゃあ、
分からないままでいい」
それで十分だった。
二人は、歩く。
理由は後ろに置いたまま。
世界は、前に続いている。
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