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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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16/17

足音

 最初に聞こえたのは、音というより、間だった。


 焚き火のはぜる音が、ひとつ遅れた。

 風が吹くはずの方向から、何も来なかった。


 リュカは、顔を上げる。


 ミアも、同時だった。


 二人とも、声を出さない。

 息を潜めるでもなく、ただ耳を澄ませる。


 ――足音。


 乾いた地面を踏む、一定でない重さ。

 獣でも、人でもない。

 どちらにも似ていて、どちらとも違う。


 数は、ひとつ。


 リュカは、ゆっくりと立ち上がった。

 焚き火から一歩、影の方へ下がる。


 ミアは、すでに視線を向けている。


「……来る」


 囁き声だった。


「さっきの、あれ?」


「違う。

 でも、近い」


 草が揺れた。


 闇の縁から、影がにじみ出る。

 背は低く、輪郭が曖昧だ。足は確かにあるのに、地面との接点が薄い。


 魔物だ。

 だが、昼に見たものより、ずっと静かだった。


 リュカは、前に出ない。

 逃げ道を確かめ、距離を測る。


「追い払える?」


「……できる。でも」


「でも?」


「ここ、

 さっきより、少し濃い」


 焚き火の熱が、空気に溜まり始めている。

 夜の流れが、ほんのわずか滞っている。


 魔物が、足を止めた。

 焚き火を見ている。

 光ではない。溜まりを見ている。


「来るぞ」


 リュカが言った瞬間、影が跳ねた。


 速い。

 一直線ではない。横に、低く。


 リュカは地面に石を投げつける。

 音を立てる。

 進路が、わずかに逸れる。


 その一瞬で、ミアが動いた。


 手を伸ばす。

 強くはない。

 ほんの一瞬、流れを通すだけ。


 空気が、すっと軽くなる。


 魔物は、着地に失敗したように体勢を崩し、方向を変えて走り去った。

 草が揺れ、足音が遠ざかる。


 すぐには追わない。


 二人は、そのまま立っていた。

 音が完全に消えるまで。


「……行ったな」


「うん」


 ミアは、息を整えながら言う。


「焚き火、少し小さくしよう」


「分かった」


 枝を外し、炎を抑える。

 光が弱まり、夜が戻ってくる。


 しばらくして、リュカが言った。


「起きてて、よかったな」


「……うん」


 ミアは、焚き火の跡を見つめる。


「ここ、

 何もしないと、溜まる」


「街と逆だな」


「うん。

 だから……歩く」


 理由はそれで十分だった。


 二人は、もう一度座る。

 今度は、さっきより少し近く。


 夜は、完全には静まらない。

 でも、怖くもない。


 足音は、もう聞こえなかった。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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