眠れない夜
焚き火は、小さく保った。
夜が深まるほど、炎は目立ちすぎる。
枝を足すのは最低限。赤い光が揺れ、闇に溶ける。
ミアは先に横になっていた。
外套を掛け、地面に背を預けている。呼吸は落ち着いているが、完全に眠ってはいないのが分かる。
「……起きてる?」
リュカが小声で聞く。
「うん。少し」
「寝ていい。俺が見てる」
ミアは、少しだけ顔を向けた。
「見張り?」
「そう。……一応な」
言いながら、リュカは焚き火の向こうを見渡す。
暗闇は静かだ。魔物の気配も、獣の足音もない。
それでも、目は離さなかった。
見張りは、仕事だ。
昼の続きで、自然な流れだ。
……のはずだった。
風が、一定の間隔で吹く。
草が擦れ、遠くで何かが鳴く。
ミアの呼吸が、わずかに乱れた。
「……大丈夫?」
リュカが聞く。
「うん。
ただ、ここ……少しだけ濃い」
「さっきより?」
「ううん。
さっきより、分かる」
ミアは目を閉じたまま言う。
「街より、村より……
ちゃんと、夜」
リュカは、なるほどと思った。
夜が、夜として存在している。
「なら、なおさら寝ろ」
「……寝ると、分からなくなる」
それは、不安というより、責任の言葉だった。
「ミア」
呼ぶと、彼女は目を開けた。
「俺が起きてる」
「……うん」
「だから、無理しなくていい」
少し間があって、ミアは答えた。
「……それ、さっきも言った」
「言ったな」
「でも……
今は、さっきより、楽」
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
リュカは膝を抱え、炎を見る。
「見張りってさ……
本当は、嫌いじゃない」
「どうして?」
「何も起きない時間が、長いから」
ミアは、微かに笑った。
「それ、見張りの才能ある」
「そうか?」
「うん。
危ない人ほど、何か起こしたがる」
しばらく沈黙が続く。
ミアが、ぽつりと言った。
「……起きてる理由、
見張りだけ?」
リュカは、即答しなかった。
「……半分」
「もう半分は?」
焚き火の光が、二人の影を揺らす。
「寝たら……
何か、変わりそうで」
ミアは、その言葉を聞いて、少しだけ身を起こした。
「変わるの、嫌?」
「分からない」
正直な答えだった。
「……じゃあ」
ミアは、外套を少し引き寄せる。
「一緒に、起きてよ」
「見張りは?」
「二人でやる」
それは、合理的ではない。
でも、悪くもない。
リュカは、黙って頷いた。
夜は、まだ深い。
焚き火は、小さく燃え続ける。
眠れない理由は、もう見張りだけじゃなかった。
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