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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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14/17

焚き火と距離


 火は、小さくてよかった。


 枝を組み、火打石で火花を落とす。乾いた音がして、炎が息をする。夜は急に深くなり、境界の道は昼とは別の顔を見せていた。


 魔物に遭ってから、まだそれほど時間は経っていない。

 追い払っただけとはいえ、身体は少し強張っている。


 リュカは、焚き火の前に腰を下ろした。


「……思ったより、静かだな」


 夜の音はある。虫の声、風が草を撫でる音。

 けれど街で聞いたざわめきとは違う。必要な音だけが、ここにある。


 ミアは、少し離れた場所に座っていた。

 火の明かりが、横顔を柔らかく照らす。


「ここは、溜まらないから」


「また、その言い方」


「でも、そう」


 ミアは膝を抱え、火を見る。


「街は……きれいだった。整ってて、安心で」

「うん」

「でも、ここは……散らかってる。だから、息がしやすい」


 リュカは頷いた。

 理屈は分からないが、感覚は分かる。


 しばらく、言葉が途切れた。


 リュカは水筒を取り出し、少し迷ってから言う。


「……手、見せて」


 ミアは一瞬、目を瞬かせたが、何も言わずに差し出した。

 魔物とすれ違ったとき、腕を掠めていたのだろう。薄く赤い線が走っている。


「大したことない」

「そういうのが、一番後で響く」


 布を湿らせ、そっと拭く。

 距離が近い。思ったよりも。


 ミアは、じっと動かずにいた。


「……さっき」


「うん」


「右が濃いって言ったとき、

 すぐ止まってくれた」


「あれは……止まるだろ」


「でも、止まらない人もいる」


 焚き火が、ぱちりと弾ける。


「ありがとう」


 声は小さい。

 けれど、はっきりと届いた。


 リュカは、視線を逸らしながら言う。


「俺は……

 見えないから」


「?」


「ミアみたいに、世界は分からない。

 だから、言われたら信じるしかない」


 ミアは少し考え、首を振った。


「信じてるんじゃない」


「違うのか?」


「一緒に見てる」


 その言葉に、リュカは返事ができなかった。


 火の向こうで、ミアが微笑む。


「……ねえ」


「ん?」


「近い?」


 今さら気づいたように聞く。


 リュカは一瞬固まり、正直に答えた。


「……近いな」


「じゃあ」


 ミアは、ほんの少しだけ後ろに下がった。

 それでも、手の届く距離だ。


「これくらいで」


「……ああ」


 火は、静かに燃え続ける。


 夜は、怖くない。

 でも、何も起きないわけでもない。


 ミアは焚き火を見ながら、ぽつりと言った。


「さっき、ちょっとだけ……

 楽しかった」


「魔物に遭って?」


「ううん。

 ……一緒だったから」


 リュカは、何も言わなかった。

 ただ、焚き火に枝を足した。


 炎が少しだけ強くなる。


 距離は、近すぎず、遠すぎず。

 今は、それでいい。


 夜は、まだ続く。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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