静かすぎる世界
道が、少しだけ整い始めた。
それまでは土と砂利が混じった踏み跡だったのが、いつの間にか石が増え、轍の跡も均されている。歩くたびに、足裏の感触が変わるのが分かった。
音も変わる。
靴底が、乾いた音を立てる。
匂いが増えた。
土の匂いに、油と煙、乾いた草と、どこか甘い香りが混じる。人の生活の匂いだ。
ミアが、小さく息を吸った。
「……ここ、楽」
言葉だけ聞けば、安堵だった。
でも、表情は晴れていない。
リュカは、前方を見る。
遠くに、低い城壁が見え始めていた。
「街だな」
「うん」
返事は短い。
人の気配が増える。
荷車が行き交い、旅人がすれ違い、呼び声が交差する。
誰も二人を気にしない。
それが、街の普通だった。
リュカは、少しだけ肩の力を抜いた。
――懐かしい。
昔、一度だけ来た場所。
落ち着けなかった記憶と、それでも安全だった記憶。
ミアは、周囲を見回していた。
丘で感じたような詰まりはない。
重さも、引っかかりもない。
それなのに――
「……先が、分からない」
ぽつりと、呟く。
「見えない?」
「ううん。見えない、じゃなくて……
決まってない」
リュカは、その言葉の意味を完全には理解できなかった。
けれど、聞き返さなかった。
「でも……」
少し考えてから、言う。
「ここなら、休めそうだな」
ミアは、驚いたようにリュカを見る。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……うん。たぶん」
街門が近づく。
石の影が長く伸び、人の流れが一か所に集まっている。
ミアは、そこで足を止めた。
危険を感じたわけではない。
ただ、自分がここでは“必要とされていない”感覚があった。
リュカは、何も言わずに待つ。
急かさない。
しばらくして、ミアは一歩、前に出た。
リュカも並ぶ。
二人は、人の流れに混じって街へ入る。
世界は、ここでは静かすぎた。
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