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「狡」は許されない

 1970年開催された日本万国博覧会。最早戦後では無い。生まれ変わった日本は平和国家として、経済大国として歩んで行く事を内外に示す一大イベント。


 史実であれば「金の無駄だ」「虚飾の祭典」と揶揄されながらも成功裏に終わった祭りである。この世界に於いては其れが破滅への第一歩であった。


 祭りは成功し過ぎたのだ。


 「狡」は決して許されない事を楽観的で融和と進歩を心の底から信じる一般人であったチート転生者にはこの時理解できなかった。


 彼女は飢餓と貧困をこの世から根絶したかった。疫病と格差を放逐消したいと真摯に考え、其れを成せる力があった。


 日本国はその道具であり、詰まる所、国家に対してその程度の認識しか無かった。


 ホッブスの言うリヴァイアサン。


 何処までも嫉妬深い死せる神の嫉みと嫉みの深さを最後まで…暗い穴蔵の中で、放射線に侵された報復を求める人々に縋り付かれ、自身を機械の棺に繋ぐまで理解出来なかった。


 故にこの時の彼女は惜しみなく未来への希望を万博に集う人々に開示し証明して見せた。1960年から始まった驚異の成長には裏付けがある未来は明るい。


 そう語った。


 後天的遺伝子医療、神経再生、癌の根本治癒、現在の収穫量を凌駕する遺伝子組み換え作物、不老不死の夢を見せた。


 そればかりでは無い。万博に合わせた新幹線開通を「全国」に可能とした自動機械、実験的核融合炉、実用太陽発電、超大容量蓄電池、量子コンピュータ(会場の三分の一を占めたる大きさだったが)


 それは愚かな行為だった。愚か過ぎる行いだった。世界の覇権をめぐり争う二匹の獣の鼻先に肉をぶら下げたのだから。


 もしも彼女が彼女に半ば操られる日本国が此処で示された巨大な力を軍事に身を守る為に一部なりと使ったのであれば結果は違ったかも知れない。


 若しくは通常の国家として、そこに蠢く政治と言う名の魑魅魍魎の類が動いて居たらまた違っただろう。


 危機を感じた段階で彼女を高く売りつけるなり、彼女を誘導し適当な落とし所に持って行けたかも知れない(その場合でも世界大戦の発生は避けられ無いだろうが)


 しかしその様な奇跡は起こらなかった。正確に言えば最後の最後、日本国民の大半が死滅するか、世界の主たるハイエナ二匹の餌に変わった時、最悪の形で彼女の支配の軛は壊れた訳であるが。


 兎も角もこの段階では主たるハイエナ、詰まり米ソは日本の出して来た技術に驚愕し、何とか我が物にせんと比較的穏便な手段を取った。


 彼女の拉致、政治的恫喝、日米同盟の見直し示唆、経済的締め付け、つい二十と数年前暴れ回った事に付いて突いて回る、明らかな条約違反を犯して手に入れた領土の返還をチラつかせる等である。


 だがその全てが徒労に終わる。彼女は個人としては持ち合わせる恩恵を十全に使いこなせ、彼女の周りに集まった人々も真摯に世界の為に行動できる人物達だったからだ。


 世界の為にである。


 日本国の為では無い。


 厳しく言うならば、彼女達は「花畑」の中の住人だった。話し合いと技術の共有、持てる自分達が率先して分け与える事が使命と考えられる者たちだったのだ。


 通常、国際政治の場に於いて、この様な思考を持つ善人と呼ばれる者は真っ先に骨になる者であるが、不幸な事に(日本国民に取っての不幸だ)彼女には汲めども尽きぬ力があった。


 であるので日本国が国家の意思としとその力の果実を無分別にばら撒いた挙句、冷戦構造を危うくし、ただ一人の理想と理念からなる未来を奔走した段階、1980年に地球の未来を担うデザインヒューマンを作り出し、東京都に完全自給自足アーコロジー、現代のバベルの塔を作り上げ、軌道エレベータ計画が本格稼働した時点で日本国の命脈は尽きたと言える。


 日本国は二匹の獣にとり、また獣のお溢れに預かれる国家には生きているより、食卓に上った方が有益となった。


 故に1980年8月15日、ソ連対日戦勝記念日に起こったクーデターを引き金として発生した極短時間の熱戦で、初期型アーコロジーが建設されていた北海道、軌道エレベータが建設されつつあった沖縄を除き反応弾が降り注いだ事は驚くに値しない。


 全ては傲慢により発生した悲劇だ。世界を一人の人間がしかも「狡」をした者が動かすべきでは無い。もしそう言う事をしたいならば制限や理性等捨てて立ち塞がる者を薙ぎ倒すべきだったのだ。


 かと言って、如何に愚かな者からとて奪って良い道理は無い筈だ。少なくとも殺し切れないならやるべきでは無い。


 中途半端は良い事では無い。奪うなら何処までも追いかけ執拗に容赦なく徹底的に殺すべきで、過去に獣事米ソはそうしていた筈だ。


 其れをしなかった故に復讐者は産まれた。己れの愚かさを棚上げし自分勝手に裏切られたと信じる鬼が産まれた。


 人は理想が裏切られた時、信頼が失望に変わった時、ひっくり返る。彼女の周りにいた人々もそうだ。


 過去の贖罪、平和国家として名誉ある地位を占める理想、マルクスレーニン主義へ無条件の信頼もあっただろう。


 それは全て裏切られた。


 人は人類は愚かだった。


 彼らは心底そう死の淵で思った。


 だから精算するのだ人類を信じてしまった罪を


 過去は正しかった。力のみが答えだった


 だからもう一度帰ろう。戦争の炉に火を入れ、その坩堝から新たな人類を作り上げよう


 星を継ぐ者、裏切ってしまった過去を信仰出来る子供達を作ろう。


 世界よ我々と共に燃えろ。お前達は朝を決して見る事は無い。


 明日を迎えるのは我々の子供達だけだ。


 


 

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