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ぼんじゃーのネタ帳  作者: ボンジャー


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花札ファクトリーの門を開けろ!

 大人ぐんじんでこうであるから、本物の子供はもっとも~っと玩具に弱い。特に男の子は。


 1937年12月のクリスマス商戦は、その様な男の子とその親御さんたちのお財布に衝撃と畏怖を叩き付けた記念すべき日で、米国玩具産業に取っては暗黒の日々の始まりであった。日本国はその文化侵略の第二段階として米英仏の男の子たちにワクワクと購買欲求を植え付けに来たのだ。


 日本国と言う暗黒サンタはアシカ作戦と西方電撃戦とカリフォルニア上陸を同時に敢行するつもりなのだ。目標!パリ!ロンドン!ワシントン!真っ赤なお鼻のトナカイさんよ!一心不乱のプレゼント攻勢を持って敵玩具産業を破壊せよ!エルフ共!貴様たちには18時間労働を命ずる!家に帰れると思うな!オフィスで寝ろ!

    

 各国玩具産業にとって不幸なのは、本来は防衛側に回らなければいけない政府さえ敵に内通していた事であろう。日本政府は市場開放交渉の場で、玩具産業や外食産業等の利益率の低い市場を完全開放…はっきりと言えば生贄に…するならば、重工業など社会の根幹を成す重要産業への進出は敵対的な物にはしないと確約し、それ位で自国産業を守れるならばと各国はそれを飲んだのだ。


 悪辣な策であった。蓄音機やラジオの登場により家での娯楽が増えたとは言え、酒とタバコと賭け事が未だ大手を振っており、映画、スポーツ、と言った娯楽も大人と一緒で無ければ楽しめない時代では子供・家族向け産業はどれだけ巨大な物になるかは理解できないと知っての所業なのだ。


 ここに一つの未来は潰えた。真面目に働いた労働者はマイホームと車を持ち、週末は家族でピクニックとBBQ、広い裏庭でご近所さんとパーティーをする黄金時代は無くなった…言い過ぎかもしれないので無理してやらなくても良くなったに訂正する。少なくとも楽にそして怠惰にアメリカ人はなる。


 「坊や家でピコピコをしたいだろう?お嬢ちゃん毎月でるカワイイをお部屋でどうだい?奥さん、旦那さんの下手なBBQ料理の下ごしらえから片づけまで大変でしょう?お電話一つでお届けします。

 おら!旦那!働く機械になれ!疲れ切って帰って来たら、そこのソファで缶ビールとスナック菓子をキメて、これから爆発的に増えるラジオ番組でも聞け!テレビも直ぐに来るぞ!そして夕飯はテレビディナーだ!消えよ古き良き時代!奥さんを家庭内労働から解放して碌な事しない消費者にしろ!」


 と言った具合だ。各国の玩具産業はその始まりとして蹂躙され、これから死ぬんだ、残念でもないし仕方が無いんだ。ブリキの人形が主力の時代に変形合体ロボがやって来る。タイアップでラジオドラマとアニメ映画を引っ提げて。日本と言う蠱毒で鍛え上げられたカワイイが押し寄せる。既に台湾・朝鮮・樺太で仕事を選ばないメス猫や理不尽な世界に揉まれる、ちいさなカワイイ奴の実力は分かりきっている。


 そして、その先方にいるのは矢張り奴。行け食い尽くせ。それと今度は版権問題で揉めなくて大丈夫だから法務部は引っ込めて下さい。




 1937年12月20日 その日、世界の玩具産業は全戦線での全面攻勢と言う衝撃に晒された。その攻撃は苛烈の一言であった。入念な兵站構築(製品を満載したコンテナ船と販売所の開設)、嵐の如き準備砲撃(メディアミックス戦術)、浸透戦術とそれを可能ならしめる突撃隊(製品持ってどんな田舎町でも売り込みする社員たち)


 そして新兵器。全ての塹壕(お客様の家庭)に速やかに染みわたり、空から投下(販路輸送)でき、武人の蛮用(子供の乱暴な扱い)に耐える、ガスと飛行機と戦車を併せ持つ悪魔の兵器(玩具)。キョウト暗黒花札ファクトリーが嘗て世界を制した物の進化系。


 それは携帯型の電子機器であった。


 それには十字キーと操作ボタン小さな画面が付いていた。


 画面の中で配管工が樽を投げて来るゴリラと戦っている。宇宙船がエイリアンと打ち合っている。コロブチカが流れる禁断の落ち物が表示されている。


 それは電子ゲームであった。


 それは携帯型ゲーム機であった。


 第二世代型ゲーム機に酷似しているが遥かに高性能なそれは、第一世代コンピュータさえまだ開発されていない世界で、初めて触れる電子機器として中毒患者を量産する為に作られ、この1930年代をそして更に先を戦い抜けるスペックを持っていた。


 テレビは普及していない。電気も無い家庭もある。安価でなければ買われない。その全てをクリアした一機一タイトルの大容量太陽電池使用内蔵型ゲーム。シューティング、アクション、RPG、シミュレーション、続々とタイトルが現れ、通信機能で世界ランク発表、複数対戦機能で脳が蕩けてドーパミンどばどば。これが全戦線に投入されたのだから。結果は明らかであった。


 

  1937年12月19日。今年10歳になるアルバート少年は数枚の25セント硬貨を握りしめて例の場所、「未来」がある場所へと走っていた。彼の住む町、発展から取り残された南部の町に「未来」がやって来たのは先月の始めであった。


 現在アメリカで走っているどんな車とも違う、滑るように走りエンジン音のしないトラックから現れた東洋人たち…ドジョウ髭も生えておらず妙な髪型もしていない三人の日本人たち。彼らは何事かと集まった小さな町の住人たちに朗らかに答えた。


 「子供達に未来を宣伝しにまいりました」


 なぜこんなど田舎にと問えば


 「我々は全米に派遣されております。アメリカだけではありません。カナダにも欧州にも派遣されています。これからの子供達に未来を体験して頂くのが私共の使命なのです」


 と胡乱な言葉を吐く。だが既に州当局に話は付いている様で、よそ者…しかも東洋人だ…に不満気だった町長もどうする事も出来なかった。それに満足したように日本人たちはサッサと用意を始める。彼らは街の一角にあっと言う間に店舗を設営し…その為に使用した機械の鎧を見て年寄りがひっくり返る場面があったが…そこに未来のサーカスを広げた。


 ピュンピュンドンドンピチュンピチュン、音の洪水、光の乱舞、ラジオでしか聞いた事の無い未来の世界、レバーとボタンで操作する不可思議なサーカスが其処にあった。一回25セント、高得点を取れれば景品…夜でも明るく見える眼鏡や使うと味の変わるスプーン等不可思議なばかりだ…もある。


 大人たちは気味悪がったがこれに子供達は群がった。そこに白人も黒人も関係なかった。アルバートもその一人だ。彼は学校が終わると小遣いを握りしめてサーカスに通っていた。まあ通い過ぎて小遣いが底を尽き、ここしばらく家の手伝いやら、父にベルトで尻を叩かれる前に勉強に励んでいる事をアピールして大人しくするハメになったが。


 (その我慢の日々も今日で終わりだ)


 もうすぐ。あの角を曲がれば未来が待っている。どうしても高得点を取れなかったネズミの警官とネコのゲームを今日こそ心行くまで楽しんでやる。


 そう思い教会の角を曲がった時、アルバート少年に絶望と言って良い感情がこの時始めて生まれた。あの未来の世界の前で東洋人たちが夢の世界を畳んでいるのだ。


 (嘘だ!止めて!)


 彼に取ってあのサーカスは生まれて初めて触れた未来だった。ラジオも父の許可がないと聞けない程、娯楽の無い、詰まらない世界に差し込んだ大げさに言って救いだったのだ。それが今目の前で消えようとしている。彼は思わず作業を続ける機械を纏った東洋人に駆け寄った。


 「おや。しばらくだね。どうしたんだい?」


 東洋人は呑気にそう言った。彼と熱心にサーカスに通っていたアルバートは顔見知りになっていた。彼はよくゲーム画面を見つめるアルバートを懐かしさを感じている顔で見ている事があり、アルバートがゲームに敗北し、癇癪を起している時などちょっとしたアドバイスをくれる時もあった。


その彼にアルバートは取りすがる様に言った。


 「なんで!もう終わりなの?帰っちゃうの?止めてよ!もっと居て!僕、もっと通ってお金使うから!」


 そんな少年を東洋人は機械の鎧…民間用エグゾスケルトン…の2m以上になる高みから言う。その視線には幾ばくかの優しさと、アルバート少年は気づかなかったが、同類を見る捻くれた喜びがある。東洋人は確信したのだろう。この時代であっても沼に落ちる者は幾らでもいると。


 「クリスマス前には帰れと会社に言われてるていてね。すまないけど我々は開く迄宣伝をする為にいるんだよ」


 「でも!僕も…皆ももっとやりたい!まだ一杯クリアしてないゲームがある!また来てくれるの?もう来ないの?」


 少年はそんな目線には気付く事なく必死に訴える。あれだけ未来の果実を味合わせて置きながら、それを急に取り上げる等、悪魔の所業としか思えない。


 「ごめんね。もう来ないんだ」


 「そんな…」


 だが答えは無常だった。楽園の果実は永遠に取り上げられ、その味を知った今、灰色に感じられる日常に戻らなけれなならない。少年は項垂れた。涙が溢れてくる。


 「ああ!泣かなない泣かない!意地悪だったね。う~ん。分かった!君だけに教えよう。明日の新聞を見たまえ。それとラジオだ。明日のこの時間全米で一時間枠を取ったから聴いて欲しい。きっと驚く筈だ。それと…お小遣いは無駄しないようにね?」


 「なんで?なにがあるの?」


 「それは秘密だ。でも我が社は、勿論我が社以外のどのメーカーも君たちをガッカリさせる事はしないよ。夢を売るのが商売だからね。君たちは幸運なんだ。僕なんてどれだけクソゲーを掴まされたことか…


 「なに言ってるか分からないよ?」


 「いやぁごめん。こっちの話さ。兎も角期待してくれたまえ。そしていつか大人になったらキョウトに来てくれないかな。歓迎するよ」


 「キョウト?どこそこ?そこに何があるの?」


 「一種の博物館さ。君が楽しみ続けてくれて大人になったなら必ず感動する場所でもある。さぁ帰りなさい。明日の放送を楽しみにね」


 そう言って機械の巨人は仕事に戻り、少年は落胆を抱えて家路に付いた。そして次の日…


 


 「「これが欲しい!サンタに頼んで!お願いだから!」」


 アルバート少年はそして全米の子供達は朝のひと時を楽しんでいた親に齧り付き、不幸な境遇にある者も食い入るように新聞の一面を見、自分の財布と相談し、勤勉を行う事を決意した。


 そして夕方、団欒の時間にラジオの声を聴く。


 「今日は特別放送をお送りいたします。驚くべき未来をお子様の手にお届けするとあの国からサンタに便りが届けられました。現在サンタクロースは予定を早めて太平洋の島に飛んでいます。そして現在私は皆さまにいち早く情報を知らせるべくサンタより先にこの場所、日本から放送しております。さあ!どんな物が皆さまの元の届くのか、音声だけなのが心苦しいですが、力一杯がんばります。では未来の国から奏でられる音楽と共にお付き合いください!」


 不可思議な音楽。大人たちには全く理解できないチップチューン。だが子供達は知っている。期待を込めて待っている。未来が手元に届く日を。






 そして皆我々(日本)から離れられなくなる。


 我々を君たちは愛する様になる。

 

 


 


 

 

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― 新着の感想 ―
ろくにゲームのなかった時代にゲームウォッチはヤバい… ラインナップにテ○リスがあるのもヤバいw
しっかり文化的侵略をしてますね! 日本に憧れて皆が日本語を勉強したくなる。 バベルの塔が崩壊する前の統一言語?を日本のコンテンツ(パクリ)が為すのは胸熱です。 アルバート少年、、正に過去の自分だわ。…
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