GET YOUR FUTURE
1937年12月 クリスマス休暇を目の前にした米国は例年にない活況を呈していた。1929年に端を発した大恐慌はこと米国に限っては完全に過去の物となったからだ。これには未来国家日本の支援を受けた長期のインフラ投資と太平洋の向こう側で始まった戦争が多いに関係している。
腹を括った合衆国政府は、新設された未来情報利用シンクタンクの提言も踏まえ、大車輪で戦争準備を始めようとしているのだ。これはチャイナで行われる戦争のみを見据えた物では無い。合衆国はこれを機に欧州で始まるからも知れない戦争。そして世界を二分する面倒事になる前に叩きつぶす予定のソ連を見据えた戦争準備を進める計画なのだ。
これは国民にはまだ明かされてはいない。国民は汚い騙し討ちを仕掛けて来た蛮族(ちょっと前まで同情の対象だった事は都合よく忘れた)で楽に勝てるだろうと思っているチャイナだから戦争に前向きなのだ。これが世界大戦part2になります等と言えば賛成などしないだろう事は分かりきっている。
勿論対策はある。日本だ。日本国が合衆国と近ごろ矢鱈と仲の良い英仏そしてその傘下の国家に対して未来兵器の売却と支援を打ち出し、すんげー未来のスーパーパワーで合衆国軍は強化され、無敵フリーダム軍となると合衆国は大いに喧伝している。
上海の事例。一人も欠ける事無く数十倍の兵力を蹴散らして見せた自衛隊の力はそれだけの説得力がある。また長期のインフラ投資により日本企業の合衆国に進出が本格化し、未来製品が安価に手元に届く可能性、そして雇用を創出し生活は更に豊かになるとも官民挙げて宣伝している。
経済が乗っ取られるのでは?と言う懸念は当然出たが、日本国は合衆国に工場を立てると言っていると政府は明言しているので安心して欲しい(その工場で使う電子部品・レアアース・高度冶金具は向こう数十年日本しか供給できないとは知ってるけど言わない)
「我々は試練を乗り越え、未来を先取りし、星に手を伸ばす」
当人である日本を除き、世界の全てが羨む人工衛星網の光をバックに掲載された新聞の謳い文句に合衆国の人々は未来を夢見、慎重論を蹴り飛ばした。誰だって年に一本供給され常に大入りになる日本映画(吹き替え禁止、字幕のみの厳選された未来映画を他国の人々はどうしても自分達の物だとは思えないのだ)の世界が現実に手が届くなら伸ばしたかった。
さて、この様な状況かでいち早く未来を手にしたのは、相反する様で共通性のある二つの属性だった。一つは軍人もう一つは子供達である。共通性が見当たらない?ある筈だ。
めい一杯腹に詰め込んだステーキと卵を船底に撒き散らす男たちを満載し、上陸用舟艇が地獄のただ中に突っ込んでいく。船の一隻が海底に設置された障害物に乗り上げ、弾き飛ばされた人間が装具の重みに纏わりつかれ一発も放つ事無く藻掻きながら海に沈む。
やっとこさ辿り着いた海岸。前部ハッチが開いた途端、MG42の掃射が男たちを貫き彼らは腸を撒き散らしながら血だまり倒れる。何と無謀な作戦であろうか?
人類の想像しうる最大の火力が叩き付けらる火山島。生き残る物は居ないと確信できる死の島に上陸した男たちを待ち受けていたのは必死の覚悟を決めるエンペラーの軍勢で、入念に隠蔽された火点より雨霰と銃弾が降り注ぎ、バカの様にデカいロケット弾が人であろうと戦車であろうと吹き飛ばして行く。もっと支援が必要な筈だ。
赤いスチームローラーが全てをひき潰していく。どうやって「銃は一人に一丁だ!倒れた者の銃を拾って戦え!」と素で言って来る連中を殺し尽くせるのだ?
「「天皇陛下万歳!」」
銃剣を光らせ突撃して来る人の津波。どこで耐えていたのだ?何処に隠れていたのだ?なぜ手榴弾を手に心中を狙える?戦車の前に爆薬を背負って飛び込んで来る?なんでこんな気の狂ったのを相手にする必要があるんだ?
未来技術を使った超兵士。その第一陣として選抜された兵士たちは悪夢の映像を前に青い顔をし、同席する将官・佐官と言えど頬を引き攣らせている。未来からやって来たセールスマンたちが自分達の製品のセールスの為と見せた来た映画を編集した物にはそれだけの迫力が…幾つかの映像は合衆国国内で上映しようとしたのだが検閲した軍から募兵に重大な問題をきたすとまったが掛かる程の…あった。
この様な映像を編集した物が何のセールスになると…そこまで誰もが思った所で映像が切り替わる。カラーであった画面が馴染のある白黒に変わり。スーツを着こなした一人の男が現れる。
「戦車・砲・航空支援。現代の科学力は素晴らしいですね」
男…一見して白人男性にしか見えない俳優は続ける(日本国には精神的にも脳機能的にも日本人になる事を喜んで受け入れた…ないしは強制的に選ばされた元外国人はかなり存在する)
「ですが今まで御覧になられた様に戦場の女王はその恩恵に全くあずかれていません。そうだろう?」
男が横を向くとディフォルメされたアニメーションの、これまで出て来た敵役に四方からボコボコにされ倒れ伏す米兵…どこか画面の男に似ている…がうんうんとズタボロにされたまま頷く。
「そこで!我が社が自身を持ってお勧めするのがこの装甲服です!」
アニメの米兵は起き上がりバケツとブリキ缶を組み合わせた様な鎧…廉価版装甲服を着込む。
「小銃弾!無意味です!」
フリッツヘルメットを被った兵士のキャラクターが現れ、MP40らしき銃を装甲服を着た米兵に乱射するが全て弾かれ、奪い取られた銃で逆に穴だらけにされる。
「手榴弾!死ぬなら御一人で」
日本兵らしきキャラクターが米兵に抱き着いて自爆するが米兵は無傷で辺りにはややグロテスクな内蔵が飛び散り、ハゲタカがそれを啄み掃除していく。
「当然銃剣なんて問題になりません!」
赤軍兵士のキャラクターたちが飛び出して来て装甲服を纏う米兵を滅多刺しにするが、彼は口笛を吹いて耐え、次々と殴り倒してのしてしまう。
「どうだい?最高だろう?」
スーツのセールスマンが米兵に話掛けると死体の山の上の米兵は頷きサムズアップし、それに答えてセールスマンも親指を立てる。
「我が社が開発した製品は「「皆さまの政府」」の厳格な基準に基づき生産され、命を守ります!もう先ほど御覧になった様な事態は発生しません!」
アニメーションで作られた先ほどの映画の白黒映像が流れる。但し兵士たちは全て装甲服に身を包んでおり、あらゆる攻撃を弾き返し、立ち塞がる障害を粉砕していく。
「これが未来です!未来を貴方の手に!信頼と安全!それが我が社のモットーです!」
ファンファーレ―がなり再度、装甲服の米兵がサムズアップする。注意と一瞬だけ
「本製品は開く迄も現地生産を重視した廉価品です」
「装甲の交換・補修には圧縮鋼板を使用できますが運動性能は著しく低下します」
「想定された戦闘以外で出た損害は保証外です」
「相互リンク、救命、緊急脱出、排泄物完全循環・廃棄システムは基本装備に含まれません」
「現地生産品での防弾効果は24000ジュールを想定されています。不良品に関してのクレームは日本国並びに我が社は受け付けておりません。訴訟は現地政府にどうぞ」
等の文字列が猛スピードで流れて行く。2020年代的感覚からすれば資本主義社会への露悪的な皮肉を感じざるを得ない宣伝方法なのだが、この時代まだその様な感覚は萌芽の段階である為、事の緩急に付いて行けない将兵たちは興味を掻きたてられた様だ。
そして、満を持して米国製装甲服、シンプルにM1装甲服と呼称される様になる新時代の鎧を纏った人物が、明かりの灯ったお披露目会場に現れると、先ほど網膜に一瞬だけ映った不穏は文言は会場の将兵の脳裏から薄れ、次いで行われた公開試験でもって完全に脳内から消え去った。
長時間の作戦行動を可能とする歩兵用装甲装備と言う、妄想でしかなかった存在にはそれだけのインパクトがあったのだ。良い歳をしたオジサンたちは、目をキラキラさせて真の装甲歩兵がスプリングフィールドM1903の銃弾に耐える様を観察し、将官でさえ試着を希望してM2重機関銃を振り回す快楽に酔いしれた。
ここまで見れば軍人と子供の共通点は良く分かるだろう。この二つの属性は「玩具」が大好きなのだ。そして散々見せつけられ、親が買っても良いと言っている玩具を我慢出来ないと言う事も共通している。




