日本軍だ 日本軍が正体を現すぞ
さて、遂に秘密のベールの向こうから現れた日本軍(自衛隊)。その唐突な登場は、前段の海兵隊少尉の反応が示す通り、敵味方両方を混乱の渦に叩き込んだ。軍隊とは魔法の様に突然に表れる物ではない。計画を立案し、兵站を整え、作戦発起地点にえんやらやと多大な努力を持って兵員と装備を持って行く事で姿を表す物で有る筈だからだ。それが猛烈な暴力を伴って唐突に表れたのだ。
日本国陸上自衛隊選抜軌道降下大隊の取った戦術は断首戦法であった。既に衛星からの索敵により敵の配置も司令部の位置も丸裸なのだから、これを切り落とさねば無作法と言う物だと市ヶ谷にいる者共は判断した。
確かに嘗ての世界で同じ事を不用意にすれば、戦車と言わず歩兵戦闘車であっても、長距離から嬲り殺される可能性があった。魔改造されているとは言え、装甲歩兵は歩兵の延長線上でしか無く、何の支援も得られない場所に放り込んで良い物ではない。
北相手に殺戮の限りを尽くせたのは、航空優勢を完全に掌握し、うろつき回る無人兵器と何時でも好きに撃ち込める火砲が相手を塹壕に押し込んでいたからだ。24万ジュールの衝撃に耐える装甲を持つ巨人は一般的な軽歩兵に取っては悪夢の存在だが戦車砲には流石に耐えられぬ。熱源探知を、対人レーダーを誤魔化そうとも当たれば死ぬ。
しかし、この世界、この時代で、戦車はおろか大した対戦車火器も有さない勢力を相手取るなら話は別だ。迅速に展開し、恐怖を振りまき、首を切り落とした上で敵陣を切り裂いて悠々と脱出できる。装甲歩兵は最大72時間の無補給での戦闘が想定されている(着用者の限界を無視すればもっと)ので余裕だ。最悪、包囲下に置かれたとしても増援も補給も宙から送り込める。今回に作戦は如何にスマートに厄介ごとを済ませるかと言うモデルケースなのだ。
主観的にはだ。既に述べたが客観的に見てこれは過剰な戦力投入であった。グダグダと理屈を言おうと、上海の地に居た者に取って日本が投入した物は1000の人型決戦兵器であり、夢想する未来その物であったので、脳の回路をコンガリ焼かれてしまった者が続出していた。それも実用の他、男の子のロマン方面でも焼いていたので始末に悪かった。
天を切り裂いた無数の流星。それが轟音と共に市内へ落ちた後発生した事象に対する感想は目撃者の出身国やこれまで受けて来た教育によって様々であった。宇宙人の襲来と見た物も要れば、戦場に於ける奇跡の発現と見た物もいる。
整然と横隊が進んで行く。その姿を見ていたロバートソン英陸軍大尉はそこに一種の軍事的ロマンチシズムを感じていた。ハッキリと言ってしまえば、彼ら、空から現れ、地面に追突した金属の醸造樽…尻から火を噴いて減速する物を醸造樽と言って良いならば…から出て来た自衛隊を名乗る巨人たちに行為に意味は無い。
否、あったのだが、その意味は100年は前に喪失している。横隊を組み、敵の黒目が見える距離まで発砲を控える行為は現代では自殺と呼ばれる行いだ。しかし、巨人たちはそれを行っている。降り注ぐ弾丸を物ともせず、ただ整然と進む巨人たち。大尉はその行為の意味を一種の威圧行為、または示威行為と捉え、感動すら覚えてそれを見守っていた。
(ああ、未来はそれが成せるのだ。圧倒的な力の差を分からせ捻じ伏せる。嘗て私たちがやって来た様に)
『Make Ready!』
中国人たちの発砲音に負けぬ声、機械に増幅された大音声が朗々と響く。
『Present!』
巨人たちが狙いを付ける。どう見ても人が一人で持ち運んで良い大きさでは無い、武器であろうとしか理解できない形状の物すら交じる兵器で敵を狙う。
『Fire!』
白煙は上がらなかった。だが殺戮は発生した。現在の軍事常識に乗っ取り、出来うる限り遮蔽物に身を隠して迫る巨人を射撃していた中国人たちの攻撃が止まった。
『Cease Fire!』
それに満足したのか巨人たちの射撃も停止する。指揮官役の巨人が武器…剣でなく斧なのが不満だが…を掲げて叫ぶ。
『Charge!』
着剣は必要ないのだろう。あの鎧の何処に人体が触れようと次に起こるのは無残な結果な筈だ。横隊が進撃する整然と信じられない速さで、そして戦場に断末魔の叫びが響く。
「良い…」
そこまで見届け大尉はポツリと呟いた。誉が其処にあった。理想が其処に夢が其処に、例え血に濡れていても、英国陸軍士官として憧れる物が其処に。
仏陸軍所属ベッソン中佐が見た物はもっと露骨で男性的な物だった。ロバートソン英英軍大尉が見たのは暗黒大陸でズールーの大群相手に今も抗戦する亡霊の一群であったが、ベッソン中佐の眼前に現れたのは天国ないしは地獄に向かって突撃を続ける男たちの混成軍だった。
何故に『ヴィーヴ・ランペルール!!!』と『ヴィヴ・ラ・レピュブリック!!』が同程度混ざり合っているのか分からなかったが勇壮なのは確かだ。
「「大陸軍は地上最強!!」
雄叫びを上げる巨人の狂奔。突き刺し、切り裂き、叩き潰す、銃剣が嘘を付かない戦場で敵をミキサーに掛ける行為が行われて行く。
(アレがもしあそこにあったなら…)
英国人が巨人に憧れを抱くのであれば、フランス人は其処に後悔と郷愁を思い出す。新米少尉として見たソンムの肉引き機に彼らが居たならもう少しは部下たちも故郷に返せた筈だ。その思いと共に浮きあがって来る物もある。
(今からでも遅くは無い筈だ)
それは酷く帝国主義的な感想だった。あの歩く要塞がサイゴンの通りに立っていれば?アレが騒ぎ立てる独立主義の愚か者たちの列に三人ほど殴り込んだらさぞや愉快な光景が見れるだろう。
1937年8月18日 戦車を含む虎の子の重装備を悉く破壊されたばかりか、司令部機能まで潰された民国軍は上海市内より撤退し。8月26日 満州・フィリピンから来援した米国増援部隊の到着により戦力再編の為、上海周辺からも撤退する。英米仏は一連の攻撃に対し民国政府に正式に抗議と賠償を求めるが民国側はこれを拒否した。
米国世論はこの民国の対応に沸騰。中華の混乱は混迷の度を深めて行く事なる。




