そうだお前が始めた
こんな事は望んではいなかった。
「北支戦線の損耗率は60%と軽微。ハ225からハ321の連隊の派遣が済み次第攻勢を再開」
誰もが幸せになる世界を、日本を望んでいた。
「アンカレッジ要塞包囲軍より入電、敵、反応砲弾備蓄の破壊に成功。これより第5次総攻撃を開始す、天皇陛下万歳」
その結末がこれ。
「ガス散布並びに細菌散布作戦成功。チタ市の壊滅を確認。ノ第3軍より有機資源回収を求むとの連絡あり、ウラウンデ要塞での回収終了後、回収部隊を派遣」
彼らは、私が幸せにしたかった人々は死んでしまった。これが傲慢の報いなの?これがチートを使う事への罰?私はただ日本から不幸を無くしたかっただけ。皆が笑って暮らせる国を作りたかっただけなのに。
「どうされましたか閣下?医務官、閣下の調整を」
「必要ありません。それより第666工廠の生産ラインに遅れが見られます。有機資源の増配を行いなさい」
「承知いたしました」
私の副官、否、世話係と監視員を兼ねた少年の能面の様な顔に一瞬だけ感情が浮かぶ。憎しみと贖罪意識だけを刷り込まれた彼は己を心中で百万回の銃殺に処しているのだろう。
ここは煉獄の底に作られた帝国の心臓。60年代の初め驚異的な繁栄を開始した日本国、衰えぬこと無き繁栄と土木・生物化学工学での追随を許さぬ発展を憎まれた人々の逃げ込んだ場所。
私は愚かだった。令和の価値観、平等の夢、希望の未来を語る事を、勝者は冷たい戦争の指し手たちは決して許さなかった。なぜ私はあれほどまでに傲慢だったのだろうか?
「米東海岸より弾道弾の発射を検知、到達まで180秒」
令和の世であればこの世の終わりを示す筈の言葉が無感情に報告される。彼らはそんな物で歩を止めない。僅かな振動が私に繋がれた無数の管を揺らす。それだけだ。
「旧習志野要塞跡に着弾を確認。弾種、水素反応弾と推定。損害報告急げ」
ほら、やっぱり。嗚呼、チートなど使うべきでは無かった。現実の世界を思うさまに操れる等、人には過ぎた物なのだ。
「閣下、損害報告でました。対応を願います」
「分かりました」
私の脳内に情報が流れ込む、そこにあるのは純粋な謝罪の意思、自分達が帝国に、日本に奉仕出来なくなる事への許しを願う無垢なる祈り、運悪く直撃を受けたとある工廠の労働者たちの思い。私は、彼らを、幸せにしたかった人々を殉教者になり果てさせてしまった。
そう人には過ぎた物なのだ。私に気まぐれに与えられた物は使うべきではない。けれど…けれど…
責任を取らなければいけない。
彼らの祈りを受け止めなければいけない。
死んだ者に、これから死ぬ者に、死に続ける者たちに、私と同じく、私の身勝手に苦悩し続ける人に報いる必要がある。
「天皇陛下万歳」
「天皇陛下万歳」
全能の神への祈りと同義になった言葉を唱え、私の傍らにいる罪なき子羊もそれに続いた。




