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あの…我々貴方のファンなんスよ

 ウォルト氏連行事件の前に、生臭い理由について先に語ろう。


 権利問題である。これは単純だが深く難しい問題であった。日本国が確かに未来から来たトンチキだと確認した列強各国はその隔絶した軍事力にも恐怖したが、一番に警戒したのは経済力、そしてその裏付けである未来技術であった。


 1920年と言う過去の住人であろうと知能に差は無い。彼らが恐れたのは日本国がこれから1920年の世界が作り出すであろう技術にツバを付けて回る事だった。


 少し考えれば分かる。未来から来た国は殆どの資源が自給できるか、良ければ各国に輸出しましょうとまで言って来ている。詰まり1920年時点では試験段階のゴム、繊維、石油、レアアースまで人造で用意出来る。


 これは驚異だ。もし、もしである。日本がその全てのパテントを独占し、またこれから生まれる新技術を先に登録して権利を要求したら?


 何も作れなくなるだろう。ネジの巻き方一つ自由にはならなくなりイノベーションは死ぬ。現に極秘情報であった筈の日本の医療技術、癌の根本治療、神経再生、精神・知能疾患治療情報が漏れ、製薬メーカーの株が一時急落している。どうにかして日本で研究させろと熱くなっているのは医学研究者だけだ。


 1920年の各国は出来れば日本を永遠に封鎖したいと思うのも無理はない。だが圧倒的な軍事格差がそれを許さない。1922年のワシントン海軍軍縮条約が纏まらなかった事からもそれは分かる。


 「「あの…戦争終わったばかり何で軍縮…日本帝国の後継国でしたら参加…」」


 「私気にしないよ対日10割でも?じゃんじゃん作って!安全保障大事!」


 「「あの…貴国が駆逐艦と言い張る重巡88隻に対向するとなると予算が…戦艦もその…止めて貰えませんかね?ネルソン級の倍以上の満排水量の量産するの…」」


 「そっちも作れば?文句言わないよ?」


 「「削減とか…」」


 「ヤダ」


 「「はい…」」


 酷い話しであるが以上の様な話し合いの結果、敗戦国は締め付けるとして日本を除く各国は血を吐くマラソンを強要される事になっていた。


 この様な常識外れを止める手立ては今の所無い。なので各国は頼むから世界を破壊しないでくれと未来国家へ条約交渉に望んだ。


 意外な事に日本は鷹揚であった。日本政府は各国との外交・経済交渉の場で技術パテントの独占はしない事、日本が特許主張をするのは2000年以降に発明された技術に限ると約束したのだ。


 勿論ただでは無い。各国は日本が現在が有している1920年から2000年までの技術特許を要求しない事、そしてここが重要な事なのだが条約発行後から2018年までの芸術・文芸・音楽・映像などの著作権を日本国に要求しない事を各国は飲まされた。


 現代の価値観からすれば無体すぎる要求で有る。だが条約交渉時、各国は「これ位で力に物を言わせて全てを乗っ取られるよりは」と受け入れた。


 1920年代の国々はまだソフトパワーが如何に強力な影響力を持つと理解出来ていなかったのだ。そうだろう。まだトーキー映画でさえ未登場なのだ。


 トーキー映画の登場によりハリウッドは世界を支配し、英語は真の世界語に、誰しもがアメリカの生活に憧れる時代が来る。そんな未来は、まだ来ていない。


 其処に日本は殴り込むつもりなのだ。日本語吹き替えでのみ遥か未来のコンテンツを!其処には日本の意図が入り込んでいる!


 続々と日本から配給される選び抜かれた小説・コミック・漫画・アニメ!最新話が見たいなら日本語を学べ!そして憧れるのだ日本に!好きになるのだ我々を!いずれはデジタル音楽を!ゲームを!63年早くお前たちを虜にしてやる!


 娯楽を求める日本人にも益はタップリある!御大が新作を書くハメになった通り、この世界で燻っている、またはまだ産まれてもいない彼ら彼女らは然るべき時、日本に連行され、決して権利を主張出来ない子供たちの栄光で称えられ嫌でも新作を書く事になる。


 本当の栄光が欲しければ新作作れ!新作!


 筆を折る?許さん!金が欲しいか?寿命を伸ばしたいか?アニメ化か?舞台化か?我々が嫌でも栄光に導く!だから書け!作れ!奏でろ!我々は貴方が好きなんだ!続きを長い事待っていた!


 だがちょっとその前に障害を潰す必要がある。まごう事なき世界帝国を作った男。


 まず間違いなくあらゆる手で、其れこそ国を動かしてコンテンツを守ろうとする(前の世界では実際に動かして著作権期限延した)彼の心を折り協力した方が良いと思わせなければ、これから現れ続けるtoughな奴らを相手など出来ない。


 それ故にウォルト氏は日本に連行されたのだ。




 ウォルト氏の日本への道中は一種の拷問だった。1928年、自身初のトーキー短編アニメ「蒸気船ウィリー」で大事な息子に大成功を収めさせた後突然きた日本への招待。彼はこれを拒否するつもりではあった。息子の人気は徐々に上がっていき会社の再建に何とか目途がついた大事な時期なのだ。ここで会社に勢いを付ける為息子とは別にシリーズも立ち上げてもいる。何故極東まで長い時間をかけて行かねばならないのか?


 だがそんな彼の思惑を見越した様に日本政府が直々に彼の会社に対して10万ドルを融資しようと言って来た。そうなるとどうにも拒否は難しかった。しかも日本は彼の作品に注文を付けず好きに作って良いとまで言うではないか。条件は日本に来て日本政府との交渉に応ずる事だけである。


 有名にはなってきたとは言え、一回のアニメスタジオに何故とは思った。同時に嫌な予感もした。自分の領分ではないが、日本に招待された怪奇作家が途端に金持ちになり、彼の作った小説と世界観を元にするシェアードワールド作品が爆発的に流行していると聞いていたからだ。


 幸運な話だと思うと同時に不気味なのだ。鳴かず飛ばずの木っ端小説家だった件の人物は日本から帰った途端それまでの不遇が嘘の様な成功者になった。胡散臭い事この上ない。


 幸運は人に与えられる物ではなく、つかみ取るものなのだ。どう見ても他国政府の後押しを受けての成功など真の成功とは言えない。例え本人に才能があったとしても自身の才覚で成功できないならばそれまでと言うのが貧乏を舐め尽くしたウォルトの見解だった。


 だが金に罪はないと言うのも彼の持論であり、悩んだ末会社を兄に任せ彼は単身訪日する決意を固めた。それが良くなかったと分かったのは、日米修好空路と名付けられ一部の大金持ちと政治家だけが乗れる一日一便しか飛ばない超大型旅客機の席に着いた時だった。


 空の旅自体は問題は無い。無いと言うより快適その物だった。富豪たちの為に作られ、最高のサービス、シャンパンと美食に酔い知れながら横になって空の旅が出来た(機内絶対禁煙、我慢できないならニコチンガムを噛めと言うのが癪ではあったが)


 だがそこで放送されていた物。実用化目前だと言われていたテレビジョンの遥かに高性能な完成品に映し出されていた物が大問題だった。彼の目は其処に釘付けにされてしまったのだ。


 そこには自分の夢が動いていた。カラーで、短編で、中編で、大長編で、アニメーションと音楽と実写が組み合わさり、華麗に流麗に自分が思い描いている通りに動いていた。そしてそのエンドクレジットには彼の名前が必ずあった。夢の物語りの配給は自分の会社であった。


 この様な侮辱はあろうか?何故この様な真似をする?ああ確かに未来から来たのだろうさ!それは認めよう。だがこれはないだろう!人を呼びつけて置いて、その人物のこれからの努力の結晶を先に見せつけるとは!


 彼は怒りが抑えられなかった。添乗員を呼びつけてありったけの高い酒を持ってこさせる位には怒っていた。飲まずにはいられなかった。ご丁寧に彼にこれからの人生の栄光と挫折とやらまで映画仕立てで放送してくれたのだ。


 (ああ!!クソ!!アカ共!!俺のスタジオを滅茶苦茶にしてくれたな!!)


 それも怒りの原因だが、見せられる物見せられる物全てに改良の余地があるのが憎い。この時は金がなかったのだろう。この時はスタッフが足りなかったから使いまわしだ。これを作った自分は衰えが来ている。分かるのが猛烈に腹がたつ。今の自分がもう一度作るならばもっと良く出来る筈だ。


 彼が日本の土を踏んだ時、両側から支えられないと動けない程に酔いと怒りに参っており、歓迎のセレモニーもぶっちして車に用意された車に乗り込み次の日までホテルで寝込んでいたのはその様な理由があった。




 「ああっもう!!頭が痛い…!!クソ!!ジャップ!!なんて物見せてくれる!!」


 痛む頭を押さえながらベットから起き上がったウォルト氏は、日本人を呪う声を上げて辺りを見渡した。どうやらホテルらしいが、泊まった記憶さえない。酒と怒りに溺れた自分は前後不覚でベットに倒れ込んだらしいのだ。


 一服付けようとベット回りを探すが空港で取り上げられてしまい持ち合わせがない。一しきり部屋を探し回ったがスイートらしき豪奢な部屋だというのにタバコも灰皿もマッチも無い。


 (まったくサービスがなってない!!)


 何故未来の日本人はそこまでタバコを憎むのだ!理解できない!取り敢えず冷蔵庫は見つかったので中にあった透明なやけに軽い瓶から水をがぶ飲みし、落ち着いて再度周りを見渡すとベットルームの先に居るテーブルに乗った彼の息子の像と目が合った。


 (そんな顔で見るな!)


 どうにも呆れた顔をされた気がしてウォルト氏は息子に毒ずく。シャワーを浴び、用意されていた(腹の立つ事にピッタリのサイズだった)スーツに着替え部屋を出る。此処に自分を呼びつけた相手の顔に一発くれてやる前に腹ごしらえがしたかった。


 部屋を出た所でベルボーイと出くわす。一瞬驚いた顔の彼はニッコリと笑って自分に挨拶して来る。


 「おはようございます、ミスターウォルト。ホテル一同貴方さまのお帰りをお持ちしておりました」


 「変な事を言うな君は。お帰り?私はここに一度でも来た覚えはないんだが?」


 「ええそうでしょうとも。ですがここは貴方の国ですから。お帰りが正しいと私どもは考えるしだいです」


 「国?なにを?まあ良いレストランへ案内してもらえるか?食事がしたいのだが」


 「少々お待ちを。直ぐ支配人を呼んでまいります」


 「なんで道を案内するのに支配人を呼びつける必要が…」


 「貴方様の国ですので」


 そう言いベルボーイはお辞儀をして去って行った。代わりに控えていたように支配人を名乗る男が現れる。


 「お早うございます、ミスターウォルト。お帰りをお待ちしておりました」


 「またそれか…それは今も聞いたぞ。君たちは何を言ってるんだ?」


 「はい分かっております。ですがここは貴方様の国ですので一応は」


 「それも聞いた。良いから食事をさせてくれないか?」


 「ではこちらにどうぞ」


 支配人までおかしな事を言う。いい加減呆れていると彼は先に立って案内を始めるので仕方なくついていく。するとどうであろうか。道すがらすれ違う人々は皆一様に


 「お帰りさいませ」「お待ちしておりましたMr」「ようこそお帰りを」


 と頭を下げる。レストランに付けば客らしき人々は不躾ではないがチラチラと自分を見て壁に掛かっている絵画に目をやる。自分も其処を見れば息子と二人で並ぶ年老いた自分がそこにはいた。


 正直たいして食事は喉を通らなかった。機内で見た不思議の国のアリスの世界に迷い込んだようだ。


 (となると。そこでニコニコしている支配人はチェシャ猫で客はマッドハッターか?全員が私をからかっているのだろか?)


 食後のコーヒーを飲みながら益体もない事を考える。飲み終えた所で支配人がニヤニヤしながら(もうニコニコとは思えない)寄って来る。


 「ミスターウォルト。所で外は御覧になられましたか?当ホテルの展望階から外をご覧いただければ、私どもが貴方様にここが貴方様のお国だと申しました理由がお分かりになるかと」


 (ああそうかい。では見てやる)


 食事を切り上げ、半ば投げ槍な感じで支配人の案内で展望階まで登る彼。そこで目にした物は…


 「これが私の国か?」

 

 「そうです。貴方の国でございます。貴方の夢、貴方の熱意が作り出した国です」


 眼下に広がる夢の国がそこにはあった。呆然とするしかなかった。自分の理想が作りたかった現実世界に広がる夢の国がそこにあった。


 「あそこに行きたい!どうすればい良い!」


 「ご安心を直ぐに迎えがまいります」


 「早くしてくれ!」


 飛び出す様に彼は展望フロアから走り、エレベーターのボタンを連打するとロビーでウロウロする。まつこと暫し、煙草を持ってない事に再度怒りがこみ上げて来た所で迎え、日本政府が派遣した案内役と夢の国を経営する日本企業の役員がやって来る。


 「紹介はいい!早く連れて行ってくれ私の国に!」


 彼は怒鳴った。そこには子供が居た。人一倍夢を見た世界の子供の代表がいた。


 彼は走って入場した。


 バザールを通る。


 貸し切りではない。多くの笑う子供の声が聞こえる。


 道行く人が彼を指さす。「彼だ!」「ウォルトだ!」「テレビで見たぞ!帰って来た!」


 言葉は分からずとも分かる。


 皆が自分を知っている。


 キャストが道を開く、皆お辞儀している。


 これから作る筈のキャラクターも物売りも掃除夫も彼の思った通り丁寧に夢の国の住人として。


 城が見える。夢の城が。


 その手前で息子が待っている。


 年老いた私と息子が手を繋ぐ銅像の前で。


 涙が溢れる。自分は成功したのだ。やったのだ。


 この未来の極東に夢の国があるなら世界全てにだって私は同じ物を作っている筈なのだ。


 私は望んだ通り夢を現実に作り出した。


 息子の手を取る(無論着ぐるみだが)フラッシュライトがたかれ、拍手の雨、そしてパレード


 ウォルト氏は得意の絶頂にいた。


 そして脳の冷静な部分が囁く声もまた聞こえる。日本人は一瞬にしてコレを自分から奪えるのだと。


 自分の夢、自分の国、自分の努力、自分の未来を日本人は奪える。


 彼はまだ何も作っていないのだ。夢はまだ夢のまま脳の中に留まっている。


 日本側の交渉担当者だと名乗った物たちがニヤニヤと笑っている。


 あのチェシャ猫の笑みで。


 アリスをわらっている。


 ウォルト氏はアリスは現実に帰る事を選べなかった。栄光を見せつけられそれを取り上げられる恐怖に勝てなかった。彼に続く者たちと同じ様に夢を見続ける事を選んでしまった。


 ウォルト氏の会社。世界帝国を作る筈の夢の工房はその後、日本資本(彼の会社の未来の日本法人だ)の大規模投資と日本国に関しては著作権利を要求しない事に同意した。


 


 



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