世逃げだ本邦
「ワイは悪い狸やないんです!山に帰して!山に帰して!」
「テメェは金を食い殺した上に、世界経済まで燃やした化け狸だろうが!習志野の演習場に括り付けてやるから大人しく的になれ!」
「お慈悲を!お慈悲を!」
居酒屋での乱闘から数時間余り、警視庁SPに捕縛され逃走防止の為、縄と結束バンドでグルグル巻きにされたバカの叫びに対して与党幹事長は無慈悲に告げる。
そう言いたくなる程日本国の置かれた状況は悪く、この事態を招いたバカは何も考えていなかったのだ。
「だからねぇったろ!ど阿呆!」
「折檻や!お父ちゃん!コレは体罰ですよ!誰か児相呼んで!」
「俺はお前の様なガキ持った覚えはねぇ!」
ポカりとやるとまだ憎たらしい事を言う。実は余裕あるんじゃないか?コイツ。よもや本当に考え無しだとは思わず、何か悪巧みの延長だろうとバカに己の置かれた現状を伝えカマを掛けたのだがアレである。
「まあ、落ち付いて下さい幹事長。彼もこうして大人しく捕まっているからには反省はしているんです。コレまで彼だったら、例のチートとやらを使って一目散に逃げるなりしてる筈。随分と人馴れしたんですから此処は離してあげましょう」
「流石は首相!大宰相!ワイは無実!ワイは良い子!だから許して!」
そんなバカ狸に助け船を出したのは、バカが連行された首相官邸の主だった。バカを飼育して長いので彼は扱いに慣れていた。
「だがなぁ。コイツ本当に考え無しだぞ?今の今まで自分の危機にも気づかなかったんだ」
「私達は一連托生。彼に足らない所が有れば其処を足してあげれば良いんです。彼には力がある。アイディアが有れば何とか出来る筈です。ね?」
「そうや!ワイはやれば出来る子!長い目で見て?」
バカは優しい言葉に感動した。
「ダメだったらどうする?」
「その時は狸汁にして米大統領に振る舞いましょう。全力で媚びれは剥いだ皮ぐらいは我が国にも残る筈です」
優しくなかった。切り捨てる気満々である。
「鬼!ワイを売る気ね!全力で抵抗するぞコラぁ!チート転生者舐めんなぁ!ワイが死ぬなら世界を燃やしてやる!愛が無い世界にNo!ラブ&ウォーじゃ!」
「コレだよ。本性出したな小僧。それをする覚悟があるなら何か良い案ぐらいだせるだろうが」
「その通りです。茶番は終わりにして善後策を決めましょう」
「何?ワイだけなの必死だったの?ワイを売るんじゃ無いの?」
「テメェは売られそうになったら、今自分で吐いた通り、日本を巻き込んで世界を燃やすだろうが。んな事こっちは出来るか!」
「売っても破滅、売らないでも世界から袋叩き、なら貴方に賭けてどうにかするのが私達の仕事です。貴方何処か他人事でしたから、少し芝居をしたんです。少しは危機感持って貰えました?」
「ワイ弄ばれた…大人嫌いや…」
巫山戯ていても、えっ!俺ってこのまま出荷ですか?一人で世界相手にすんの?と言う内心だったバカは縛られたままヘナヘナと崩れた。
「では我々3人しか居ませんが、日本のいく先を決めましょうか?民主主義の理念からしたら最低ですが、完全に無視出来る存在がいるんです、拙速ではあっても速さが大事でしょう」
「コレばかりは中国でも真似は出来ねぇからな。さて逃げるか戦うか、1941年よりマシだが難しいな。あっそうだオイ小僧、首相が陛下に上奏する時は一緒に行けよ?オメェ、陛下だけは怖がってお合いしなかったろ?一度怒られて来い。言っとくが静かに怒られるのは心臓に来るから覚悟しとけ」
「ヒェッ!ワイ地下人!殿上不可能!」
「いつの時代の話だ!オメェは陛下の許可なしに征夷大将軍してんだから地面にめり込むくらい土下座しろよ」
「はい。なぁ逆賊にはならんよな?朝的は流石に嫌ややわ」
「今まで散々国政を壟断してた奴の出るセリフかそれ?」
「一応、私も取りなしますよ。それよりどうします?戦いますか?今度は負けないでしょうが一方的には勝てないでしょう。逃げるにしても彼らは貴方を要求するでしょう。日本国民全てを巻き込んで戦争か一生籠の鳥か」
「どっちもやっぱ嫌や!う〜んなんか良い方法は…」
「この世のどっかに逃げ場があれば良いんだがなぁ」
「この世…世界…せや!」
しばし頭を捻る3人、その様子さ日本の命運を決めるには些か頼りなかった。仕方がないだろう、一億国民が背に乗っているのだ。だか天啓は降りた様だ。
「逃げる!ワイは逃げる!ワイは戦後教育ボーイやから、臆病でも勝てん戦いは決断できん!」
「何処にだ?場所はねぇぞ?」
「ある!誰も手出し出来ず日本国民も納得出来る場所が!幸いワイのチートルールにも抵触せん!」
「それは?」
「過去や!」




