強盗の成功率ってどのくらいあるんだろうか
学食を後にした俺は、かざりちゃんと行動を共にしていた。
「先輩と一緒に歩いてると、不審に思われないかな……」
「唐突に失礼だね」
「だって! さっきから私がいるのもお構いなしにナンパしてますよね!?」
「この大学美人さん多いから仕方ないよね」
都会の大学は地方の大学に比べてイケメンや美人が多いとは聞くが、実際はどうなんだろうか。
「しかも大体成功して連絡先交換してるし! そのたびに隣にいる私が不審な目で見られるんですよ!」
「ごめんて」
「私と話せばよくないですか!」
「おっと、これは脈ありかな?」
「違います! ほらコンビニつきましたよ」
これが照れ隠しというやつか。
学食で初めて出会ったばかりの彼女とは、共通の専攻だったということもあり、なんだかんだ仲良くなっていた。昼休憩の後は講義があったのだが、教授が風邪で休講になったらいいなと考えてたら本当に休講になってしまった。その後はかざりちゃんの誘いもあり、一緒にコンビニでスイーツを食べようという話になった。
「私に嫌な思いをさせた罰です! 先輩がおごってくれますよね?」
「仕方ないなー。なんでも奢っちゃうぞ」
「え、本当にいいんですか! ありがとうございます!」
コンビニに入ると、かざりちゃんは目をキラキラさせながらスイーツコーナーに直行した。
「これ、絶対美味しいです! 先輩、これにしましょう!」
指差されたのは、今流行のスフレチーズケーキだった。その色合いに思わず目が行く。
「良さそうだね。じゃあ、これを2つ買うか」
「あ、でも私、他にも気になるのがあるかも!」
彼女は目を輝かせながら別のスイーツを探し始める。
「スイーツ選びは楽しむべきだよね、先輩も一緒に選んでくれますか?」
「もちろん! それじゃあ、好きなだけ選んでいいよ。」
そう言うと、かざりちゃんは嬉しそうに笑顔を返してくれた。
ううむ、美少女の笑顔は栄養満点だな。そんなことを考えていると、レジの方が何やら騒がしくなってることに気がついた。
レジの前にいる全身黒ずくめの男が店員に向かって何かを突き付けるようにしていた。
「おい、大人しく金を出せ! さもなくば……撃つ」
男が取り出したのは、拳銃だった。その瞬間、レジ近くにいた客が悲鳴をあげる。
「うるせぇ! 静かにしてねえと、お前らも撃つからな! 大人しくしてろ!」
緊迫した状況が訪れた。かざりちゃんも状況を察したのか笑顔は消え、彼女の目は驚きと恐怖に満ちていた。店内は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだ。
「あ、あの……何が起こってるの?」と、かざりちゃんが震えた声で問う。
「冷静になろう。まずは隠れよう」私は彼女の手を取って、店の奥へと引っ張った。視線を逃れようとして、目を閉じることもできない。
レジの近くで立っている人々は、恐怖に満ちた顔で動けずにいた。脅迫する男の声が耳に残り、心臓がどくどくと高鳴っている。
「静かにしていれば、大丈夫なはずさ」俺は声を低くして言った。かざりちゃんの手は冷たく震えていた。
「どうしよう……何もしなければ、あの人が……」
「まずは、警察が来るまで隠れていよう。目立つのは危険だ」
その時、店員が男に何かを言っている。動揺した様子で金銭を出そうとしているが、それでも男は不安定さを隠せないようだった。
「この国も物騒になったもんだな」と心の中で考えながら、俺は周囲の状況を冷静に観察することにした。かざりちゃんを守らなければならない。それが男の使命だ。
「先輩……怖い、どうする?」かざりちゃんは私の肩に寄り添った。彼女の不安を少しでも和らげようと、俺はできる限り優しい口調で答える。
「大丈夫、アイツの思い通りにはさせない。もし何かあったら、すぐに逃げる準備をしておこう」
その言葉が彼女に少しの安心感を与えたのか、彼女は俺の手を強く握りしめていた。
次の瞬間、男が店員に何かを投げつけた。レジが崩れそうになり、騒然とした雰囲気が広がる。男は興奮した様子で銃を振り回している。
……ん? 振り回す?
思えば男は一度も銃を撃っていない。それにも関わらず、この場にいる全員が男が持っている銃を本物だと確信していた。いや、偽物の可能性を考えもしなかったというのが正しいか。
「もしかしたら、そういう異能なのかもしれないな」
「え……先輩?」
かざりちゃんが不安そうに俺を見つめているのを感じ、心の中で考えが続く。もしこの男がただの脅しで、実際には銃が偽物だったとしたら、チャンスがあるかもしれない。だが、冷静な判断が求められるこの状況で、彼女を危険に晒すわけにはいかない。
「かざりちゃん、君は少し後ろに下がって。俺が様子を見るから。」
彼女は心配そうに目を丸くしたが、俺の真剣な表情を見て、頷いた。少し下がると、俺はレジの様子に目を向けた。男は銃を振り回していたが、周囲にいる人々が逆に怯えているだけに見える。
「もしかしたら……」
直感が働く。もしあの男が銃を撃てないのであれば、何も怖くはない。この状況を変えることができるかもしれない。とはいえ、相手は犯罪者だ。リスクも大きい。
「先輩、何を考えてるの?」かざりちゃんが俺の反応に気づき、緊張した声で尋ねる。
「もう一度、彼の動きを見極めるから、もう少しだけ静かにしていて」
心拍数が上がる中、俺は冷静さを保ちながら観察を続ける。男が焦っている様子、目が周囲を見回している。そして、少しずつ後退する店員がいるのに気づいた。
「ふむ、そうか。これなら……」
きっかけを掴むためには、まず一歩を踏み出さなければならない。俺は深呼吸し、心の準備をする。
「かざりちゃん、惚れちゃっても、知らないよ」
「先輩、でも……!」
「大丈夫だ。俺がなんとかするから」
その言葉を最後に、俺は踏み出す決意を固めた。男の視線を捕まえ、少しでも男の不安を揺さぶることで、事態を変えようとする。
男の近くまでなんとか近づき男に向かって叫んだ。
「おい、待てよ」
「なんだてめぇ?」男が振り返り、動揺した表情を見せる。
「そそのかすわけじゃないが、その銃、偽物なんじゃないか? 撃つつもりなら、さっさと撃ってみろよ」
周りの空気が一変した。驚いた視線が男に集中し、静けさが広がった。