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無敵のナンパ師  作者: kuzusaya
3/5

学食

 ――都内のとある大学の学食にて。


「うわーやっぱり席もう空いてないね」


「ほんまやね。どないする?  少し歩くけど、別の学食まで移動せぇへん?」


「どこいってももう空いてないかもね、はぁ」


 時刻は12時30分。大学の学食には、昼食を求める学生たちが溢れかえっていた。2限の講義が終わり、昼飯時だから当然だが、ここまで多いといくら広大な学食でも席はほとんど埋まってしまっている。そんな場所の入り口で二人の少女は困惑していたが、立ち尽くしていても仕方がないと判断し、別の場所へ移動しようと足を動かしかける。しかし、ふと目に飛び込んできた光景に足を止めた。


「あれ、なんであそこだけ人がいないんだろう?」


 学食の中央に位置するテーブルだけは、まるで存在しないかのように人々から避けられていた。そこには一人の男が座っていたが、外見は何の変哲もない普通の黒髪の大学生だ。


「ねぇ、あそこ見て!」


「ん?どないしてん急に……あっ、あそこ空いてるやん! とられる前に行こう!」


「うん!」


 二人の少女は急いでそのテーブルへと向かった。到着すると、黒髪の男は二人に気がつき、目を向けた。どうやら彼は、コーヒーを飲みながらスマホをいじっている最中のようだ。


「あの~、すみません。同席いいですか?」


 黒髪の男は、満面の笑顔でこう答えた。


「どうぞどうぞ! いや~、君らのような美少女と同席できるなんてラッキーだわ~! じゃんじゃん座って、前の席じゃなくて隣でよろしく!」


――――


「それで二人はどういう関係なんだっけ?」


「はい? いきなりどうしたんですか、変t…先輩」


「なんや? ナンパ男」


「あれ!? なんか冷たくない!?」


 マスターの美味しいコーヒーをゆっくり楽しめなかった俺は、大学に足を運んだ。しかしそのまま行けば1限の講義にも間に合っていたはずなのに、実際に着いたのは12時過ぎ。道行く女性をナンパしていたからだ。後悔はしていない。


 「勉強は午後から頑張ればいい」と考えながら、学食へと向かった。混むことは知っていたが、美味しいコーヒーを出してくれるお気に入りの場所だ。今日は珍しく、可愛らしい二人の客が訪れた。一人は茶髪のロングヘアで、毛先をウェーブさせた如何にも今風の女性、椎名かざりちゃん。もう一人は黒髪のショートカットで、そのシンプルな髪型が逆に彼女の容姿を引き立てている白雪糸ちゃん。どちらも美少女と言って差し支えない存在だった。テンションが上がってしまうのは当然だろう。


「自分の言動を省みてください……。ナンパは慣れていますけど、あそこまで初対面の人に情熱的に言い寄られたのは初めてでした。」


「自分、イケメンやなかったら逮捕やな」


「素敵な女性が目の前に現れたんだから、仕方ないと思うけどなぁ」


 男として当然の行動をしたまでだ。うん。しかしほんとに……。


 ふと、俺はかざりちゃんの茶髪の頭に手を乗せてしまった。


「頑張ったんだね、うんうん、すごく可愛いよ。」


「っ/// や、やめてください先輩……」


 彼女の容姿は優れている。もちろん、それは天性のものが大きいだろうが、その奥には努力の影が見え隠れしている。自分もそんな努力をしてきたからこそ、その苦労がよくわかる。努力していることがバレたことに気づいたのか、彼女は恥ずかしそうに俺の手から逃げるようにして、糸ちゃんの片腕に縋りついた。


「いとぉ~!」


「……セクハラはそれくらいにしいや、自分」


「あぁ、ごめんごめん!」


 彼女の言葉に、俺は思わず苦笑する。「ほんまにわかってるんか」と糸ちゃんが言うと、俺は心の中で肯定した。


「うんうん、糸ちゃんも可愛いよ。」


「はぁ、それはおおきに。」


 胡散臭そうにため息をついた黒髪の彼女は、隣でうーうー唸るかざりを宥めると、目の前のコーヒーカップをそっと手に取り、口に運んだ。


「いや、それ俺のコーヒーなんだけど」


「ええやん、美少女の唾液入りコーヒーやで」


「いくらでも飲んでいいよ」


「筋金入りやな……」


 彼女はコーヒーを飲み干すと、立ち上がりどこかへ行こうとする。


「ほな、次の講義あるから行くわ。」


「え、ちょっと待って、私を置いていくつもり!?」


「かざりは次の時間、空きコマやろ」


「でも~、先輩とふたりっきりになっちゃうんだけど!」


 かざりは駄々をこねるが、黒髪の彼女は問答無用で歩き出してしまう。


「大丈夫や、いくら性欲しかない変態でも、こんな公衆の面前で露出する趣味はないはずや」


「そうかもしれないけど~」


「君たち一応、初対面だよね? ひどくない?」


 いつから初対面の人に足蹴にされるような人間になってしまったんだろうか。


「それに……」


 彼女は一瞬足を止めて振り返り、何故か俺に向かってカラっとした笑顔を浮かべた。


「すぐ賑やかになるんやろ?」


 そんなことを言い残し、彼女はそのまま立ち去ってしまったのだった。

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