閑話:楸ナギの独白
不思議な人だと思った。
桜サンは、僕を疑わない。
オーラのことも、占いのことも、「変だ」と言わないし、そう思っている様子もない。
信じている、というより——
「そういうものだ」と受け入れている感じだった。
それが、嬉しかった。
当たり前みたいな反応が、僕には珍しくて、居心地がよかった。
好奇心も、警戒もない。ただ事実として飲み込んでいる。
あの時向けられた笑顔は、本物だったと思う。
——だから、初めて思った。
(友達になりたい)
話しかけると、ちゃんと返してくれる。でも、近づきすぎると、そっと距離を取る。
嫌われている感じはしない。けれど、歓迎されているとも言い切れない。
その曖昧さが、僕には新鮮だった。
(友達って、こういう感じなんだろうか)
桜サンのオーラは、いつも静かだ。騒がしくない。
人に向けて伸びるというより、自分の内側でぐるぐる回っている感じ。
時々、黒く濁る。そういう時は、だいたい一人で考え事をしている。
「桜サン」
名前を呼ぶと、少しだけ驚いた顔をする。
そして、その黒いぐるぐるが、一気に弾け飛ぶ。
それが、ちょっと好きだった。
名前を呼ばれることに慣れていないみたいで、まるで「自分の存在を確かめている」みたいな反応をする。
昨日、こんなことを言われた。
「ナギくん、その格好、目立つしダサいからやめた方がいいよ」
ピシャリとした声だった。一線を引かれたみたいな。
言葉だけ聞けば、あまり優しくはない。でも、目はちゃんと僕を見ていた。
その直後、桜サンは一歩だけ後ろに下がった。靴一足分。ほんの少し。
…オーラが、すっと遠くなった。
(……嫌われてはいない)
少なくとも、そういうオーラじゃなかった。
ただ、距離が遠くなっただけ。
「ナギくん、友達として、一定の距離を守って欲しい」
怒っている様子はなかった。
どちらかといえば——なにかに耐えているような、そんな感じだった。
友達として、仲良くしたい。友達として、一定の距離を保ちたい。
言い聞かせるみたいに並べられたその言葉を聞くたび、僕は少し考える。
(友達って、どれくらい近づいていいんだろう)
今日、占いをした。
【大切な人に、距離を取られる】
……多分、良い結果じゃない。
桜サンの顔が浮かんだ。
距離があるのは、もう知っている。最初から、あったから。
それでも、今より離れるのは嫌だと思った。
桜サンは、時々、遠くを見る。誰かを見ているようで、誰も見ていない目。
その時のオーラは、痛々しくて、泣きそうで、思わず話しかけたくなる。
(……守る、とかじゃない)
そんな大それたことは思っていない。
ただ——
「桜サンと話せなくなるのは、嫌だな」
それだけだ。
それだけなのに、胸の奥が少しだけ熱くなった。
(分からないけど)
(これも、友達の感情なんだろうか)
答えは、まだ出ない。
それでも、距離が離れるなら、僕はその分、確かめるように近づいていきたいと思った。




