5 短編版を読まれていた方はここから続編です。
「今回の件、本当にすまなかった。リディア」
「ごめんなさい、こんなに深刻な問題だとは認識していなかったわ」
リディアの前には真剣な顔で謝罪をする父と母の姿があった。
仕返しを決行してから一週間。色々と事情を聴取したり、婚約破棄の手続きをしたりしているうちにいつの間にか経過していた。
父も母もとても忙しそうにしていたし、正式に謝罪をされるのが遅れたとしても文句はない。結局、リディアの望むとおりに事は動いた。
「……謝ってくれてうれしいわ。お父さま、お母さま。わたくしがわがままを言っているみたいに扱われて悲しかったから」
それに自分の父と母を責めるつもりはなかった。こうしてリディアを立派に育ててくれた人であるし、何より父と母の愛情をリディアは知っている。
今回はただ、少し認識にすれ違いが生まれてしまっていただけだろう。
「う、なんていい子なんだ。私たちのこんなに可愛い娘の言う事をきちんと聞いていなかっただなんて……私は自分が許せそうにない」
「ええ、リディアは昔から、聞き分けが良くて頭のいい子だと知っていたのに……どうして主張を聞き流してしまったのかしら……」
彼らは二人ともひどい後悔と罪悪感にさいなまれている様子で、正直なところ少しだけ不憫だった。
それに、オーウェンの件についてはあれ以来、すべて父と母が厄介事を片付けてくれている。
リディアはその間、オーウェンに傷つけられた心を癒すためになんでもしていいと言われて、大量のお小遣いももらっている。
使うあてもないが、一週間の自由な時間を楽しんだ。
それだけでもう十分だと、彼らの罪悪感を沈めるために口にしようとしたが、せっかくなのでここは効率の良い道に進もうと考え、リディアは眉間にしわを寄せて、瞳を伏せた。
……騙すようで悪いけれど、わがままを言わせる隙を作った二人の落ち度ですわ。
心の中では機嫌よくそんな風に考えつつ、胸元に手を当てて言う。
「二人がそこまでわたくしに罪悪感があるというのなら、わたくしのお願いを一つ聞いてほしいんですの」
「なんだッ? すぐにでも叶えてやるぞ、リディ」
「リディちゃん! なんでも言っていいのよ!」
控えめに言ったリディアに父と母はすぐに食いついた。
リディアの要望をどうにか聞こうと幼いころの愛称で呼んで、頼れる両親なのだとアピールした。
それにリディアはさらに一歩引いて、顔を俯かせる。
するとさらりとした横髪が落ちてきてリディアの顔に影を落とす。その様子はまるで傷心の乙女のようで庇護欲を掻き立てるものだった。
「わたくしの結婚相手……いえ、でも今これを言うのはずるい気がしますわ……」
「そんなことないぞ、リディ、誰か思い人でもいるのか? お父さまに話してみなさい」
「そうよ。ここまで育ててきたオーウェンがいなくなったのは痛いけれど、跡取り令嬢の元に婿に来たい貴族は多いわ、アプローチだけでもしてみましょう、リディ」
「……アプローチする段階ではなく、もうすでに、了承を得ていますのよ。ああ、でも、お父さまとお母さまに却下されるかもしれないと思うと怖くて名前も言えませんわ」
真に好いている人だからこそ、否定されるのが怖い。そんな風に見えるようにリディアは紺碧の瞳を悲しみに染めてそう口にした。
そんなリディアの様子を見て、これはきっと今まで娘の話を聞き流してつらい思いをさせてしまった自分たちへの最後のチャンスだと両親は顔を見合わせて、うんと頷いて、それから心底優しい声で言った。
「リディア、こんな不甲斐ない親で、信頼できない気持ちもわかる。ただ、私たちは君の幸せを心底願っている。絶対に否定をしたりしない、だから……私たちに君のフィアンセを紹介してくれないか?」