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【連載版】酒の席での戯言ですのよ。  作者: ぽんぽこ狸


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 エイミーの件があった後、帰宅した両親にリディアはこっぴどく叱られた。


 最終的には、オーガストもエイミーも納得して王宮に戻ったからいいものの、深夜の騎士団の出動や、王族が予定外だった大規模な転移魔術の使用。


 それらの事態によって当人以外からの苦情と問い合わせが発生し、王族がそれに苦言を呈する形で、クラウディー伯爵家に連絡をよこした。


 エイミーを匿った件については、友人を想って仕方なくだという事、それから本人たちの問題もあるので深くは追及されなかった。


 しかし、それでもリディアの振る舞いに問題がなかったかと言われると答えは否であり、後継者教育をきちんとするようにという連絡を受けたようだ。


 リディア自身は、宴会代も請求できたし、リディアとエイミーの交友関係の健全さをオーガストも知るところとなって、これからいろいろと優位に物事を運ぶことができるはずなので、王族の苦言など些末なことだが両親に怒られてはそうもいかなかった。


 退屈か忙しすぎるかどちらかを選べと言われたら、必ず後者を選ぶリディアだが、好き勝手にするならば外出禁止と両親に言い渡されて、リディアはしょんぼりしながら書類仕事をしてしばらく日々を過ごした。


 その間にも両親は、王都へと出向いて貴族たちと舌戦を繰り広げたり、マグワートの販路の拡大に策略を繰り広げたりしているはずであり、その場に自分がいられたら素晴らしい成果をあげられると思うのだ。


 そう思いはするけれど反省して静かに過ごした。


 両親は疲れた様子で帰宅して、しばらくは平穏な日々を心がけようと、ちくちくと刺繍をして貴族令嬢らしくおしとやかな毎日を送る。


 しかし、その手元は非常に素早く動いており商品にするのかというレベルで刺繍が量産されていたのだが、これでもリディアにとって誰にも迷惑をかけないおしとやかな毎日のつもりだった。


 ロイに渡すハンカチが刺繍だらけになり、紋様の美しいタペストリーみたいになってきたところでノックの音がしてロイがリディア専用の執務室へと入ってきた。


 彼は、いつも通りの人好きのする笑みを浮かべていて、自分に渡されるハンカチがとんでもないことになっている事は特に気にせずに、持ってきた手紙をリディアの向かいに座りながらも置いた。


「今日のお手紙が届きましたよ。リディアお嬢様」

「……見ればわかりますわ。今手が離せないからロイが開けてくださる」

「かしこまりました」


 両親に怒られてからずっとしょんぼりしたまま様子のリディアにロイは、優しいおにいちゃんみたいな顔をして、彼女の為にペーパーナイフで一つ一つ手紙を開ける。


 空けろということは中身も読んで教えて、言ったように返信を代筆しろという事だ。


 割と面倒なことではあるが、リディアが大人しくしているおかげでロイは最近仕事がはかどってしょうがないのでこのぐらいはお安い御用だった。


 一通目の手紙を開くとそれはルフィア村のダンカンからのもので、マグワートの魔草が一定量収穫できたという報告だった。


 それを伝えるとリディアは、少しも迷わずにちくちくと針を動かしながらいう。


「では、クリーズ侯爵家へと連絡を、それからどのような強さの魔草酒にするかすり合わせをしてルフィア村へと連絡してくださいませ」


 視線をふせったまま、あたり前のようにされた返答だったが、ロイはクリーズ侯爵家を思い浮かべる。


 しかし、クラウディー伯爵家と取引があるわけでも当主同士の仲がいいというわけでもない。


 唐突に取引先として浮上したその家が不思議でリディアへと視線を向けた。


 するとリディアはその視線に気がついて、補足のようにロイに説明した。


「ディアドリー様のご実家ですのよ。何に使うかも、どんな風に使うかも言及しませんけれどご縁のあった方ですから、彼女が武器を欲するなら恩を売るまで。……実家を経由して購入するという事だったから、まだまだハンブリング公爵家を掌握できていないようだけれど、着実に自身の為に動ているようですから、あの方はきっとうまくやりますわ」

「なるほど……では、そのように手配いたします」

「ええ、よろしく」


 ロイは、ディアドリーとは割とドライに別れてきたが、一応リディアなりに心配に思っていたのだなと考える。


 それに恩を売るなんて打算的な事を言っていても、相手の要望も聞いてさほど儲けにならない話を丁寧に対応してやる時点で、それがリディアのわかりにくい優しさなのだと思う。


 続いて手紙を開けると、エメラインからの手紙だった。しかし内容は文面的にオーガストが書いたものだとすぐに想像がつく。


 オーガストの名前で手紙を出すのは何かと面倒なのでそのような形になったのだろう。


 しかし、彼の武骨な印象とは打って変わって、非常に几帳面できれいに整えられた文面をしていた。


 内容は、リディアをオーガストの側近として雇いたいという要望だった。


 正式に依頼が来ればクラウディー伯爵家としては断れない。しかし無理強いなどしてはリディアが何をするかわからない、ということで内々にリディアが了承してくれるように話をまとめようとしている。

 

 内容を適当に要約して口にすると、リディアはロイの事をちらりと見た。それから、またすぐに刺繍に視線を戻す。


 リディアがそれなりにオーガスト第二王子……というか王族の事を好いていないのは知っているので当然の反応だと思うが、この手紙に対する返信は難しいだろう。

 

 いくらエメラインの名前で送られてきているとはいえ、あまり蔑ろにするようなことは言えない、しかし手紙の文面はオーガストらしく上から目線で申し渡すような口ぶりだ。


 曖昧に返答をしたらあっという間に了承したと取られて王都から召喚状が届く可能性がある。


「馬鹿にしていますわ。……わたくし、あんな人に仕えるほど落ちぶれてませんのよ」


 ひねり出したような怒りの滲んだ言葉にロイは、ちょっと怖くなったがリディアは、そうこの場で言えただけで満足できたのか、はぁと息をついて少し表情を和らげて言った。


「ただ、そうね……すぐにホームシックにかかってしまうから王都では勤められないとでも書いておいて、そういう性格だから、わたくしを両親は跡継ぎに決めたとも」

「わかりました」


 オーガストに対するとんでもない皮肉なんかが飛び出したら、少しだけ言葉を丸くして手紙を書こうと考えていたロイは、リディアの平和的な解決法に頷いて、次の手紙を開けて彼女に内容を伝える作業を繰り返した。






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