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 ハンブリング公爵は驚いたまま固まっていて、それからなぜか同じく硬直しているエルトンとディアドリーにも従うようにリディアは鋭く彼らをみた。


 潔く座った二人に続いてハンブリング公爵はぶつぶつと文句を言いながら、リディアの前に座り直した。


 そこにすかさずロイが動いて今朝出来立てほやほやのマグワート酒をショットグラスに入れて出す。


「さて、公爵閣下、お仕事の話なんて言いましたけれど、わたくし今のハンブリング公爵閣下とお仕事なんてしたくありませんの」


 イライラした様子で体を小刻みに揺らす彼に、リディアは丁寧に言った。


「ただ、こうなったのには引き金があると思いますのよ。公爵閣下がそれほど過敏になっているのは、嫁であるディアドリー様が歴史ある家業のお酒を口にできないから、蔑ろにされていると感じるのよね」

「……そうだ、そもそも、お前ら若者がわしらの世代の苦労も何もかも無視して好き勝手にふるまうことが許しがたいのだ。誰のおかげで今があると思ってる。それなのに、この嫁と来たら……」


 リディアの言葉に思いだしたように今度はディアドリーに視線を向けて、彼は勢いそのままに口汚く罵り始めた。


 いくらエルトンが止めようともとまらずに唾を飛ばし、ディアドリーに襲い掛かりそうな勢いだった。


 ……嫁入り婿入りには問題はつきものだけど、ここまでの事態は一線を越えていますわ。


 それに元から、気性の荒い人だというのは明確ですもの、事業を邪魔されないためにも、勝負ですわね。


 リディアは今までの問答で大分すっきりしていたけれども、この厄介な男をかたづけるために丁度良い彼の言葉を捉えてすぐに切り返した。


「常に怯えたような態度でいるくせに、わしの言葉をききもしない。本当に非常識でありえない女だッ、いくら体が受け付けなくとも、気力で付き合うのが本来の礼儀という物なのに」

「では、公爵閣下は、どれほど体に影響が出ようとも、礼を尽くすために酒を飲め、そう言いたいのですわね?」

「その通りだ! どうせ大したことにもならないくせに頑なに飲まないその姿勢にわしは腹を立てているのだ!」

「も、もうしわけ、ありません」


 ハンブリング公爵の言葉にディアドリーは顔を青ざめさせながら、謝罪を口にする。


 しかし、リディアはとても丁度いい返答にしめしめと思いつつ、勢いあまってまたディアドリーを責め立てようとする彼に、ショットグラスをずいっと押し出した。


 そこに入っているのは真みどりのマグワート酒だ。しかし普通の試作品とは違って特別な効能がついている。


「では、ハンブリング公爵閣下は間違いなく自身もそうできるのですわね?」

「当たり前だろう!」

「ならよかった。是非こちらを飲んでくださいませ!」


 手でそのショットグラスを指し示すと、ハンブリング公爵は示されたままにそのグラスを見て訝しげな顔をした。


「こちらのお酒はマグワートの魔草を使った物なんです」

「は、こんな物このわしが飲むに値するとでも?」

「ええ、これを飲めば証明出来ますわ。……なんせ、マグワートの魔草を使っているんですもの。……魔草といえば薬草ならば効能が強く出る、もちろん加工すればその加工物の特徴も取り入れた効力が出る」


 彼らに言い聞かせるようにリディアは丁寧に、説明をするが、酒造業についてる家系の方々だ、すでに知っているだろう。


 魔草をお酒に加工した物はある程度出回っており、魔草の力とアルコールの力の両方の向上が認められている。


「だからこそ、アルコールのききすぎる人と同じ状態を体感できます。マグワートの効能は知っての通り良いものばかりですからその点でも安心ですわ」


 これを飲めば、ディアドリーに正当性がないのだとはっきりと証明できる。そう主張してリディアは、勧めた。


「口で言うだけでなく、ハンブリング公爵閣下が証明してくだされば、ディアドリー様も、その姿をきっと見習いますわ」

「……」

「わたくしも、酷い事を言ったことを謝罪いたしますから」


 リディアはうっとりとしてしまうような優しい顔つきで言葉を紡ぐ。目を細めて、襲い掛かろうとする獣を諭すように言った。





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― 新着の感想 ―
[一言] なんかアブサンぽい酒ですね。 >真みどりの酒 幻覚見て腰砕けになって恥を晒すといい池沼老害。
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