賭けに負けたら未来が拓けた〜転生したものの悪役令嬢に向かない私でしたが、策士との賭けに負けて求婚されました〜
連載版も始めました!
レオン視点のお話もよろしければご一読いただけたら嬉しいです!
「私には無理だってば…。」
悪役令嬢アマリエに転生してしまった私は、もともと平凡な社会人。
幼少期のお茶会で、油断していたら、攻略対象のレオンに関わってしまい!?
普通の女の子が、ハイスペの少年に執着されて、本人が気づかないうちに手に入れられてしまう物語。
楽しく書けたので、レオン視点などエピソード足して連載にするかもしれません。
久しぶりの投稿です。
追記
誤字脱字報告上げてくださった分訂正しました!ありがとうございました!
「僕の勝ち。」
そう言ってアイスブルーの瞳を向けながら、レオンは微笑んだ。…悪ーい顔で。
「勝ったんだから…約束覚えてるよね?」
(に、逃げられない!?)
時は幼少期にさかのぼる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ああああ!! うわああああ!」
齢5つ。熱を出して、うなされて、目が覚めたら記憶が戻っていた。
社会人になって5年目。忙しくて帰りは夜中。すぐに寝て、回復に努めるべきだと分かっているのに、目が冴えて眠れず、結果ハマったのがゲームアプリ沼。
自分の生活に足りない癒しの全てを賄うが如く、ハマりにハマり、仕事中にもこっそりすすめる始末。
テンプレなゲームだったけど、スチルと声優が最高に好みで、ストーリーもなかなか良かった。
一癖も二癖もあるイケメンが、素直で一生懸命な主人公に絆されて愛を見つけて幸せになるお話。
現実では、素直で一生懸命なだけではやっていけない。
真面目だけが取り柄で、飛び抜けた才能も、人気者になるコミュ力もない私は、ただただ愚直に仕事を引き受け、こなしていた。
ほんとは分かっていた。
便利なように使われ、一方で誰かに気にされることもなく、使い捨て要員扱いされ始めていることも。
仕事量にたいして、とっくにキャパオーバーで、心が悲鳴をあげていることも。
だから、余計にフィクションにハマった。
そして、それすらも出来ないくらいに疲れ果てて…。
最期の記憶はないが、なんとなく感じる。
私はあのまま、静かに生を終えたのだ。
「な、の、に!!」
そうだ。本題だ。
私は、なぜ、ここにいる?
自分の人生を思い出したせいで、今の自分の状況があやふやだ。ただし、思い出した人生の延長ではないことは分かる。
だって、私は…。
バタバタバタバタ!
「アマリエお嬢様!どうされましたか??」
ドアがバターンと開けられ、侍女のソフィアが飛び込んでくる。
「あ…ソフィア…。」
そうなのだ。今私が生きるこの場所は、記憶にある場所とは全く違う。それに、今私は5歳。名前も…。
(え?名前?)
「ねえ、ソフィア?」
ボーッとした頭でなんとか思考を整理する。
「なんですか?お嬢様。」
「私の名前は…アマリエ…よね?」
ソフィアはフッと笑った。
「ええ、そうですよ。お嬢様のお名前は、アマリエ=フェルダートン。わが国の五大侯爵家の一つ、フェルダートン家の姫ですよ。」
(アマリエ=フェルダートン…。そんなことって…。)
熱からの病み上がりの私を本気で心配してくれるソフィアをなんとかなだめて、部屋から出てもらったあと、一人になったことを確認してから頭を抱えた。
(…テンプレか。)
アマリエ=フェルダートン。
改めて鏡を確認すれば、きらめくブロンドの髪に、エメラルド色の瞳。
ゲームの中で、登場する数少ない女性。
主人公をいじめ抜き、断罪される、悪役令嬢の名前である。
「いや、私には無理だってば。」
いかにテンプレな展開だったとて、ここから巻き返してドラマを作るのは、他でもない私自身だ。
「私にはできないよ。」
こんなことなら記憶なんて、蘇らなければ良かったのに。
(どうせなら、普通に悪役令嬢ができれば良かったのに。)
記憶が戻った私は、きっと主人公をいじめ抜くこともできない。でも、何もしなければきっと私は強制力とやらで、ゲームのままに、断罪される運命をたどってしまう。
絶望。
齢5つにして、私の人生は詰んだ…はずだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それは、さらに3年後のお茶会でのこと。
「何しているの?」
隅っこにいた私に声をかけてきたのは、一人の少年だった。
「ひい!」
令嬢にあるまじき声をあげた私に少年は僅かに目をみはる。
このお茶会は、王家主催のもの。呼ばれたのは8歳から12歳くらいまでの令息令嬢。
ゲームの設定では、この時に私、アマリエ嬢は王太子に一目惚れ、そこから第一王子の婚約者におさまるために様々な人物の弱みを握り、手中におさめていくのである。
(絶対に誰とも関わりたくないっ!)
王家の主催だから、断れない。
こんな歳から人脈づくりだなんて、貴族は大変だ。
何はともあれ、侍女たちの渾身の力作に仕上がった美少女アマリエは、大変残念なことに、庭園の隅でできるだけ誰とも視線を合わせないようにして、空気になろうとしていたのだ。
「驚かせちゃった?ごめんね。」
そう言うと少年はおもむろに自分の頭に手を乗せ申し訳なさそうに微笑んだ。
(美少年…。)
その笑顔に一瞬心を奪われる。
その少年の容姿が第一王子ではなかったことで少し気が緩んでいたのかもしれない。
きれいなシルバーの髪。アイスブルーの瞳。
(こんな登場人物いたかな。)
記憶の中にうっすら何かが浮かんだものの、形にならない。
(攻略対象じゃないなら、大丈夫かな?)
「君はこんなところにいていいの?フェルナンド様にアピールしないといけないんじゃない?」
「私は…いいの。」
「ふーん。」
「あなたこそ、いいの?」
空気になろうとしていてなんだが、今日は全員が家から『第一王子に気に入られるように』
と言い含められて出席しているのだ。
彼くらいの美少年ならば、きっと印象に残る。
しかし、彼は不思議な笑顔で首を振った。
「いいんだ。今日僕が見るのは、第一王子の周りの人たちのほうだから。もうあらかたすんだよ。」
「どういうこと?」
首をかしげると、彼はさらさらと流れるように言った。
「第一王子のフェルナンド様は、完全無欠を地で行くかんじ。天才だけど、ちゃんと腹黒くて計算高い。順調にいけば王太子になるだろうね。第一王子の横で笑っている姿勢の良い彼は、アラン=デズモンド。騎士団長の息子で側近最有力。実直で裏切りと無縁。若干世間知らずがどう転ぶか。斜め後ろにいて、微笑む彼は、ルイ様。王弟殿下は第一王子がしっかりしないとちょっと危ない。まだ王位に興味がありそう。ちょっと離れたところで令嬢達と談笑している彼はミヒャエル=カメリア。彼、あざとい自分を計算してる。今はまだ未完成だけど、もっと上手くなったら、女性を虜にしていろいろ思惑どおりに物事を動かす悪いやつになりそうだね。」
(なに?なに?なんか怖い!)
彼がつらつらと並べたのは、まさに主人公に会うまでの『攻略対象』データだ。
あまりに当たりすぎていて、寒気がする。
「うーん。君は面白いね?」
無邪気に見える笑顔を向けてくる美少年に、私は声が出ない。
(面白い?)
「あはは。びっくりしてる。今言ったメンバーは、さっきから君が警戒心丸出しで、目を合わせないようにしてる人たちだよ?あまりにあからさまだから、気になって見てたんだ。揃いも揃ってあと二十年もすれば国の中心にいそうなメンバーだねえ。見る目あるー。」
「いや、警戒なんて…。」
「それに、君は不思議だね。なんだかちぐはぐだ。」
「ち、ちぐはぐ?」
「侯爵家の令嬢で、あの両親。甘やかされてわがまま横暴に育つ要素しかない生育歴なのに、全然ちがう。アピールもしないし、空気になろうとしてるみたい。そんなに……のに。」
途中なんだか聞き取れなかった。
「え?」
「ねえ、良かったら、僕と友だちになって。」
聞き返しには無反応でそんなふうに言ってくる彼に押し切られて。
頷くと、彼はにっこり笑って自己紹介をした。
「まだ名乗ってなかったね。僕の名前はレオン=リューズ。同じ侯爵家同士仲良くしようね。」
(レオン=リューズ!?)
頭の中に、冷たい目をした眼鏡の青年が浮かぶ。眼鏡のイメージが強すぎて、完全に油断していた。
(めちゃくちゃ攻略対象だ…。)
彼のエピソードはなかなかに病んでいる。
なんせ彼は、ゲーム開始時にはアマリエへの叶わぬ思いに悶絶しているのだ。
アマリエもそれがわかった上で弄んでいるという…なんとも言えないあの感じ…。
きっかけは確かに幼少期のお茶会で一目惚れだったとかなんとか…。まさか、今日のやつ??
でも、目の前の少年からは、そんな素振りは見当たらない。
令嬢に向かって「面白い」とか言うし。
何より、警戒が緩いせいで関わってしまった以上、高飛車でも横暴でもない一令嬢に、純粋な「お友だちになりましょう」のお誘いを断ることなどできはしない。
両親も仲は悪くなくて、気がつくと、私たちはお互いの家を行き来するような間柄になってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、さらに年月は過ぎ…
「アマリエ、どうしたの?」
レオンに覗き込まれて、私はまた、ため息をついてしまった。
「来年には学園に入らないといけないのね…。」
そう。
ゲームが始まってしまう。
私にとっては憂鬱でしかない。
「やっぱり嫌なの?」
レオンはさらに聞いてくる。その顔には眼鏡はない。
だが、それはうちに来るとき限定で、少し前から普段はかけるようになった。驚いたことに度は入っていない。
本人曰く、表情を読まれにくくするリューズ家の伝統なんだとか。
うちではリラックスしてるってことかな。ならいいけれど。
あれから、侯爵家令嬢として、そこそこの交友関係も築き、レオンとも悪くない友情を育んできた。
レオンは、賢くて皮肉屋だけど、基本的に穏やかで優しい。
私が学園に不安を持っていることを察知して、学園に入るまでに身に付けておいたほうがいいことをあれこれ仕入れて教えてくれた。
おかげで勉強も不安はない。
両親もそんなレオンに感謝しているようで、かなりお年頃になったにも関わらず、レオンと過ごすことを歓迎しているふしがある。
だからこそ、学園に、行きたくない。
「ねえ、アマリエ。そろそろ教えて。なんで学園に行きたくないの?」
レオンの真剣な声。
まだ声変わりしていないけれど、すぐにあの、かすれたようなかっこいい声になるのだろう。
私はどうなるのだろう。
第一王子の婚約者にはならなかった。
でも、怖い。
ゲームの強制力は働くのだろうか?
その時、レオンは?
一番近い友を失うのは、考えただけでも辛かった。
(学園が始まれば、引き返せない。ならいっそ…)
「ねえ、レオン。私には未来が分かるって言ったら、ひく?」
どうせ失うなら、自分から手放したほうがましだ。
レオンに嘘は通じない(私には上手く嘘はつけない)。
だから、本当のことを打ち明けることにした。
信じてもらえないだろうし、変に思われるだろうから、誰にも言わなかった真実を。
「実は、私には前世の記憶があってね…。」
全てを聞き終わったレオンは、少し考えたあと、予想外のことを言ったのだ。
「ねえ、アマリエ。賭けをしようよ。卒業パーティーで、君が本当に断罪されたら君の勝ち。なんでも言うことをきく。もちろん君のその後の人生も全力でサポートする。」
(突然何を言ってるの?賭け?)
「もし、君の見た未来が違っていて、何もなく卒業パーティーを終えられたら…僕の願いを叶えてよ。」
「願い?」
「うん。どんな願いでもだよ?」
明るく笑いながら、爽やかにそう言ったレオンにつられて、思わぬ展開に笑ってしまう。
つい、それでもいいか、と了承してしまった。
全てを打ち明けてもレオンが離れていかないことが嬉しかったのだ。
結論からいうと。
学園での三年間は、本当に何もなかった。
主人公は入学せず、第一王子は三年間生徒会長をつとめ、副会長の私の友人と婚約。卒業パーティーは、かれの立太子披露の場となり華やかに終わっていった。
その傍らには側近として、レオンとアラン。
私はレオンに頼まれて、彼のパートナーとしてその姿を見守ったのだ。
そして話は冒頭に戻る。
「僕の勝ち。」
そう言ってアイスブルーの瞳を向けながら、レオンは微笑んだ。…悪ーい顔で。
「勝ったんだから…約束覚えてるよね?」
(に、逃げられない!?)
「や、約束って、あの…。」
「お願い。なんでも聞く約束。」
レオンはスッと私に近づき、耳打ちする。
「この後の返事は、はい、しか言わないで。」
「それが?」
「そう。お願い。」
そして彼は、跪いて言ったのだ。
「アマリエ=フェルダートン。初めて会ったときから、君しか見えない。どうか、僕と結婚してください。」
(え?ええええ?)
これに、はい、と言えと?
しかし、戸惑うこともアイスブルーの瞳は許さない。
しっかり私を捉えて、
「返事は?」
と聞かれ、反射的に
「はい。」
と答えた私は、卒業後、実に手際良く、レオンの妻になった。
それから少しして、遠くである少女(多分主人公)が聖なる力を発現させて活躍したりとか。
これまた別の遠くで魔物(多分学園に封印されてたラスボス)の封印が解けかけたけどあらかじめ準備していた封印具で再封印されたとか。
風のうわさで聞いたけど、なんだか怖くてレオンには聞けていない。
レオンは相変わらず優しくて。
ただ、彼から教えてもらった多くは、侯爵家の夫人としての必須項目だったことに、私は結婚してからやっと気付いたのである。
もうお分かりと思いますがレオンは、ちゃんと一目惚れしています。
手に入れる方法を画策しつつ、手回しして外堀を埋めていたレオンにとって、アマリエのゲームの話は美味しいお話でした。
彼女の予想どおり、学園生活に何もなかったのは一年間でレオンが全て整え、三年間調整したからです。
設定では一目惚れ以上にレオンをキュンとさせる出来事がいろいろあっての執着になるのですが、そのあたりは機会があれば…。
面白いと思ってくださった方がありましたら、評価お願いいたします!
前書きにも書きましたが、連載版も始めました!
レオン視点のお話もよろしければご一読いただけたら嬉しいです!