一回り年下の大国の王子様に懐かれた
「僕のお嫁さんになって!」
「んー…ごめんなさい、お姉さん一回りも年上だしやめておいた方がいいですよ」
「やだぁ!お姉さんと結婚するぅ!」
「んー…」
各国の王族が集まる場で、私は小国の末の姫として参加したのだが。
「僕のお国は大きいし、豊かだし、たくさん贅沢できるよ!」
「まあそれはそうですが」
「お姉さん婚約者もいないんでしょう?ね、お願い!」
何故か大国の第五王子様五歳に懐かれてしまいました。
「ふむふむ。息子よ、その方と結婚したいのかな」
「あ、父上!うん!」
「ならば、婚約を結べるよう取り計らうとするか。ちょうど彼女の国と国交を結ぶつもりだったしな」
「やったー!」
なんだかとんでもないことになった。
「ねえねえ、膝枕して?」
「はいはい」
「お歌歌ってほしいな」
「はいはい」
結局、本当に私と王子様は婚約した。国同士国交を結んで、その際あちらの国から多額の支援金ももらった。小国のうちとしては本当に助かった。
「はやく結婚したいなぁ」
「さすがに気が早すぎますよ。貴方の結婚適齢期まで待ってください」
「むー」
そして、婚約者となった第五王子殿下はちょくちょく私の元へ通ってくる。
「ねえ、大好きだよ」
「私もですよ」
私は婚約者というより弟にしか見えない可愛い人に、将来本当の意味で好きな人が出来たらどうしようかと今から頭を悩ませている。
「いい加減第五王子殿下を解放してください!」
あれから十三年が過ぎ、第五王子殿下との結婚も間近。そんな時に婚約者の国の聖女様とやらに詰め寄られる。ああ、とうとうこの時が来たかと悟った。彼は本当の恋を知ったのだ。
「わかりました」
「え」
私の言葉に聖女様は固まった。私が予想外にあっさりしていて拍子抜けしたのかも。
「でも、婚約は国同士の約束です。そう簡単に解消は出来ません。私は私で第五王子殿下には嫁ぎますがあくまでも形だけの妃になりますので、聖女様は聖女様で第五王子殿下の第二妃となり愛されてください。それではダメですか?」
「え、あ、えっと…」
「なにをしているの?」
第五王子殿下が私の後ろからいきなり現れた。びっくりし過ぎて心臓が止まるかと思った。
「…第五王子殿下」
「ねえ、聖女さん。僕言ったよね?婚約者を心から愛しているから、君の気持ちには応えられないって。しつこいんだけど」
「え」
あれ?第五王子殿下と聖女様は恋仲ではないのか。
「聖女とはいえ、あんまり調子に乗りすぎると痛い目を見るよ?」
第五王子殿下は背中側にいるので私からは顔が見えないが、相当怖い顔でもしていたのか聖女様が怯えた顔をする。
「も、申し訳ございませんでした!」
脱兎のごとく逃げる聖女様。
「逃げ足が速い聖女様だね」
「ですね」
「引き際をわきまえているのはいいことだけど」
「そうですね」
「それよりも今はこっちかな」
背中側にいた第五王子殿下が、正面に回り込んでくる。
「なんで怒ってくれなかったの。なんで嫉妬してくれないの?」
切なげに瞳を揺らす第五王子殿下に絶句。だって、まるで本当に第五王子殿下が私を好きみたいで。
「僕、ちょっとだけ期待してたのだけど。ねえ、まだ伝わらない?僕の気持ち」
「え、えっと」
「好きだよ。初めて会ったあの日から、ずっとずっと君を愛してる。始まりは一目惚れだけど、今では内面だって好きだよ。なのに君は、まだ僕の気持ちを否定するの?」
彼の真剣な表情に、なんだかとても心が揺さぶられる。嬉しい、なんて思ってしまう。
「それは、だって…」
「君の本当の気持ちを聞かせて。君は僕に愛されたくない?君は僕を愛せない?」
「…私は」
私の言葉を待つ彼。私は震える手を握りしめて、震える声でようやく伝える。
「私、は…貴方が、好き…です」
「!」
そう。私はいつのまにか、彼に恋心を抱いていた。
「純粋に好意を寄せてくださる貴方に、いつのまにか惹かれていました…でも、でも!」
「…でも?なに、なんでも言って」
「一回りも私は年上だし、大国の王子様と小国の姫では…」
彼は私の言い訳を聞いて、私を優しく抱き寄せた。
「え」
「年上だって関係ない。僕が愛するのは君一人だよ。他でもない、君がいいんだ。君を僕より年上だからと詰る者がいれば、僕が罰を与えよう。君が小国の出身だからと蔑む者がいるのなら、いっそ君の国で暮らすのもいいね」
「…本当に、私でいいんですか?」
「君以外なんて考えられない」
抱きしめる力が強くなる。私はなんだか、無性に泣きたくなる。
「…もう、身を引いてあげたり出来なくなっちゃいますよ?」
「うん、願ったり叶ったりだ。身を引くなんて許さないよ」
こうして私は、ようやく婚約者の気持ちを信じられるようになった。