第七打 俺の心は折れやしない!
「とにかく、目標に向かってスイングを改善していきましょうか!」
気合いだ! 気合いだ! 気合いがなければ、心が折れるぞ! 俺の心がな!
「そう……ね。隠しホールを知っている従業員を籠絡するかどうかとは別に、そもそものゴルフの腕を上げないことにはね。それじゃあ、今日もよろしく」
キタキタきたぁああ! やっとレッスンが始められるぅううう!
「前回、ボールの位置がセンターから左側に置くことだけはレッスンしているので、今日は足幅から進めますね。それでは、先ずは足を閉じてまっすぐ立ってもらえますか」
おぉ、スムーズに足を閉じて貰えたぞ! あかん……これだけで、もう泣きそうだ……
「そしたら、ご自身の思う所謂〝肩幅〟に広げてください」
「これくらい……かしらね」
いや、腕は組まなくていいんですよ? 仁王立ちみたいになって、威圧感がすごいので。
「それがシャフレさんの思う〝肩幅〟なのですが、そこから、そうですね……試しにゴルフボール一個分ほど、余計に広げて貰えますか。はい、そうです。それくらいですね。結構広くなった感じしますか?」
「えぇ、かなり広くなったかしらね」
「今の広さが、ドライバーを打つときの広さであり、基準になっているのは〝肩幅が踵と踵の内側に入る広さ〟なんです。ちなみにアイアンは、その広さから片方の足だけボール一個分ほど狭くしたくらいですね。」
「え? それでも、結構広いのだけれども」
「はい、その広さは〝広い種類の足幅〟となります。ということは、当然〝狭い種類の足幅〟もあると言うことです」
「へぇ、まるで広範囲魔法を展開する際の魔法陣の大きさと、ピンポイントで狙いを定めた際の魔法陣の大きさが異なるみたいに、ゴルフの足幅にも種類があるのね」
ふ、先程あれほど取り乱している中でも、消えるのことなかったシャフレさんの中二魂だ。当然、そうくる事は予想の範囲内だ。だからと言って、予想が当たって欲しいとは、微塵も思っていないがな!
「足幅が広いタイプと狭いタイプ。何をもって使い分けるというと、それが〝スイング理論〟の違いになります。足幅が広いタイプは、〝体重移動〟をメインに、狭いタイプは、筋力をメインに球を飛ばす事が多いですね」
「なるほど。つまり、〝型〟の違いにより発動する武技が異なると言うことと同じという事かしら」
どのへんが〝つまり〟だったんでしょうか?
「若しくは、低身長のドワーフ族が総じて筋力増強型であるのに対し、高身長のエルフ族が魔力増強型として、設計されている様なものですか。納得です。ゴルフのスイングも、中々奥が深いものね」
どのへんが、〝若しくは〟かレッスンして貰えないかな。意味が分からんせいで、共感度がゼロの上に、その受け取り方を肯定していいのか、修正しなきゃならんのか、全く判断できないんだよ?
「要するに、マスターバーディーが私に対して指導するスイング理論は、〝体重移動タイプ〟と言うことね」
「な!?」
嘘だろ!? ちゃんと意味が伝わっとったやんけ!?
「何を驚いているのよ」
驚くよ、そりゃね。重度の中二病患いの方に、しっかり言葉が伝わってたんだから。
「あ、いえ、大丈夫です。その通りです。これから僕がレッスンするスイングタイプは、体重移動によって球を飛ばすスイングということです!」
よし! この調子で、次はグリップを!
「三十分になったわね。それじゃ、今日はこれで終わりね。ねぇ、明日もこの時間の予約取れる?」
「え? もう三十分!? 気付かなかった……」
「時間が過ぎるのって早いものね。それで? 明日の予約は取れるの?」
「あ、はい! ちょっと、待ってくださいね……あぁ、はい。大丈夫ですね。空いていますので、また明日もよろしくお願いします」
「えぇ、よろしく。はぁ、洗脳魔法とか使えないの、本当に痛いわねぇ。隠しホール……どうしようかしら」
「……お気を付けてぇ、お疲れ様でしたぁ」
ブツブツ呟きながら去っていくシャフレさんを見送る俺のメンタルに、しっかりダメージを残していくあたり、マジ怖いわ、あの人。
「せんせぃ、今空いとる?」
「山田さん、大丈夫ですよ。今空いたところですので、すぐでも大丈夫ですが、どうします?」
「なら、頼みますぅ」
「はい、今日もよろしくお願いします」
癒しだな。七十過ぎのお爺さんのレッスンが、ここまで癒しになるとは思わなかったよ。
「ぷはぁ! 風呂上がりの一杯はこれだな! しっかりぐいっとプロテイン!」
まぁ、次に飲むのはぐびっと酎ハイな訳ですけどもね!
「しかし、まぁ……何というか、マジでどうしようかなぁ……車さんのレッスンが進まな過ぎるんだよなぁ、ほんと」
レッスン二回やって、まだボールの位置と足幅だけだよ? マジで、料金に対して内容が伴ってなさすぎて、申し訳なさすぎるわ!
「三十分きっかりで、有無を言わさない態度で去っていくんだけど……明日は、流石に〝構え〟を終わりたいから、時間を延長させてもらいたいなぁ」
俺の話は大体長くなるため、大概三十分で終わらずに延長してしまう。当然、延長料金なんてものを頂戴することはしない。
「しまったなぁ、最初のレッスンの時にその事をしっかり説明するべきだったなぁ。あ、このチータラうまっ」
個人の嗜好について何も言うつもりはないんだけども、コンペに対する執着は何なんだろうね、アレは。中二言語で、よく分かんないんだけどさ。
「流石に、コンペの順位で部署が異動するなんて話はないだろうから、何かの趣味の集まりでの役とかを押し付けられる感じかな。まぁ、嫌な人は嫌なんだろうけどなぁ……泣くほどとは……」
俺も青年会とかの役が回ってくるけど、そんなに嫌ってほどじゃないから、その辺の感じは、理解が難しいよ。
「ん? メールか。お、予約じゃん」
そこには、銅賀美さんからのレッスン予約の問い合わせがあったのだった。
「銅賀美さんか。明日の十時、承知いたしましたっと」
こうして俺とシャフレさんの二日目は、まったりと終わっていくのであった。