表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/35

第三十二打 深淵を覗く者

「そんなに、私がボールを打てたら嬉しいの?」


「これほど嬉しいことなどないと言っていいほどに、僕は嬉しいですよ……」


 本来、俺はこのレッスンの段階でここまで感動することはない。本当に、ないのだ。


 だって、普通ならここまで来るのにレッスン回数で言えば、三回目で話す内容なんだもの。ここまで来るまでに費やした時間、心労、そして突如現れた明るい材料は、俺のテンションを一瞬にして爆上げした。


「そんなに嬉しいなら……私の信者になる?」


「ははは、僕は車さんのコーチですから、指導者が生徒さんを崇め奉ったら、レッスンになりませんよ」


 怖っ!? いきなりびっくりするわ!? さっきまでの、喜びのテンションが吹き飛ぶくらいに〝信者〟っていうワードがパワー持ちすぎだよ!? 一瞬にして現実に引き戻された、というかこれが現実ってのはどう言うことコレ。


「ふぅん……確かに、そうね。それは、また今度ということにしておきましょうか」


 八百万の神に日頃から感謝するようにしているので、そういった勧誘は全てお断りだけれども、どうもそう言う雰囲気は見て取れないのが不思議だ。


 ん?〝私の信者〟って言わなかったか?


 おいおいおいおいおいおいおい、それはそれで痛い案件やぁあぁああああああん!!!!!


  震えるな、俺の右手! 下手に震えていることが、バレてみろ。嬉しさにのあまりに、震えていると思われるぞ! 


「いよいよ、次はフォローです。フォローと言うのは、インパクトからフィニッシュまでの間の動きであり、クラブが振り抜かれ行くところの動きのことを言いますが、ここで重要なのが海老反りにならずにフィニッシュに向かうと言うことです」


 そこまで言うと、俺は行ってほしくないフィニッシュの形を見せた。頭が構えと同じ場所のまま残していると、フィニッシュの際に背中が剃ってしまい、正面から見た場合に所謂〝逆C〟と呼ばれる形となり、非常に腰に負担がかかるようになってしまう。


「腰に負担がかかるこの形ではなく、このように左足一本で最後立っているような〝1〟のような形であれば、腰にかかる負担が小さい上に、体重移動がしっかり行われており、飛距離も望むことが出来ます」


 左足一本でフィニッシュするのに、大事なことは何か。


「そして、この形でフィニッシュを作るためには、インパクトからフィニッシュに向かう動き、すなわちフォローにおいて、頭の移動が必須となります。構えた時の頭の位置を維持しようとすればするほど、身体は反り返り、かち上げるようなアッパースイングとなり、飛びにくいばかりか怪我のリスクが増えます。だからこそ、頭を積極的に進行方向に向かって動かすことで、それらを解決するのです」


 ここは非常に大事なポイントである為、車さんに口を挟ませずに、一気に!


「ちょっと待って。ということは、頭は最初の位置にとどめずに打つと言うこと? それはまるで……」


「そうです! そしてこれは、基本的にゴルフスイングとして共通の動きと言って良いでしょう!」


 言わせねぇよ!?


「共通の動き……と言うことは、光と闇という相反する属性とだとしても……」


「体重移動系とパワー系のスイングだとしても、基本的にはインパクトからフォロー、フィニッシュに関しては共通点が多く、特に最終的なフィニッシュにおける重心は、左足側に移動させるのが基本で……」


「確かに、パワー系すなわち身体強化系魔法と移動系すなわち転移系魔法も、一見異なるなる効果、発動方法だけれども、それでも共通の術式は存在していて、しかもそれはより魔法の根幹部分に近づけば近づくほどに増えるわ。すなわち……」


「その共通の部分というのが、フォローにおける体重移動の……」


「それを知ろうとするものは、深淵を覗くしかないわ。だけれども、その時は覚悟が必要よ。ソレを覗くということは、術者もまた覗かれているということなのだから」


 くっ! 手強すぎる!? 被せに被せで返され、されに被せたにも関わらず、キメ顔で深淵の決め台詞まで言い切りやがった……ちくしょォオオオオオ!!!!!


 しかしだ! 遂に! 遂にスイングの全体像を全て説明できたぁああああ!!!


「今回のフォローの動きにて、スイングの全体像を話した状態となりましたので、次回は何をするかというと、腕の動きということになります。具体的には、〝コックの作り方〟や〝フェースの返し方〟ですね」


 は!? しまった! 初心者ゴルファーはおそらく知らないであろうゴルフ用語を、つい使ってしまった! 聞き間違いというていで、中二ファンタジーワールドに持っていかれる!?


「コックとフェースというのは、言葉としては耳にしたことはあるような気がするけど、結局なんのことかわからないわね。って、何をそんなに驚いているのよ。女神だって、自身の管轄外のことであれば、何でも知っていると思わないでほしいわね」


「い、いえ。そう……ですよね。失礼しました!」


 普通だ……自称女神認識を無視さえすれば、普通の反応じゃないか!? これは、スイングの全体像を話し切ることが出来た俺への神様からのご褒美なのか!?


「次回の時に、しっかり説明しますが、コックとは手首が曲がっている状態を差す言葉です。フェースと言うのは、球が当たるゴルフクラブの平な面のことであり、フェースを返すと言うのは、その面の向きを変えることです」


「よくわからないけど、わかったわ。また明日、詳しく説明して。それじゃ、またよろしく」


「ありがとうございました。こちらこそ、また明日よろしくお願いします」


 こうして、やっとのことでスイング全体の流れを終えることが出来たのだけれど……


 (くるま)さんの目標にしてるコンペって、いつだったっけ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ