第二十一打 フレンド
「ごるタン、やっほー」
「やふやふでござる!」
独身男の夜は、VRで遊ぶに限るのだ! 特に、仕事がうまく行かなかった時は……さぁ! ゲームの世界に逃げようか!
「今日は、イベクエの素材集めだよね。あと何が残ってるの?」
「虹色の貝殻はあつまってるでござるな。ウルシダケがあと三十四個と鎌鼬の爪が十六個足りてないでござる」
「あぁ、貝殻は放置でいけるもんねぇ」
「そうなのでござるよぉ。キノコと爪が、ちと面倒なのでござる。今日はよろしくでござるよ!」
「いいよぉ。終わったら、そのまま私のガンリュウジ周回おねがいねぇ」
「よろこんで同伴するでござる!」
あぁ……会話のキャッチボールが出来るだけで、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。ある意味、車さんとのレッスンがあるから、この何でもない会話に幸せを発見することができたと思えば、感謝の気持ちも出るわけないな。
普通に会話して、普通にレッスンできた方が、遥かに幸せだわ。
そして俺とぽんしゅは、イベントフィールドに行くことが出来る転送石に触れると、一瞬にして王都から消えたのだった。
「……慣れないと、転送って結構ビビるでござるな! いやはや、リアル感が凄いでござる!」
「そうだよねぇ。まるで本当に、転移魔法で移動してるかのようだもんね」
「そうでござるな! この感じなら、ぽんしゅ殿のように魔法職を育てるのもありでござるなぁ」
俺は、サムライだからなぁ。スキルによる剣撃も凄いリアルな視点なんだけども、割と慣れないと酔いそうなんだよな。動きが結構激しいところが格好良いのだけれども、正味酔いに強くないとVRだときつい技が、サムライは多い。
「そうだねぇ。魔法職だと、酔わないってのも大きくて、割とガチ勢よりのプレイヤーもサムライ諦める人いるからねぇ。ゲソタロウさんも、リアルで割と酔いに弱いらしくて、魔法職に転職しようとしてるね」
「ゲソタロウさんがでござるか!?」
まさかの言葉に、俺は耳を疑った。だってゲソタロウさんて言えば、全サムライの憧れとも言えるようなガチ勢プレイヤーだもの。動画でもスキルコンボの紹介だとか、装備品の情報を惜しむことなく教えてくれていた。
何よりサムライという職に、見た目やキャラからして強いこだわりを持っていたことは、火を見るより明らかだった。
「真のサムライも、酔いには勝てなかったみたい。サムライとニンジャは、回転系のスキル多いから。まぁ、でもあの人はクレでもおかしい育て方してたし、それはそれで面白そうだけどね」
「どんな感じなのでござる?」
「殴りクレだね。ネタだって言ってたけど、腕力ステが二万近くいっている上に、精神力が四千ほどだったから。もしかしたら、ソロ専になるかもね」
「何故にサムライの拙者より、腕力があるのでござるか……変態でござるなぁ」
回復職である僧侶が、自動回復しながら殴りかかってくるとか、浪漫だしさ、一度はやってみるけども間違いなく中途半端にしかならなくて、結局サムライにしちゃうんだよなぁ。
「この間、一緒にタワー周回したけど、ドヘンタイだったね」
「カッカッカ! 流石でござるな! さて、我らも行くでござるよ!」
「おー」
そして俺たちは、イベントクエストをクリアするべくターゲットモンスターを狩り出したのだった。
「そういえば、最近中々個性的な客人が拙者の所に訪ねてくるようになったでござる〝断絶空烈斬〟」
「へぇ、どんな人?〝ホーリーランス〟」
「リアルで中二全開な御仁でござるなぁ〝救命斬〟」
「それはそれは、素晴らしい体験だね〝セイントアロー〟」
「……音声認識によるスキル発動は、会話しながらだと割と大変でござるな〝雷鳴輪舞〟」
「なんか変な所にこだわりあるよね、ここの運営〝エリアヒール〟」
「かたじけないでござる!」
「いえいえ、どうも」
アプリでチャットしながらパテでクエストするのも、慣れないうちは誤爆しまくったけども、これはこれで慣れるまで大変だな。
「お、集まったでござるよ」
「私も。ちょうど良いタイミングだね」
イベントクエの収集アイテムが全部集まったので、俺たちはNPCにクエスト報告を済ませ報酬をもらうと、早速トレードの相談である。
「お、拙者のは知力と精神だったでござるが、ぽんしゅ殿はどうでござるか?」
「私のは、速さと腕力だったね。私達、運が良いねぇ」
「ラッキーでござる!」
お互いに欲しかった能力アップ装備が報酬で貰えた為、すぐさまトレードを行う。あぁ、ボッチでプレイしてた時と比べると、ぽんしゅとフレンドになれてからというもの、装備が整うのがスムーズになったなぁ。
「なんかゴルたんとパテしてクエをクリアすると、欲しい装備手に入る気がする」
「拙者もでござる! それじゃ、次は周回でござるな!」
「うん、よろしく」
そして次は、ぽんしゅの周回だったな。こっちは俺だとソロはやる気なくなるくらい時間がかかるから、願ったり叶ったりだ!
深夜三時頃まで周回したら、俺たちはタワーから王都の広場に戻ってきた。
「お疲れさま。付き合ってくれてありがとね。じゃ、寝落ちする前に落ちるね」
「同じくでござる! また明日、というかまた今日もでござるな!」
「またね」
そして俺たちは、同時にログアウトしたのだった。
「ふぅ、今日は午前中の予約はなかったし、ゆっくりしてから行こっと」
VRゴーグルを外し、布団に身体を預けて、俺は心地よい眠りについたのだった。
「確かに私は女神であるが故に、人の子が発動できる武技は再現可能だけど、あくまでそれは自分の世界の話よ。この世界において、天翔竜墜撃の腕の振りをしてくれと言われても、無理な話だわ」
「これはゴルフの話ですから、大丈夫ですよ」
さぁ、俺の戦いが今日も始まるぞ。




