第二十打 属性……とは?
「スイングした時に、ボールのあった場所を見続けるのではなく、飛んでいったボールを見るように顔を上げなければならないのは、そうしないと肩がスムーズに回らないからですよ」
顔を下に向けたまま肩を回すのは、当たり前だが肩を回しにくい。しかも首の柔軟性があるうちは良いものの、身体が硬くなれば、首が邪魔になり肩が回らない。
解決は至極簡単で、顔の向きを飛球線に方向に変えれば良いだけだ。
「女神にイエスを強要していることは、無視するわけね。中々に貴方、強引な男ね」
「イエスを強要するわけではなく、振り切ってほしいだけですよ。いや、本当に」
もうアレだよ? 真顔だよ、俺。真剣な眼差しで、いい加減にして早よ動けや感を出しちゃてるよ? 生徒さんに対して、そんなことを思っちゃ駄目だと分かってるけどさ、無理じゃね?
「そんな真剣な眼差しで見つめられたら……本気なの?」
どちらかと言うと、見つめている訳じゃなくて、多分ですけど睨んでいるという表現が近いと思うんだけども。これが、見つめていると受け取る貴方は無敵ですか?
「僕はいつでも本気で、皆さんのレッスンをしていますよ。さぁさぁ、取り敢えず振り切る動きを実際にスイングとして実践してみましょう! 何より、車さんが目標としているコンペまで、時間は限られていますから、どんどん進めていきたいですし」
「確かにそうだけれども、釈然としないわね。貴方から女神に求愛してきたって言うのに……良いわ。そう言うことにしておきましょう」
難聴系ラノベ主人公並に、今の俺に今のつぶやきは聞こえませんよ。下手に反応すると、ますますレッスンが遅れそうだし、何より怖いよ? なんで俺が車さんにアプローチしている感じになっているのかな? 俺、ゴルフのレッスン以外の内容を喋ってない気がするのだが?
あと、俺はずっと釈然としてませんからね? だがしかし、そうそう、ちゃんと先ずは言った通りに試してもらえれば、俺は満足なんです。
車さんが、やっと右足の足の裏を後方へ向けながら、左足を真っ直ぐに伸ばし、そして顔を綺麗に前方へと向けた状態のフィニッシュを作ってくれたおかげで、見事なフィニッシュの姿勢を見ることができた。
なんだろうね……これだけで、もう今日は満足してしまいそうだ……
「この両足の動きによって、腰が綺麗に回転して、おへそが進行方向に向きました! そして顔を肩の動きに遅れないように前方に向かって上げることによって、肩をスムーズに回転させることでき、これまで振り切れていなかったスイングが、きちんと振り切れた状態になっています!」
「確かに、これまでよりもスイングに勢いがついた感じがするわね。それに、腰が前までちょっと辛かったけど、だいぶ楽になった感じするわ」
そうなんですよ……そういった感じの普通のコメントが欲しかったんですよ……
「それでは、続いてフルスイングのフィニッシュを作った時の、腕の形をやりましょう。スイングには大きく分けて、ハーフスイング、スリークウォータースイング、そしてフルスイングと分けることが出来ます。これらの違いは、スイングの振り幅の違いと言っていいでしょう」
「ファイヤ、フャイヤヤ、ファイヤヤンみたいな感じね」
どんなん感じ? ファイヤ? 火ってことだよね? ファイヤヤってどゆこと? ヤが増えると何なの?
「世界が異なると、火魔法、火炎魔法、業火魔法、獄炎魔法みたいに言うこともあるわね。まぁ、言葉が異なるだけで創世神がどうなふうに設定したかによるわね」
あぁ、魔法ね。きっと、魔法の威力的な感じが上がる時に言い方が変わるってことを、スイングの大きさが異なるってことの例として上げてくれたのだろうけど、相手が同じ病を患っていると思うなよ? 魔法で例えられても、分からんのよ。
「ただ魔法の位階をあげる場合は、文字通りに苛烈な修行と実戦が必要よ。その点で、スイングにおいては、どうなの?」
「スイングにおいては、ハーフスイングをフルスイングまで持っていくのは、そこまで大変と言うわけではありませんね」
何が〝そこまで〟なのか、分からんけども。
「バックスイングで言えば、ハーフとスリークォーターの違いは、のちに詳しくレッスンしますが、右肘を曲げるか曲げないか。そしてスリークォーターとフルとの違いは、肩がそのプレイヤーにおける最大値まで回れば、そこがフルスイングとなるぐらいですからね。別にハーフスイングをマスターしなければ、フルスイングが出来ないと言うことではありません。アマチュアの場合、フルスイングが出来てもハーフスイングが出来ない人は沢山いますから」
ハーフスイングは基礎であるが、別に基礎ができないからと言って、それがゴルフが下手だと言うことではないのが、ゴルフのある意味面白いところでもある。
ゴルフは、少ない打数でカップに球を入るのであれば、上級者ということになるのだから。
「想像と違ったわね。と言うことは、魔法の位階として理解するのでなく、ことなる属性魔法を習得するいうことに近いわね」
いや、遠い。結構、遠いよ?
「魔力を扱い術を発動するという点においては共通するものの、魔力の性質を変化させる過程において、火魔法は習得出来たけれども水魔法は習得出来なかったという事が、起こりうることは、知っての通りよ」
知らんがな。
「だけれども、基礎の水魔法を習得出来ないからと言って、火魔法の位階を上げられないと言うことではないわ。それと同じで、フルスイングが出来ると言っても、ハーフスイングをマスターしていると言うわけではないだろうし、ましてはスリークォーターといった中途半端な振り幅は、また別の能力が必要なるということね」
着地だけ見事にゴルフに戻ってくるのは、何なん? 終わりよければ、全て良しだと思わないで!
「ということで、三十分経ったわね。明日は、十五時が希望なのだけれど、空いてる?」
「ちょっと待ってくださいね、あ、はい、空いていますね」
「なら、また明日よろしく」
「ありがとうございました。それでは明日もよろしくお願いいたします」
……腕は!? 腕の動きとヘッドアップの直し方とあったのにぃいいい!!!!! 進まねぇぇええええ!!!!!!!!!




