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心の声音  作者: のなめ
第三章 信頼の音
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第8話   『答え合わせ』

――水面から、意識がゆっくりと浮上していく感覚。目を開けると、そこは相変わらず見慣れることはない特徴的なデザインの、塔の内部だった。


「――」


裕太は自分の手を見ると、先ほどまで痛々しく腫れ上がっていたにも関わらず、まるで何事もなかったかのように傷一つ、痛み一つとしてなかった。しかし、自分の身に起きていることを考えれば、このような不可思議な現象も特段驚きはしない。


彼は改めて塔の内部構造を眺めた。中心にあるのは噴水で、自分はその縁に手をかけている。周りを見ると、壁に程よい大きさの鏡が取り付けられており、当然だがどの鏡にも自分が写っていた。噴水は自分が過去に行くための装置のようなものだと理解したが、ならばこの鏡は一体何なのだろうか。それにこの場所で自分に話しかけてきた、神か宇宙人か分からない謎の人物の正体も気になる。


「やあ。無事、成功したみたいだね」


「うわっ!?」


いきなり声がしたので驚き反射的に振り返ると、丁度今考えていた謎の人物がにこやかな表情を浮かべてそこに立っていた。


「いやー、それにしてもよくあの精神状態で最後までやり遂げたね。最初はどうなる事かと思ってたけど、やっぱりそれだけ本気だったってことかな」


幾度となく心が折れそうになったが、それでもなんとか一つの後悔を晴らすことが出来た。


「じゃあ次は――」


そんな自分の気もお構いなしに、流れるように次へと進ませようとする謎の人物に、待ったをかける。


「いや、ちょ、ちょっと待って。次に進む前に、いくつか確認しておきたいことがあるんだ」


「ん?それは何かな」


「まず、君は誰で、ここは結局どこなのか。それを知りたい。君は神様ではなく、宇宙人でもないとしたら、一体何?あと、ここが過去をやり直す場所というのは分かったけど、具体的に地球なのか、異世界なのか、死後の世界なのか、それが全く分からない」


裕太はずっと思っていた疑問を、目の前の人物に投げかけてみる。


「――残念だけど、それに答えるにはまだキミの精神レベルが足らない」


精神レベル足らない。そう言われると確かにまだ未熟かもしれないが、それがその答えに直接関係するとはとてもじゃないが思えない。


「それはどういう意味?何でそれを答えるのにこっちの精神レベルが関わってくるの?」


「なに、簡単な話だよ。今のキミにそれらを説明したところで、何も理解出来ないからさ」


「いや何も理解できないって言ってるけど、それこそ話してみなきゃ分からないでしょ!それか一番理解しやすい、分かりやすい言葉で説明するとか......」


当たり前といえば当たり前の反論をしてみるが、これは自分が思う以上に単純ではないのか。しかし何であれ、これらの疑問をそのままにして次に挑めるほど、自分は割り切れる人間でも切り替えの早い人間でもない。


「――そうだね。確かにキミの言うことはもっともだ。であれば、出来るだけ今のキミに分かりやすいように、最大限の配慮をもって答えるとしよう」


しばしの間腕を組み彼の反論に沈黙していたその人物は、確かに、とそれに理解を示し頷くと、ゆっくりと口を開いた。


「何から話そうか。そうだな、まずはボクの正体を今のキミに分かりやすく話そう。簡単に言えば、ボクは5次元の存在なんだ」


その人物から放たれた言葉に、裕太は衝撃を受ける。


「え、5次元の存在......?」


「そう。5次元の存在」


簡単に言われても分からない。簡単の定義すら次元を超えているのか。裕太は頭を整理しながら、更に湧いてきた疑問を言葉にする。


「えっと、5次元ってことは......そっちにも僕たちと同じような世界があるってこと?そうなると、ここも5次元の世界なのかな」


「いや、5次元にはキミたちの存在している3次元と同じような世界はないよ。3次元は実体があるけど、5次元にそれはない。精神世界と言えばわかりやすいかな」


「精神世界......」


「そう、意識の世界だよ。そしてキミの考察通り、ここは5次元空間だ」


次元――そういえば何かの記事で、この世には11次元まで存在するとか何とか書かれていて、そんな記事を興味本位でいくつも読み漁っていた時期があったような。そんなことをふと思い出す。


「......じゃあ最初に君が言ってた、ボクは5次元の存在、というのはどういうこと?意識の世界には実体がないんでしょ?なのに、こうして目に見えているのは何故?」


「それは、5次元という意識の世界を3次元の存在であるキミへ、もっと言えばキミの脳へ伝えるための手段として、目という感覚器官が一番適しているため、それを利用しているからだね。だからキミの見ているものはすべて実体ではなく、意識なんだ」


「えっと......意識って誰の?」


「キミだよ。つまり、キミのその意識がボクやこの塔を作り出したんだ」


「ぼ......え!?僕が君を作り出したの!?この塔も?」


流れるように言われたその言葉に驚く裕太。


「そう。だからもし仮に、今ここにいるのがキミではなく他の人間であれば、その人にとってはまたここが違った世界に見えるだろうし、もしかしたらその世界にボクはいないかもしれない。いたとしても、それは全く別の”何か”かもしれない」


「なんだよそれ......」


確かにこの人物が最初に言った通り、とてもじゃないが今の自分に理解できる話ではなかった。というか全人類が理解できないと言っても過言ではないくらいの説明にも感じる。だがこれがおそらく、この不可思議な現象についての一番分かりやすい説明であり、最大限配慮してくれた結果なのだろう。


「というかそもそもどうやってここに来れたんだろう......」


そんな独り言のような疑問に対しても、それを聞いていたその人物は口を開く。


「これも分かりやすく言えば、キミの意識が強く5次元意識と繋がったから。ってとこかな。命を絶つ瞬間の強烈な意識がキミをここに招いたんだよ」


つまり、あの時の自分の意識がこの状況を引き寄せたらしい。


そして最後に、裕太はやり直しが始まって以来ずっと聞きたいと思っていた疑問をその人物にぶつけてみることにした。それは――


「もし――もし仮に、自分のやり直したいことが全てやり直せたとして、その後はどうなるの?」


自分のやり直しは生き方の軸となり、死ぬ直前に戻されるのか、それとも世界自体が書き換わるのか、はたまたそれ以外か。やり直しの最終的な結末。それが彼自身ずっと気になっていたことだった。だが、


「逆にどうなると思う?」


そう、質問を質問で返される。


「え......どうなるも何も、全く想像付かないって」


「なら、その時になってみないと分からないね」


裕太はその言葉に内心で驚く。そんなことがあるのか。この人物なら何でもとは言わないが、5次元に存在している以上、そういったことも当然に分かるだろうと思い尋ねたのだが、その答えを聞く限りどうやら分からないらしい。


「そんな......でも君なら分かるんじゃないの......?このやり直しの行きつく先、その結末だよ!元の世界に戻れる?どんな状態で?それとももう戻れない......?」


不安の種はそこなのだ。やり直しは自分の気持ちが折れない限り何度でも出来ることは前に説明され分かったが、問題はそれが全て終わった後、自分はちゃんと自分として存在しているのか。


「――これも前に説明したと思うけど、ここは5次元空間だ。例えるなら、2次元のキャラクターは3次元の人間を目にすることは出来ないし存在も知らないが、3次元の人間は2次元のキャラクターを目にすることができ、それらに影響を及ぼすことが出来る。これと同じような関係性が、3次元と5次元にもあるんだ。5次元は意識の世界だからこそ、今5次元と繋がっているキミは、自分のやり直しが全て終わった時の意識、精神状態が、そのまま元居た3次元の世界に反映される。もっと言えば、それはキミが見ている世界の話であって、他人が見ている世界はまたそれぞれ違っているんだけど、その話はどう説明しても今のキミには理解できないからしないでおくよ」


「――」


つまり、この人物が言っているのは概ねこういう事だろう。最終的な結末は、やり直しをすべて終えここに戻ってきた時の、その瞬間の自分次第であると。


「そっか。じゃあ本当に分からないんだ......。誰にも」


「他に何か聞きたいことは?これで満足かい?」


「そうだね、一応、今のところは。また何か気になったら聞くよ」


概ね疑問は解消できた。そう思った裕太は再び噴水に溜まっている水を覗き込む。少しの間休んでいても良かったが、別にそうする意味もない。体は疲れていないし、むしろ勢いに乗っている今だからこそ、思うようにやり直せる気がした。


「――」


彼は再び、やり直したい過去、その二つ目の場面を思い浮かべる。あの日の後悔はしっかりと清算することが出来た。今度は――


「ああそうだ、まあこれは別に気にするほどでもないんだけどさ、やっぱりお互いの『きみ』って呼び方には違和感があるなぁと思って。だってもう分かったと思うけど、ボクとキミは――」


その人物が笑いながら何かを言ってるのは分かったが、深く思考している最中だったためあまり聞いていなかった。


そして再びゆっくりと顔を上げると、


「来たか――」


そこは二つ目のやり直したい過去、その直前の場面であった――。


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