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心の声音  作者: のなめ
第二章 真実の音
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第4話   『意識外の感覚』

「本当に過去をやり直せるなら――......まずは『あの日』に戻ろう」


彼は強くその場面を思い浮かべながら噴水の淵に手をつき、そこに溜まった水を見つめた。しばらくその状態だったが、周りが変わったようにも感じない。


「あの――」


心配になり、神に聞こうと思い顔を上げたその瞬間――息を呑んだ。そこはまさに、自分がやり直したいと思っていた『あの日』の、その直前の場面だったのだ。場所は高校。そして自分とその噴水は学校の駐車場に現れていた。


「お、おお......」


本当に戻ってこれたのか。夢じゃないだろうか。そう思いながら彼は辺りを見回す。


「よく出来たVRってわけでもないのか」


と、そんなことを考えていると、一台の車から中年の男の先生が出てくるのが目に入る。


「おーい野嶋、こんなところで何してるんだ」


先生は彼を見つけると早速声をかけてきた。だがここで自分の身に起きたことを正直に話すのは余りにも無謀だ。信じて貰えるわけが無いし、面倒な事になりかねない。ここは無難に答えるしかないだろう。


「あ、えっと......朝病院に行って、車で親に送ってもらったところなんです」


とっさの嘘だが流石にバレないはず。


「おおそうか。今は昼休みだし、慌てることはない。ただここは駐車場だからな?危ないからできるだけ早めにな」


「分かりました」


先生は彼に事を伝えて満足したのか、さっさと校舎に向かっていってしまった。


「――それにしても、本当に、来れたんだ……ここに」


彼は周りを見渡しながら、改めてそう実感する。やり直せるというのはどうやら本当のようだ。


「さてと……」


ここから少し距離はあるが、校舎裏の人目につかない場所まで行かないければならない。目的はそこにあるのだから。


「くそ……やっぱりいざ自分から行くとなると怖いな……足がすくんできた……」


目的地からここまででおよそ半分近く歩いてきたわけだが、自分の足が少し震えていることに気が付く。そのことからも分かるように、今の彼の心は不安で押しつぶされそうだった。駐車場に飛ばされた時に何となく感じていた違和感、その正体が今大きく姿を見せた。それはそうだろう。あんなよく分からない場所で目が覚め、後悔だらけの自分に、急に過去をやり直せると言ってきた。時間にして僅かの出来事だ。その時点で冷静に物事を判断し分析出来るほど、出来た人間ではなかった。そしてやり直したいという一心でここまで飛んできたのだ。すべてはあまりに突然の出来事であり、一度人生を諦めた彼はそれに縋ることしか出来なかった。選択肢などあるはずもない。半ば依存のような、視野が狭く物事が見えていなかったんだろう。


もうここまで分析すれば、その不安の種は明白だ。現時点で彼はこれから起きる出来事に対して、何も対策を考えていないということ。とにかくやり直せるという未来にばかり頭が行って、行動が先行してしまい、肝心のその方法は全く考えてすらいなかった。


しかし――だからと言って、ここで引き返すわけにはいかない。


「......何のためにわざわざ機会をもらってここまで来たんだよ。しっかりしろ!」


不安と恐怖で忘れかけていた肝心の目的を、再び思い出す。それと同時に、仮にやり直したいことが全部終わったとき、その結果が過去にどう影響を与えるのか。それとも過去は変わらず未来に影響を与えるのか。はたまたただの自分の中の哲学として蓄積され、死ぬ前に戻されるだけなのか。自分の記憶はどうなるのか。など様々な疑問がまた湧いてくる。


「無事に終わって帰れたら聞こう」


ただ確かなこと。それは少なくとも自分なりのケジメはつけられる、ということ。


そう――これは紛れもなく、自分自身との戦いである。




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