第11話 『自分にできること』
「――え」
前にもここで会ったことがあるか。そんな彼女の唐突な質問に対し、裕太は唖然として言葉が出なくなる。一体何故そう思ったのか。そもそも彼女はこちらの事情は何も知らないはず。であればどうして――。
次々ととめどなく沸き上がる疑問に脳が侵されていく。
「えっと......ちなみに何でそう思ったの?」
疑問に疑問をぶつける形で裕太は尋ねる。下手に質問に答えれば何か良くないこと、最悪取り返しのつかない事になりかねないため、慎重になっていた。
「ん、まあ何となく、前にもあんたとここで会ったような覚えがあるのよ。うっすらとしか思い出せないんだけどね」
確かに前回、この場所で彼女に話しかけ、その彼女はあまりにあっけなくこの世を去ってしまったが、それを覚えているという事だろうか。
裕太は怪しまれないよう、少し深堀りして尋ねてみることにした。
「そう、なんだ......。ちなみにその時の俺ってどんな感じだった?」
「んーそうね。一つは何だかよく分からない勘違いを私にしてて、もう一つは一生懸命私を説得してくれて、思いとどまらせてくれた気がする」
その言葉を聞き裕太はまたもや言葉が出なくなる。一つはそれこそつい先ほどの出来事のため当然覚えているが、もう一つは現在進行形の今である。明らかに何かがおかしい。いや、もしかしたら彼女は遠回しに、裕太が最後に何か救いの手を差し伸べてくれることを期待して、敢えてこの話を振ってきたのかもしれない。しかしそれではあまりに不可解な点が多すぎるため、すぐにその考えは頭の中から消す。
「まあ、冷静に考えて、薬の副作用が脳に影響を及ぼして、何かの夢とこの状況をごっちゃにしてるっていう、またいつものパターンね。たまにあるのよ。それも、これで終わりだけど。だから別に大した話じゃなかった。今の話は忘れて」
裕太が黙ってあれこれと思考している中、そんな裕太の気を知るわけもなく、彼女は自分で結論を出し、勝手に納得したようだった。
――空気は変わり、いよいよ彼女は最後の時を迎える。裕太は一度思考をやめ、改めて彼女に向き直った。それは彼女の決断を見届けるためであり、一人の人間の人生を、自分の記憶に刻むためでもある。
「じゃ、今度こそ本当にお別れ。ふう......ほんと、長かった。またね」
「うん、じゃあね」
お互い見つめあい別れの言葉を述べると、彼女は最後、憑き物が落ちたような、今までにない晴れやかな表情を浮かべながら、闇に向かって飛び込んでいったのだった――。




