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アマリリスの狂刀  作者: 唯花
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 千神立花は美人だ。それも、とびっきりの美人。

 腰に届くほど長く、しかし枝毛や切れ毛は一本も見当たらないほど艶やかな銀髪。

 ハーフなのだろうか、ヘネラル・カレーラ湖のように清く蒼い大きい目。

 雪のように白く、瑞々しく滑らかな肌。それを強調する真っ赤な唇。

 そして、モデル顔負けの抜群のプロポーション。  

 こんな美人は世界中探しても二人といないのではないか。過言かもしれないが、それがわたし、園本愛美が、今隣を歩く少女に常日頃から抱いている感想だった。

 

「どうしたんですか?愛美先輩。私の顔に何かついてます?」

 

 どうやら美しすぎるあまり無意識に見つめてしまっていたらしい。

 立花ちゃんはまじまじと見られていることに恥ずかしくなったのか、頬を若干赤くしながらそう尋ねてきた。KWAII。

 

「い、いや、何でもないよ。立花ちゃんは今日も可愛いいなあって思っただけ」

 

 慌てて顔を逸らして、新米ホストみたいな台詞を吐くわたし。彼女の美しさに対してそんな陳腐な感想しか練りだすことができない自分が嫌になるが、でも仕方がない、可愛いんだから。

 

「いやいや。私なんて全然可愛くありませんよ。愛美先輩の方が断然可愛いです。私なんてただの胸が大きい淫乱女ですよ」

 

 ……ツッコミどころ満載な、いや、ツッコミどころしかない発言をして立花ちゃんは笑う。

 相変わらずこの子の発言は支離滅裂だな……。けどその支離滅裂な発言に反して、その夕焼け照らされた表情は輝いていて、彼女を微笑みの女神と形容したい衝動に駆られるほど美しかった。

 

「そんな卑屈初めて聞いたよ」

 

 苦笑を浮かべながら呟くわたし。

 ちなみに今は登下校時によく通る河川敷を歩いている。

 わたしと桟君同様、立花ちゃんもこの町に住んでいるらしく、わたしは桟君が隣にいないときはこうして立花ちゃんと帰り道を共にしたりするのだ。

 最初は、急に転校してきて一気に学園のマドンナまで上り詰めた女の子がどんな子かきになって接近した。きっと派手で狡猾な子なんだろうなと思っていだが、いざ話してみるとお淑やかで控えめな子で、今では桟君がどうしてあそこまで嫌うのか、わたしには一ナノも理解できないくらい彼女はいい子だった。女子のわたしでも好きになってしまうくらいに。

 もちろん桟君ほどではないけれど。

 

「……ハハ。あ、そういえば立花ちゃん。どうして野次馬の中にいたの?やっぱり事件気になったの?」

 

 わたしは10分ほど立花ちゃんと雑談を交わして、さっきの事件現場からずっと気になっていたことを聞いた。

 正直立花ちゃんはそういう野次馬の中に群れるタイプとは正反対の人間だと思っていたからだ。

 なんだか、こう、野次馬を馬鹿にはしないけど、興味ないって感じで素通りして、家でピアノでも弾いてそうなイメージを持っていた。いや、完璧にわたしの憶測に過ぎないんだけれど。


「ええ、まぁ。学校から帰ってたら、人がいっぱいいたので気になっちゃって」


 立花ちゃんは苦笑して、そんな返事をした。

 だが何故だろうか、その表情は少しぎこちない。

「ふうん、立花ちゃんでもそんなことあるんだねえ」

しかしわたしは、それを自分が野次馬の中に混じっていたところを見られた恥ずかし

さから来たものだと思い込むことにして、これといったリアクションを取ることもなくスルーした。

 誰だって聞かれたくないことの一つや二つあるだろうし。


「先輩、わたしのこと何だと思ってるんです?」

「変人かつ完璧でおっぱいが無駄に大きくてむかつくちょっと悪魔な大天使後輩」

「それ、色々矛盾しすぎですよ」

 

 ふふ。

 立花ちゃんはさっきの苦笑とは一転、指を口元に当てて上品に、しかし本心から楽しんでいることが分かる微笑みをわたしに向ける。笑った反動で絹みたいな髪がふわっと揺れた。

 やべえ、可愛すぎる。マジ天使なんすけど。

 このままだと立花ちゃんを教祖とした宗教法人を作ってしまいかねない。

 ほら。苗字も千神でなんか教祖っぽいし。

 

「そう言えば、先輩こそあそこで何してたんです?」

 

 立花ちゃんはわたしがそんなことを考え、呆けているとも知らず、小首を傾げてわたしに尋ねてきた。わたしは先ほどまでの煩悩を払うようにぶんぶんと頭を振って答える。


「わたしも同じだよ。ポケモンのこと考えながら歩道橋渡ってたら、何だか人だかりができてるのを見つけて、そしたら野次馬の中に一匹の天使がいるのを発見した」


 そう!君という名のね!


「天使って単位匹なんですかね?」 

「そっちに突っ込むんだ……」


 ガクッ。わたしはマンガの演出のようにうなだれた。燃え上がったテンションに思いっきり冷水をぶっかけられたような感覚だった。


 「?」


 立花ちゃんはわたしが何故コメディアンのような反応を見せたのか分からなかったらしい。

首を10度ほど傾けて複雑な表情を作る。この子、自信家だけど妙な所で天然なんだよな……。


 「まあいいや。それより立花ちゃん、お腹すかない?グレープグレープで晩御飯でも食べていこうよ。話したいこともあるし」


 わたしはちょうど河川敷を下ったところで、50メートルほど先にある一軒家を指差した。木造で赤屋根が特徴的な二階建ての一軒家。その二階のテラスからは『GRAPE・GRAPE』と黒字で書かれた白地の看板がぶら下がっている。

 この町の中にある数少ないカフェだ。奇抜な名前とは裏腹に店内はとてもおしゃれで、料理も安くておいしい。県外からわざわざ訪ねてくる人間もいるほどの人気店である。


「いいですね。ちょうど私も小腹がすいてましたし。ここらでガソリン補給といきますか」


 立花ちゃんはわたしが言った『話したいこと』という点には一切触れず、拳をぐっと握り込 

んでワクワクして仕方がないという目でわたしを見た。


「う、うん」

 

 そんな目で見られると何としてでも楽しませてあげたくなる。

 ここでもし立花ちゃんを悲しませたりなんかした日には世界中の人間がわたしに向かって大ブ―イングを浴びせかけることだろう。

 わたしから誘っておいてなんだが、今更になってプレッシャーを感じてきた。

 これはことを慎重に運ばなければならないな。

 さもないとわたしの命が危ない。

 まだ私も17歳だ。世界の人間から疎まれる年齢としては早すぎる。

 わたしは自分の話すべきことをどのようにして彼女に伝えるべきかを頭の片隅で思考しつつ、立花ちゃんとカフェへ進み始めた。ゆっくりと、彼女の足取りに合わせて。

 

 そして、

 だからかもしれない。

 わたしはとある重要な事実を自分が見逃していることに気が付いていなかった。

 立花ちゃんが学校からの帰宅途中であの事件に出くわしたというのならば、彼女はわたしと同じ電車に乗っていたはずで。しかし、一番に電車を出たわたしよりも、先に彼女が事件現場に着いていたということは、彼女はわたしよりも一本早い電車でこの町に帰って来ていたのだということで。そして、その電車はおよそ三時間ほど前の到着車両で、それならば彼女はここら辺を三時間ほども一人でうろつきまわっていたということになる、という重要な事実を。

 



御一読ありがとうございました。

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