表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマリリスの狂刀  作者: 唯花
5/13



 おそらく両親が住民票に登録しているであろう我が家の建つ町、弥生町にわたしが帰ってきた頃には既に時計は18時を回っていた。

 普段、学校の最寄りの鳥鬼駅から弥生駅までは30分もかからないので、16時半の電車に乗ったわたしは17時前には弥生町に着ける手筈となっていた。だが、何と我が弥生町でもとうとうJK殺人鬼が現れたらしく、それに呼応して電車が途中で弥生駅に向かうのを中断してしまった。だからこれほどまでに帰りが遅くなってしまった。

 まったく、17時半から桟君に似ている俳優が出演するドラマを見ようと楽しみにしていたのに……。最悪のタイミングで出てきてくれたものだ。もしJK殺人鬼がわたしの前に現れてくれるのならその時は是非とも彼女を八つ裂きにしてやりたい。……殺人鬼のみを狙った殺人劇なんて代物は果たして売れたりするのだろか。ミステリー研究会としては少々興味があるなあ。

 そんなどうでもいいことを考えながらわたしは電車を一番乗りで降車し(ややこしい)ⅠCカードを機械にかざして駅の改札口を出た。

 いつもは帰宅ラッシュでにぎわうこの時間だが、乗った電車が一時間ほど遅れて到着したため今日は普段よりも駅構内を快適に進める。

 

「まるでくさむらで野生のポケモンが出てこないときみたい」


 我ながら秀逸な比喩だ。もちろん出てきてほしい時もたまにあるから完璧な比喩とは言えないが。

 くだらないことを頭に浮かべながら駅舎の外に出る。駅の前の歩道橋を渡るべく下校用のスタンプコンクリートの上を歩き始める。


 「ポケモンゲットだぜー」


 さっきのポケモンからの派生で某有名オープニングテーマが頭に浮かんでつい口ずさんでしまった。けれど、これいつもおもうのだが、何故イントロがこれなのだろう。サトシってそんなにポケモンを積極的に捕まえようとしていた印象はないのだけれど。

……ううん。考えてみたけど分からない。これもミステリーとして成立するのだろうか。もし成立するのなら来年の文化祭あたりのテーマにしてみるのもありかもしれないな。


 「ん?」


 と、そこまで歩道橋の上で思考していたところ、わたしは違和感に気が付いた。

 歩道橋の階段の付け根に何やら人が集まっている。それは、ある一箇所を中心にしてドーナッツのように人の輪を広げている。


 「なんだろう」


 更に目を凝らす。

そのドーナッツの中心部分には歪だがアスファルトの上に人の形をした白線が引かれていて、その周りを、何やら青い服を着た男性数名と『立入禁止 KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが包んでいた。


「……ああ!」


 わたしは左手を皿にして、その上に右手で作った拳を乗せた。

やっと合点がいった。

要するにあれは警察による事件現場検証の真っ最中ということなのだろう。青い服を着た男性数名はきっと鑑識官の人たちだ。 

 そして最近この町で起こった事件と言えばただ一つ。

 JK殺人鬼。

 そうか……。弥生町で起きていたことは知っていた。けれどこんなに近くで起きていたとは。

 これはいよいよ、わたしや桟君も他人事ではなくなってきたな。

 あとで桟君に『気を付けて』とメールをしておこう。

ついでに桟君は通学の際、わたしと駅で合流するまでは確か一人のはずだから彼の家にわたしが迎えに行って、行き返りずっと一緒に登下校するのも提案してみよう。

だって一人は危ないし。 

 桟君もなるべく長い時間誰かと一緒にいられた方が安心することだろう。

 むふふ。

 これは夏休みがバラ色に染まりそうですな。もっとも薔薇の開花時期は5月から6月ごろなのだが。

 

「ん?」

 

 そんな風に歩道橋の上で、しかも事件現場を眺めながらにやつく危ない奴と化していたわたし。しかし、わたしはその笑みを急に止め、この数分間の間で二回目になる「ん?」という声を発した。

 眼下の野次馬。その中にうちの高校の制服を着た見知った顔を発見したからだ。

 

 「あ」

 

 その顔見知りもわたしが見ているのにどうやら気が付いたらしい。

 同じくあちらも口を「あ」の形にして驚く。そして、その美しい唇を引き戻すと、ついでにわたしがいる歩道橋の上にわざわざ階段を登って戻って来てくれた。

 わたしの前に彼女が立つ。

 

 「こんばんは。愛美先輩」

 「こんばんは、立花ちゃん」

 

 顔見知り。というか、まあ後輩。桟君の天敵こと千神立花さんがわたしの前に現れた。 

 


御一読ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ