アレックスの提案と新たな決意
そんな夜が明けた次の日、ランド達はギルドの酒場で今後を話し合っていた。(アルガスはガイゼルと街の視察に行った)
「しかし…ノエルが前を向けたのならそれはそれで良いことだが、どこで今回の素材を加工するかだよな」
ゼルの言葉にみんなが同意する。
「そうね、工房が無くなった今ノエルがどこで鍛治をするかよね」
「確かに…」
「こればかりは設備がないとね」
「そうなんだよね、どうしようかな?」
悩んでいる5人にランドが質問をする。
「一時的に他の鍛冶屋の工房を使わせてもらうとかは駄目なのか?」
ランドの言葉に返答したのはリンだった。
「うーん、それはちょっと難しいと思うわ。基本的に職人によって手順や設備は変わるし、なによりほとんどの職人は自分の聖域である工房に他の職人を入れないのよ」
「それはまたどうして?」
重ねてランドが尋ねるとそれにはノエルが答えた。
「職人の技術や秘伝は基本的には後継者以外には見せないものなんです。だから万一自分の技術を見て盗まれたら…とか逆に工房を貸してくれた職人に自分の技術が見られないかと思ってしまうんですよ。後は一言に「鍛冶屋」と言っても「武器専門」「防具専門」「生活品専門」「装飾品専門」と分野が違ったりします。それによって使う道具や技術や設備も違いますから仮に工房を借りても自分の思った通りのものが造れないなんてことになりますしね」
「なるほど理解した。つまりノエルが造るときはノエルの技術や手順に適応した道具や設備が必要で簡単にどこでもできる訳じゃないんだな」
「そういうことです、それに今回はランドさんやみんなの装備は私としても一切手を抜かず今の自分にできる最高のものを作りたいから妥協はしたくないんです。すぐに取りかかることができなくて申し訳ありません」
ノエルはそう言ってランドに謝るがランドは「気にするな、そこまで気合いを入れてくれるならなおのこと楽しみになる。その為には待つことなんてなんでもないさ」と答えた。
(私の拘りで手間をかけてるのにランドさんは優しいなぁ…///ますます好きになりそう///)
(とか思ってるんでしょうね今ノエルは…)
ノエルが少し顔を赤くし、それを見ているリンはぼんやりとそう思った。
「まぁそうなると陛下の報酬でノエルがノエルに合う工房を作るまでは待つしかないかな」
ゼルがそう言うと他のみんなも「そうだな、まぁ急ぐものでもないしな」と答えた。
そんなことを話していると「おぉ、兄ちゃん達こんなとこにいたか」と声がして、そちらを見るとアレックスがやって来た。
「アレックスさん、どうかしたんですか?」
ゼルがそう尋ねるとアレックスは「いやなに、ちょっとギルドに用事があってきたらお前さんたちが見えたもんでな。何か話しておったようじゃがどうかしたのか?」と言葉にした。
「実はですね…」
そう言ってノエルが事情を話した。
「なるほど、ダイガンの工房がなくなってしまったからノエルの今後をか…」
「えぇ、しばらくは休業するしかないかと…「そういうことならワシのところに来ないか?」…え?」
アレックスの言葉に全員が呆気にとられた。
「おいおいアレックスさん、いくらノエルが美人だからってその年で口説くなよ」
「そうね、さすがに年が離れてるわ」
「祝福より葬儀の方が早いだろ?」
「いくら伝説の職人と言ってもねぇ」
「いや、みんなそれは失礼だろ?」
そんなことを口にするゼル達をランドが嗜めるとアレックスは「馬鹿者、そういう意味ではないわ!」と反論した。
「じゃあどう言うことだよ?」
ゼルがそう聞くとアレックスは「まぁ待て今から説明してやるわい」とランド達の近くに座ると話し出した。
「まずはお主達も知ってると思うがワシはダイガンとは古い付き合いじゃ、ここ数十年は手紙でのやり取りだけじゃったが若い頃はお互いに行き来をして交流もしておった。そして時折お互いの知識を混ぜて新たな技術ができないかと酒をのみながら試行錯誤をしていた頃もあった。ワシの魔道具のパーツや外枠の部分をあやつが打ったりして作ったりもしたんじゃよ。これの意味がわかるか?」
「意味?」
「何かしら?」
「はて?」
「あ、なるほどそういうことか」
「そこの魔法使いの嬢ちゃんはわかったようじゃの」
「リンは解ったのか?」
「どう言うことなの?」
ランドとノエルがそう尋ねると唯一意味を理解したリンはランド達に解るように説明をした。
「つまりね、アレックスさんとダイガンさんは昔お互いの家まで行って試行錯誤をしたって言ってたでしょ?そして魔道具の部品とかもダイガンさんが作ってたって」
「だからなんなんだよ?」
ゼルはまだ解らずに続きを促す。
「ゼルはホントに察しが悪いわね、だからアレックスさんの家でそういったことをしたときにダイガンさんはどこで部品とかを作ったと思う?」
「そりゃ鍛冶屋なんだから工房でって…あ!そういうことか」
「そう、つまりアレックスさんの家にはダイガンさんの技術に合わせた鍛冶工房が有るってことよ」
リンの言葉に他のみんなもようやく納得がいった。
「まぁそういうことじゃ、どうかなノエル?」
「よろしいのですか?」
「勿論じゃ、それにダイガンの手紙にはノエルが困っていたら助けてやってほしいとも書いておった。友人の最後の頼み、これに答えてやりたいということじゃよ。それなのにお前さんらときたら…」
「す、すいませんでしたー」×4
ゼル達は揃って頭を下げた。
「どうやら腕を錆び付かせる心配は無くなったみたいだな、良かったなノエル」
「はい、あ…でもそれならランドさんから受け取った報酬はお返しした方がいいですね。使う必要がなくなりましたし」
「いやそれは受け取っておいてくれ、当面の生活費にもなるだろうしな」
「いやいや、流石にそれでも多すぎですから」
「うーん、そう言われてもな…あ、そうだ!アレックスさんちょっとよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「アレックスさんの家のダイガンさんの工房ですが設備の強化とかは可能でしょうか?」
「設備の強化じゃと?どういうことじゃ?」
「俺は鍛冶については素人なのですがちょっと気になることがありまして…」
そう言ってランドはダンジョンで手に入れた素材についてアレックスに説明する。
「なんと、ミスリルだけでなくオリハルコンやアダマイタイトまで手に入れたのか!?」
「えぇ…それでですね、ダイガンさんはオリハルコンは加工したことがあると聞いているのですがアダマイタイトは見たことがないと聞いたので今の設備で加工することが可能なのかと思いまして」
ランドの言葉にゼル達も反応した。
「そういえばそうか、素材があっても加工できるかわからないよな」
「そうね、その辺私達にはわからないけど」
「確かにな」
「実際どうなのノエル?」
「うーん、恐らくだけど窯の温度とかをもっと強化できればいけるとは思うけど」
そう話し合うみんなを見たアレックスは「なるほどの、それで設備の強化ができないかとな」と口にする。
「えぇ、勿論その分の資金は払います。ノエルどうだ報酬をそっちに回すってのは?」
「で、でもいいんですかランドさん?」
「勿論だ、その代わりいい武器を作ってくれよ」
「あ、ありがとうございます。頑張りますね!」
「あぁ期待してるよ」
二人がそんな会話をしてると…
「でも、そんな設備を作れる人っているのか?」
「そうよ、貴重な素材を加工する設備なんてなかなか作れるものじゃないわ」
「そうだよなぁ」
「まずはその職人探しかしら?」
ゼル達がそんなことを口にする。
それを聞いたランドは「いやお前ら何を言ってるんだよ?」と呆れた顔をする。
それを見たゼルが「何でだよ、俺達なんかおかしいこと言ったか?」と言った。
「そりゃそうだろ、お前ら目の前にいる人誰だと思ってんだ?」
「誰ってそりゃ、伝説の職人アレック…あ…」
そこまで言って四人は固まる。
「さっきのことといいお主ら、ワシになんか恨みでもあるのか…?」
ジト目でゼル達を見るアレックスに対してゼル達は…
「い、いやそんなことは…そ、そういえばアレックスさんはギルドになんの用事でこられたのですか?なにか依頼されるのであれば良かったら俺達が聞きますよ!」
「そうね!何でも言ってちょうだい!」
「任せてください!」
「力になりますよ!」
と大声で答える。
「強引に誤魔化しおったのぅ…まぁエエが。そうじゃな丁度良いしお主らに頼むとするか。ランドの兄ちゃんもついでに頼まれてくれんか?」
「ええ、俺でよければ」
「そうかそうか、頼みたいことは王都までの護衛じゃ。ワシの家は王都にあるのでな、どうせお主らも陛下から報酬を受け取るために王都にいくことじゃし丁度エエじゃろ?」
「そういうことならお安いご用だ」
「任せてよ」
「おう」
「余裕よ」
「わかりました、じゃあノエルもそのときに一緒に王都にいこうか」
「そうですね」
「では頼んだぞ、出発は明日の午後じゃ。ギルドの前で待ち合わせるということでよろしくな」
「わかりました」×6
「ではまた明日の」
そう言ってアレックスはギルドから出ていった。
「なんか一気に問題が解決したな」
「良かったわね」
「そうだな」
「ええ」
「ノエルも良かったな」
「はい」
「それじゃあ明日の午後までに各々準備をしておこう」
ゼルがそう言ったので各自用事を済ませるために解散となった。
ちなみにその夜、事情を知ったアルガスが「そんなら俺もお前らに合わせて帰るわ、護衛に連れてきた騎士団は駐屯させておくつもりだし。一人で移動するよりもお前らと一緒だと言ったら騎士団も納得するだろう」と言って同行が決まった。
そして次の日の午前中、ランドはノエルとアルガスと三人でダイガンの墓を訪れた。
「おじいちゃん、私王都に行くことにしたよ。アレックスさんが面倒見てくれることになったの」
「良かったなダイガン、お前の孫は立派にお前の鍛冶を引き継いでいるぞ」
「できれば一度お会いしたかったです」
それぞれそう言葉にして手を合わせた。
「さて、それじゃ行くとするか」
「そうですね」
「はい、おじいちゃん…行ってきます!時々会いに来るからね」
そう言って三人は集合場所へ向かうために歩き出した。その時強い風が吹いたかと思うと…
…頑張るんだぞ…ノエル……俺の孫よ……
「え?」×3
ふとそんな声が聞こえたような気がした
「今…」
「気のせいか?」
「さて、どうだったんだかな?どっちにせよダイガンが安心できるように嬢ちゃんは頑張らないとな」
「はい!」
そう言葉を交わして三人は再び歩き出した。




