失われた居場所と激怒の冒険者
翌朝、ランド達は目の前の光景に言葉が出なかった。
ランド達ですら言葉が出なかったのだから当人のノエルの心情はそれの比ではないだろう。
「わ、私のお店が…おじいちゃんが遺してくれたお店が…」
微かな痕跡を残して焼け落ちてしまった自分の店を見てノエルは絶句していた。
「酷いわね、両隣の家もほとんど全焼したみたい」
ペンドラがそう言葉にすると近くの住人の女性が声をかけてきた。
「あぁ、ノエルちゃん無事だったんだね!姿を見ないから心配したんだよ!」
「お、おばさん、何があったの?なんで私のお店が燃えてしまったの?」
「昨日の夜中に突然火の手が上がってね。衛兵達も調べてるみたいだけどまだ原因は解らないって。最近あなたはあのバカ息子に目をつけられてたからね、姿を見ないから火事に巻き込まれたんじゃないかってみんな心配してたんだよ。お店は残念だけどあなたが無事で良かったよ」
「そんな…どうして」
ノエルはもうそれ以上の言葉が出ずへたり込んでしまった。
「ノエル、ひとまず一度宿に戻りましょ。ここにいてもなにも進まないわ」
ペンドラがそう言ってノエルの肩を支えて歩き出す。
リンとガイルもそれに続いて歩いていく。そんなときゼルがふと店の前でしゃがんでいるランドに気が付き声をかけた。
「どうかしたのかランド?」
「ゼル、ちょっとこれを見てくれ」
「なんだ?」
ゼルがランドの隣にしゃがんでランドが示すところに視線を向ける。
「この外側の壁の一部だけやたらと燃えかたが激しい。恐らく火が上がったのはここからだ」
「つまりどういうことだ?」
「これは放火だ、外側のこの辺りに何か薬品、もしくは油のようなものを撒いてから火をつけたんだ」
「なんだって!?どうしてそんなのがわかるんだ?」
ゼルが問い掛けるとランドは答えた。
「前に火炎とかげと遭遇したことがあるんだが、その時もソイツに燃やされた家屋は最初に火がついたところは他のところよりも燃え方が激しかったんだ。それと同じだとするとこの場所から火がついたと思う。もし中からならこうはならないし、何よりノエルは俺達とダンジョンにいたんだ、外のしかもまわりに燃えるようなものが無い場所から燃えたとするなら何者かの仕業と考えた方がしっくりくる」
「なるほどな…しかし一体誰がなんのために?」
「それはわからない、一番怪しいのはあのバカ息子だろうが確固たる証拠がないからな」
「ふむ、まぁここで話してもしょうがない。俺達も一旦宿に戻ろう」
「あぁ…」
そう言うと二人はメンバーのあとを追って歩きだした。
- - -
ここは宿屋のペンドラとリンとノエルの部屋
「ノエル大丈夫?」
ペンドラが心配そうにノエルに声をかける。
「へ、へーきよ?燃えちゃったのはショックだけどボロかったしね。私がいないときで良かったわ、それにみんなのおかげで素材はあるんだからこれで装備とかをつくって売れば私の腕ならすぐにでも新しい家を「ノエル!」…っ!」
強がろうとするノエルにリンが強めに声をかける。
「私達の前でまで無理しなくていいのよ…?」
「う…」
ノエルの瞳に涙が溜まる。
「ノエル…」
ペンドラがノエルを優しく抱き締めた瞬間…
「うわぁぁぁぁぁぁん!ペンドラー!おじいちゃんのお店が、私の大切な居場所がぁーーー!」
堪えていたものが吹き出したのかノエルはペンドラの胸で泣き出した。
<うわぁぁぁぁぁぁん!
「……今はあの二人に任せよう」
「…そうだな」
ドアの前でノックしようとしたランドとゼルはそっと部屋の前から移動した。
しばらくしてゼル、リン、ガイル、ランドはギルドの酒場で話し合っていた。
「リン、ノエルの具合はどうだ?」
ゼルがそう尋ねるとリンは…
「今は泣きつかれて眠ってるわ、ペンドラが側についてる」
「そうか…」
「しかしランドの推測通りなら一体誰が放火なんぞ…」
ガイルがそう言って首をかしげていると「あ、あのすいません」と声をかける人物がいた。
全員が声のした方に視線を向けると一人の女性が立っていた。
ランドは「君はたしか…ギルド職員のマーリィさんだっけ?」見覚えのあるその女性にそう声をかける。
「あ、覚えてたんですね」
「まぁ一応は、それで何かご用でしょうか?」
ランドが問い掛けるとマーリィは「実は私…昨日見たんです」と言葉にする。
「見たとは?」
「はい、実は昨日の夜なんですが…」
マーリィは昨晩自分の見たことを全てランド達に話して聞かせた。
「なんだと!」
「それはほんとか?」
「なるほど、そういうことね」
「………」
話を聞いた四人はそれぞれの反応を示す。
「リン、そういうこととはどういう意味だ?」
リンの言葉にゼルが問い掛ける。
「おそらくだけど、あのバカ息子はノエルが素材を直接取りに行ったのを知って妨害しようとしたのよ。それでダンジョンで手下を待ち伏せさせて私達を襲った。だけどどうやったか知らないけどそれが失敗したことを知って、今度はノエルの居場所であるあの店を無くそうとしたのよ。あのバカのことだから行き場を無くしたノエルが観念して自分のモノになるとでも思ったんでしょうね」
「なるほどな、どこまでクズな野郎なんだ!」
「神ももはや救わぬほどの畜生だな」
「ゆるせない!」
「………」
「おいランド、なぜお前さっきから黙ってるんだ?お前は腹がたたな……!!?」
先程から無言のランドを不思議に思ったゼルがランドに視線を向けるが、ランドのまわりの空気が歪んで見えるほどの殺気をランドが放っていたことに思わず黙り込んだ。
流石にAランクなだけあってゼルのあとにガイルもリンもその気配に気付きランドの殺気に息をのんだ。
「ラ、ランド…?」
そっとゼルが話しかけたかと思うとランドは無言で席を立った。
その迫力に三人は思わず一歩後ろに下がる、ランドは三人に視線を向けると一言…
「ちょっとあのバカ息子の所に行ってくる、ノエルを頼んだぞ。マーリィさん、領主の館はどこですか?」
その気迫に固まっていたマーリィも「は、はい…ギルドから出て左に行くと…」と道を教えた。
ランドが出ていってから少しして我に返ったゼルは…
「と、とにかくランドを追うぞ、ガイルお前はペンドラとノエルの所にいって事情話してこい。リンは俺と一緒にランドを追うぞ!」
「あ、あぁ」
「わかったわ」
そう言うと各自動き出した。
ゼルはリンとランドの後を追いながら口にする。
「しかし、昨日ランドがアイツらに少しムカついたと言ってはいたが…」
「えぇ、ホントに少しだったのね。さっきの雰囲気は昨日のモノとは別格だったわ」
二人は先程のランドの殺気を思い返すと
(あのバカ息子…死ぬんじゃないかな?)×2
と思った。
- - -
場所は変わってここは領主の館
「街の噂を聞いたが、随分と大胆なことをするな…」
闇ギルドの男がそうボンズに言うと
「なぁになんとでもなるさ、これでアイツは素材があっても鍛治はできない。もはやボクに泣きつくしかないのさ」
勝ち誇ったかのようにボンズはそう口にするが闇ギルドの男は(そんなうまくいくものかねぇ?)と思っていた。
「まぁどちらにせよこれでボクの未来は安泰…ドゴーーン!…な、なんだ?」
突然の轟音にボンズは驚きを隠せない。そこに手下の一人が慌てた様子で部屋にやって来た。
「ボ、ボンズ様、侵入者です!正門が破壊されました!」
「正門が!あそこは鋼鉄の門で厚さ50センチもあるんだぞ?」
「そ、それがどこからか一部刃こぼれをしている巨大な斧が飛んできて一撃で門が粉々に…」
「は?そんなバカな話があるか!」
「で、ですが実際に粉々になったのです!」
手下の話に驚いていると他の手下の声が聞こえる。
「侵入者だ、全員正面玄関に集まれ!」
ボンズも闇ギルドの男も手下もその声で部屋から出ると二階のロビー上の廊下から正面玄関を見る。
正面玄関の前に手下達が武器を手に侵入に備えていると玄関の門がいきなりぶっ飛んだ。
衝撃で埃が舞いそれが落ち着いた頃に一人の人影が見えてくる、その人影はゆっくりと中に入ってくると言葉を発した。
「おい、領主のバカ息子!よくもノエルの思い出と居場所を奪ったな、流石の俺もキレたぞ!」
それは怒りの感情を隠そうともせずやって来たランドだった。
「ハ、誰かと思えばCランクのゴミじゃないか。お前なんかがなんのようだ?あの女の友人のAランクパーティーならともかくお前みたいな半端者がボクに逆らうなんて身の程を知れ!」
ボンズはランドを見て嘗めてかかるが闇ギルドの男は違った。
(このバカは相手の実力もわからんのか、あれがCランクだと?冗談じゃない!あんなのがいたのなら俺の手下がやられるのも無理はないな…)
流石に数々の修羅場を抜けてきただけのことはあり闇ギルドの男はランドの実力をある程度理解したようだった。
だが理解したのはその男だけでボンズをはじめとした他の奴等はランドの「Cランク」の肩書きを過信し油断している。
「てめぇ、一人でくるとはいい度胸だ。こないだの借りをかえしてやらぁ!」
先日ランドに腕を掴まれて投げられた手下がそう言うとランドに襲い掛かる。
「よし、やれやれ!」
ボンズはそう言ってけしかけるが闇ギルドの男は(無理だ、アイツじゃあの男に手も足もでないだろう…)と思った。
「ぐっあ…」
「な、バカな?」
男の予想通りランドは向かって来た男を掴み持ち上げたかと思うとそのまま壁に向かってぶん投げた。
「がぺっ!」
投げられた男はそのまま壁にめり込むと気絶したのか動かなくなった。
「こ、こいつ変だぞ!Cランクじゃないのかよ?」
その様子を見たまわりの奴等が動揺するがランドはそんなことは意に介さず言葉を発した。
「痛い目みたい奴からかかってこい!と言っても一人として見逃すつもりはないがな!」
こうしてキレたランドの蹂躙が始まった。
ランドが領主の館に向かって20分ほど後になって、ペンドラとノエルを呼びに行ったガイルとゼルとリンが合流して館に着いたときには…
「これはまた…」
「凄まじいわね…」
「おい、門が粉々になってるんだが?」
「門の側にキングミノタウロスの斧が落ちてるわ、多分あれをぶん投げたんでしょ」
「ラ、ランドさんはどこにいるのかしら?」
正門から館の庭までの通路と館の玄関が半壊してる惨状を見た五人は呆然とするのだった。




