バカ息子と店への来訪者
ノエル視点での今までの振り返り
「悪いなノエル、俺にも生活があるから…あのバカ息子に目をつけられる訳にはいかないんだ」
「そっか、仕方ないね。無理言ってごめんね」
「お前が謝ることじゃない、早く領主様が戻って来てくれたらいいんだが…」
とうとう最後の商人のおじさんも素材を取引してくれなくなった…
おじいちゃんが病気で死んでから何年かが経った、私はおじいちゃんの遺した工房で鍛冶屋を始め最初の頃はつたなくも武具の修理や家庭の包丁や鍋を造ったりして生活していた。
おじいちゃんと言っても直接の血の繋がりはない、おじいちゃんが言うには私はモンスターに襲われた馬車の中で一人生き残っていた赤ん坊だとある程度育ったときにおじいちゃんに聞いた。それでもおじいちゃんは私を大切に育ててくれた、そして私もおじいちゃんが大好きだったしおじいちゃんが遺してくれたこの工房を守っていこうと決めていた。
しかし、ある時領主様が王都の方へ公務のため出向されてから状況は変わってしまった。
父親の居ないことをいいことに領主の息子が好き放題やり始めたのだ。
冒険者崩れのチンピラを従えて街を歩き店で暴れたり気に入った女性を自分のものにしたりするようになり、逆らった住民は罪を捏造され拘束された。衛兵も賄賂を受け取っているのか全く取り合おうとしない。
そんなある時、私が買い物をしているときにそのバカ息子が声をかけてきたのだ。
「おいお前、なかなかいい女だな!ボクの愛人にならないか、宝石でも服でも好きなのを買ってやるぞ?」
私は最初、自分に言ってるとは思わなかったので反応しなかったのだがそれが癪に触ったのかバカ息子は私の肩を掴むと「おい聞いてるのか!」と怒鳴ってきた。
私は「結構です、失礼します」と彼の腕を肩から外すと歩きだした。彼はそれが信じられないと思ったのか「待て!」と私の肩をまた掴んで引き止める。
「ボクが愛人にしてやるといってるのになんだその態度は!」
「だから結構ですと言ってるじゃないですか」
「なんだと!貴様…「ボンズ様、こいつあの鍛冶屋の孫娘ですよ。ほら数年前に死んだ鍛冶屋のじいさんの」…なに?」
取り巻きのチンピラの一人がそう言うとボンズは私の方をみて言葉を発した。
「そうか貴様、あのダイガンの孫か?」
「だったらなんなんです?」
私が鬱陶しそうにそう言葉にするとボンズはニヤリと笑い
「よし、貴様はボクの愛人としてだけでなく専属鍛冶師としても使ってやる。光栄だろう?かつて「伝説の鍛冶屋」とまで言われたダイガンの「秘伝の技術」をボクのために使えるんだからな!」
「は?」
私はバカ息子の言ってることが理解できず呆気にとられた。
「そうかそうか、嬉しくて声も出ないか。では早速屋敷にきて…「嫌ですけど?」…なっ?」
「声が出なかったのは呆気にとられたからですよ、そんなこともわからないんですか?」
「ななな…」
「それにおじいちゃんの技術は鍛冶としての技術で、武具や道具を造ったり直したりする技術です。あなたの頭の中までは直せません」
「ぐぐぐ…!」
「話は終わりですか?では失礼します」
そう言って私が歩き出すと取り巻きの一人が「テメェ!図に乗るんじゃねぇぞ!」と私に向かってきたが…
「ノエル!大丈夫?」
そこに私の幼馴染みのペンドラがやって来てくれた。ペンドラはAランクパーティーの冒険者で腕の立つ剣士だ。
「ちょっと!私の友達に手を出したら只じゃおかないわよ!」
そう言ってペンドラが腰の剣に手を添える。
「ぐ、貴様Aランクの…」
チンピラ達も流石に現役のAランクと揉めるのは分が悪いと思ったのか退いていく、「ボ、ボクに逆らってこのままですむと思うなよ!」そう言ってボンズ達はこちらを睨み付けながら去っていった。
「ありがとねペンドラ」
「いいわよ、しかしアイツら気に入らないわね。ノエルも気を付けてね」
「私にはペンドラがついてるし大丈夫よ」
「勿論よ、守ってあげるからね」
「ありがと」
それからしばらくするとまわりの環境が急に変化してきた。
「ごめんねノエルちゃん」
「すまんノエル、これからは素材を卸せない」
今まで取引をしてくれていた商人さんたちが次々と取引を打ち切ったのだ。
なぜかなんて考えるまでもない、あのバカ息子の仕業だ。
でも商人さんたちにも生活がある、私のせいで路頭に迷うようなことはあってはならない。だから私は商人さんたちには怒りを感じなかった。
そしてつい先程、最後まで取引をしてくれていた商人さんも打ち切られてしまった。
私は店に戻るとこれからどうしようと考えていた。そんな時にまたあのバカ息子がやって来たのだ。
「どうだ?ボクの愛人になる気になったか?」
ニヤニヤしながらそう言うボンズに私は「いい加減にしてください!何度来てもお断りです!」と告げる。
「キミも強情だねぇ、仕事も無いのに強がっちゃって」
「あなたが商人さんたちに圧力をかけてるくせに!」
「どこにそんな証拠が?」
「もう諦めて来るんだよオラ!」
取り巻きがそう言いながら私の腕を掴む。
「は、離して!」
私が抵抗するとそれが気に入らないのか「このアマが!」と男が腕を振り上げる。
私は咄嗟に目をつぶるがその時に…
「さすがにそれは見過ごせないな」
そんな声が聞こえてきた。
私が目を開けると見知らぬ男性が取り巻きの男の腕を掴んで止めていた。
それが私とランドさんの出会いだった。




