生地と模様に込められた想いと純粋な子供心
「うーん、シシリアに似合いそうな服は…」
暫く色んな服を見て回っていたランドは、目に入った服を幾つか手にしては戻すを繰り返して悩んでいた。
その様子を後ろで見ていた女店主は呆れたような声を掛ける。
「アンタも真面目だね、サッと適当に選んでやったらいいじゃないか…」
「そうはいかない、俺の選んだ服をシシリアが着た時に恥をかかせるわけにはいかないからな。俺が着る服で俺のセンスを笑われるのは構わないが、俺のせいでシシリアが笑われるのは辛い。シシリアにはいつも笑顔でいてほしいんだ」
ランドの返事に女店主は「そうかい…」と返しながら心の中で呟く。
(アンタのその言葉を本人に言ってやったら、シシリアならどんな服でも喜んで着ると思うけどね。大体この街でランドを怒らせる馬鹿なんて居やしないよ…)
そんな感想を抱きつつ…女店主がランドの様子を眺めていると「お…これは…」とランドが一つの服を手に取った。
それは絹で織られた…裏地は起毛で何らかの花の模様が付いている暖かそうなコートだった。
色合いは落ち着いたうっすらとしたオレンジで、胸元には裏地とは別の「花」の刺繍が縫われており、袖口にはそこを覆うような「ファー」が付いている。
「これはなかなか良さそうだな…」
そう言ってそのコートを眺めるランドに、女店主は「ほぉ、アンタもなかなかお目が高いねぇ」と口にする。
「これは良いものなのか?」
ランドが尋ねると女店主は「まぁね…」と返して説明する。
「これはね、私が今は亡き旦那に始めてプレゼントされたコートを模倣して作った品物さ。まぁ素材とかは当時のものより頑丈で質のいいものを使ってるがね」
「そうなのか」
「ああ、私的には…女性がこのコートを男性に贈られたら、そりゃあ嬉しいだろうね」
「なるほど、しかしこれは裏地が起毛だから…今の季節はともかく暖かくなると着れないな…」
ランドがそう言うと、女店主は「それなら大丈夫さね」と返した。
「え?」
「ちょっとそれを貸してみな…」
ランドはそういう女店主にコートを渡すと、女店主は「ここを見てみな」とコートの内側を指差す。
コートの内側には小さなボタンが付いており、女店主がそのボタンを外すと裏地の起毛の所が外れた。外れたコートの内側には起毛部分と同じ花の模様が付いている。
「こうして裏地を外しちまえば、春先や秋口に着れる薄手のコートになるのさ。同じように袖口のファーもボタンだから外せるよ」
「これは凄いな、時期に合わせて調節できるコートなんて…」
ランドは女店主の説明に感心するような声を上げる。
「だろう…それでどうする。コイツにするかい?」
女店主の言葉にランドは「そうだなこれにしよう、裏地や胸元の花の刺繍もシシリアに似合いそうだしな」と答えた。
「よし、それじゃあシシリアを呼んどいで。あの娘にも服の説明をしてやるからね、アンタはカウンターのところでそのまま待ってな」
「わかった」
そう言うとランドは、店の入り口の方に歩いていった。
ランドを見送りながら女店主はボソリと呟く…
「ランドはきっとこの二つの「花」の意味は知らないんだろうね…。私の旦那はこの二つの「花」を踏まえて「俺の気持ちだ!」と言ってくれたってのに…」
そんな言葉を呟きながら、女店主はシシリアが来るのを待つのだった。
その頃…
「シシリア、服を選んだぞ」
「ありがとうございますランドさん。あれ…でもランドさんなにも持ってませんよ?」
「あぁ、今店主が持って向こうで待ってるよ。シシリアに服の説明をするから呼んでこいって言われたんだ」
「服の説明ですか?」
「まぁ詳しくは彼女に聞いてくれ、俺はここで待ってるように言われたから待ってるよ」
「わかりました、ではちょっと行ってきます」
「あぁ」
そんな会話をした後、シシリアは一人で女店主の方へと歩いていった。
そしてシシリアは、女店主のところへ向うと声を掛ける。
「あの、ランドさんから服の説明をしてくれると聞いたんですけど?」
「あぁ来たかいシシリア…そうだよ、ランドが選んだのはこのコートなんだけどね…」
女店主はそう言うとランドが選んだコートをシシリアの方に見せる。
「わぁ…素敵なコートですね。でもこれを着るのに説明がいるのですか?」
シシリアの質問に女店主は「コイツにはちょっとした細工があってね…」と答える。
「細工ですか?」
「あぁ、まずはだけどね…」
そう言うと女店主は先程ランドに説明したことをシシリアにも説明した。
「へぇ、便利な細工ですね。それに店主さんの旦那さんが贈られた物と同じデザインですか…」
「だろう?」
シシリアの反応に女店主はそう返しながら言葉を続ける。
「あとね…これはランドには言ってないんだけど、このコートの模様の花にはある意味があるんだよ」
「花の意味…あ、花言葉のことですか?」
シシリアがそう言うと女店主はニヤニヤしながら「そうだよ♪」と答える。
「まずはこの胸元の花だけどね、これは「コチョウラン」の花なんだ」
「コチョウラン?」
「ああ、コチョウランの花言葉はね…」
女店主は少し溜めてから答える。
「「アナタを愛しています」だよ♪」
「ふぇっ///」
女店主の言葉にシシリアは顔が赤くなる。
「その花を胸元にあしらうことで、私の旦那は「心の底から貴女を愛しています、だから貴女も私の事を心においてください」って言ったんだ」
「す…素敵な旦那さんだったんですね…///」
「まぁね、そしてもう一つ…この裏地に施された花の刺繍だ。こっちは「カランコエ」という花でね…」
「カランコエ…?」
「あぁ、そのカランコエがこうして裏地に刺繍されてる意味がわかるかい?」
「いえ…」
女店主の言葉にシシリアがそう返すと、女店主は笑顔で答える。
「「カランコエ」の花言葉は…「あなたを守ります」だ。旦那はその花を裏地に施すことで「これからは自分が貴女を守ります、こうして貴女を包んで抱き締めるように」だとさ…」
「つ…包んで守る…///」
女店主の説明でシシリアの顔は更に赤くなった。
「つまりね、このコートを男性から女性に贈るってのは…「心から愛する貴女を私は守ってみせます」ってことなんだよ。まぁ…ランドは花言葉なんか知らないだろうけどね♪」
「ラ…ランドさんが私を愛して守ってくれる///」
シシリアは自分で口にして更に赤くなる。
「まぁとりあえず…このコートの説明は以上だよ。それじゃあ会計をするかね」
「は…はい///」
女店主にそう言われて、シシリアは赤くなりながらカウンターに向かった。
そして戻る途中、女店主は「あ、そうそうシシリア…ついでと言っちゃなんだけどね…」と口を開く。
「はい?」
「ランドはもう一つ気になる服があったみたいだよ、まぁ…私が服の説明したら慌てて戻してたけどね」
「もう一つの服?」
「ああ…その服はね…」
そう言ってもう一つの服「前半分が外れて胸元が露わになる服」を女店主が伝えるとシシリアは「/////」と無言になる。
「まぁそっちの服は、アンタが「ランド夫人」にでもなったら買いに来たら良いさ♪」
「ラ…ランド夫人って///…買いませんよ……多分…///」ボソッ
「若いって良いやねぇ…♪」
シシリアの反応に女店主はそう言って笑うのだった。
その頃ランドは…
「二人とも遅いな…まぁ女性の服の着こなし方とか俺には解らないから、説明も細かいのかな?」
とぼんやりと待っているのだった。
― ― ―
その頃、獣人「人虎族」の集落の方では…
「ではソチラからこれだけの炭を出されるなら、コチラはこれだけの毛皮を…」
「うむ、確かに。ではコチラを納めてください」
取引にやって来た「人狼族」と話し合っていた。
「しかし、今年の夏頃にはこうして取引を互いにするとは思ってなかったね…」
「確かにな、それもこれもランド殿が我等を助けてくれたからよな」
「違いないね」
ガレリアとヴォルグは互いにそう言葉を交わしながら笑う。
「時にヴォルグ、お前さんは王都の「建国祭」には顔を出すのかい?」
「うむ、陛下から招待されているからな。と言っても…改めて我等との国交と繋がりを伝えるという席だけだ。それさえ終われば好きに見て回ってくれと言われている、ガレリア殿も同じではないか?」
「あぁ、アタシもそんな感じだね」
そんな会話をしていると、ヴォルグの足元に居たファルが口を開く。
「お父さん、お祭りで王様とのお話済んだら…ランドお兄ちゃんと一緒にお祭りをまわってもいい?」
「そうだな、ランド殿の都合を聞かないとなんとも言えないが…ランド殿が良いと言えば構わないぞ」
「ほんと…わーい♪」
ファルの嬉しそうな顔を見てヴォルグは笑顔でファルに声を掛ける。
「ファルはランド殿が大好きだなぁ」
「うん、私ね…大きくなったらランドお兄ちゃんのお嫁さんになるの♪」
「はっはっはっ、ファルが大人になる頃にはランド殿も大分歳を取られているぞ?」
ヴォルグが笑いながらそう言うと、ファルは「あっ、そっかぁ」と残念そうに呟く。
「ランドお兄ちゃんもう大人だもんね。……あっ良いこと考えた、ねぇねぇガレリアお姉ちゃん」
そうやってウンウンと考えていたファルは、名案が浮かんだとばかりに笑顔になるとガレリアに声を掛ける。
「なんだいファル?」
ガレリアが反応すると、ファルは屈託のない笑顔でガレリアにお願いをする。
「お姉ちゃん、ランドお兄ちゃんと結婚して男の子を産んで!」
「は…はいぃぃっ……/////」
ファルのお願いにガレリアは驚きの声をあげる。
「ファ…ファル、なにをいきなり言ってるんだい///」
「ファルがお兄ちゃんのお嫁さんになれないなら…ガレリアお姉ちゃんとランドお兄ちゃんが結婚してね、お姉ちゃんが男の子を産んでくれたらその子とファルが結婚するの。そうしたらファルもランドお兄ちゃんの家族になれるよね!」
「ア…アタシがランドと結婚して子供を…///」
ファルの言葉にガレリアは思わずその様子を思い浮かべる…
―ガレリアの妄想―
ランド「ガレリア、あの子は寝たか?」
ガレリア「あぁランド、今沢山ミルクを飲んだからね。ぐっすり寝てるよ」
ランド「そうか、なら少し代わるから休んで来たらどうだ?」
ガレリア「いや、ワタシもここで一緒にいるよ」
ランド「疲れてないのか?」
ガレリア「そういうわけじゃないけどさ…その…」
ランド「ん?」
ガレリア「ラ…ランドと同じ空間に居たいんだよ。最近はこの子の面倒であまり二人きりになれないからさ///」
ランド「ガレリアは寂しがりやだなぁ」
ガレリア「だ…だって、アタシ達は夫婦なんだから一緒に居たいじゃないか///」
ランド「そう言われるとそれに応えるしかないな…」
ガレリア「え?」
ランド「俺も最近ガレリアと触れ合えなくて寂しかったんだ、久しぶりに俺を身近にしっかり感じてくれ」ガバッ…
ガレリア「あ、ランド…それはあの子のためのモノだから///」
ランド「たまには俺にも味あわせてくれよガレリア…」チュッ…
ガレリア「あんっ…もう仕方ないね…少しだけだよ///」
―ガレリアの妄想終わり―
「/////」プシュウゥゥゥゥ…
ガレリアは自分の想像に顔が真っ赤になる。
「ガレリア殿、大丈夫か?」
ヴォルグかそう声をかけるとガレリアはハッとして「だ…大丈夫だよ(ファルがあんこと言うから思わず想像しちまったよ///)」と返した。
「お姉ちゃん顔真っ赤だけど大丈夫〜、お熱あるの?」
「だ…大丈夫だよファル…気にしないでくれ///」
「そう…なら良いけど、ランドお兄ちゃんとの赤ちゃんのこと考えといてね?」
「ま…まぁ考えとくよ///」
ファルにそう返すガレリアを見て部下達は…
(子供とは…純粋な分…躊躇いがないな…。まぁ我等としても、ガレリア様とランド殿との間にお世継ぎが生まれるのは願ってもないことだが…)
と思うのだった。
リン「ガレリアとランドの子供かぁ…物凄く武芸に秀でた子供が産まれそうね」
作者「それは間違いないでしょうね」
ガレリア「う…うるさいよリン///」
リン「にしても、ガレリアって今でもかなりのスタイルなのに…もし妊娠から出産なんてしたら…」
ガレリア「し…したら?」
リン「胸が凄いことになりそうね…」
ガレリア「なっ///」
作者「でしょうねぇ、そらもう今よりもはち切れんばかりの張りと弾力でバッツンバッツンに…「だ…黙ってな///」…ぶぇっ!」ズドン!
リン「いいなぁ、ちょっと分けてくれない?」
ガレリア「そんな事言われても///」