氷の神殿3
最深部の大広間へ入る直前、黒玉石が突然反応を示した。
今まで、何処にもつながらなかったのに……どうしたんだ?
慌ててナップサックから取り出し、通信を受ける。
もしもし……
「エイジ君?エイジ君なのか?!……無事だったんだな……良かった……本当に……良…かった…ううっ…」
声を詰まらせてむせび泣く嗚咽が黒玉石から漏れてきた。
この声はピアだ。
良かった、ピアは無事だったのだ。
泣き崩れるピアの声を聞いていると、俺の目にも何か熱い物が溢れて来るのが分かった。
あの崩落から、なんとか助かりました。
良かった……ピアも無事で……
しばらく黒玉石が使えなかったのですよ。
「その場所は光属性の因子が強くてね、出口付近でしか冥界経由の黒玉石はつながらないんだよ。今どこにいるんだい?地表の近くなのかい?」
今は神殿の最深部ですよ、宝珠のある大広間の前です。
ここに来るまで、何度も上がったり下がったりしてたけど、地表近くなんですかね。
「そこまで到達出来たのか、ちょっと待ってくれニャル導師に頼んで逆探知で君の居場所を割り出して貰う。恐らく裏口も近くにあるだろう」
ここにも裏口があるのか。
ドワーフ遺跡の時もそうだったが。
「そんな会話魔術装置があったとはな。誰と話しているんだ?あのダークエルフか?」
すぐ前に女騎士ことアルフィスが立っていた。
剣の切っ先を、俺に向けている。
脱出までは、休戦の取り決めをしたはずでは?
すると白ローブことソフィアが横からスッと近付いて来て。
「あのね、エイジ……」
耳元で囁きながら、俺の身体に腕を廻すと……
俺の両手にガチャンと手錠を嵌めた。
こ、これって……イカーデのとこに捕まってた時と同じ、魔術封じるやつか?
ソフィアはどこか拗ねた様な表情で、
「酷いよ……ずっと一緒にいてくれるって言ってたのに、あのダークエルフの娘に、浮気し続けるなんて」
いや、それを糾弾するなら過去について教えて下さいよ。
全然記憶が無いんだから、本当なのか嘘なのかも分からない。
「エイジ君、場所が割り出せたそうだ、今から君を迎えに行くからな」
黒玉石から聞こえるピアの声。
アルフィスは俺から黒玉石を取り上げると、
「君はあの時のダークエルフか?久しぶりだな」
「……誰だ、貴様。エイジ君は……」
「エイジは拘束させてもらったよ、これ以上我らに手出しをするのなら、命の保証は無い」
……。
「エイジ君を、どうするつもりだ」
「ミラージへ連れて帰る。エイジの本来いるべき場所へ戻すのだ。もちろん、宝珠も一緒にね」
「待ってろエイジ君、絶対に助けに行くから……」
アルフィスは黒玉石を操作し、通信を切った。
「さて、宝珠を頂いてしまおう。出口もこの先にあるようだしな」
くそ、とんだドジを踏んじまったものだ……。
ーー
大広間の入口両脇には、魔物の形をした石像が設置されていた。
通り過ぎようとすると、Beeeeepという音と共に「入るな!」という文字が浮かび上がった。
「入るな……と言われても、入るしか無いよな」
アルフィスは剣を構えて警戒したまま、大広間へ侵入した。
ソフィアも俺の手を引いて中へと入る。
あのドワーフ遺跡の時と同じぐらい広い大広間だ。
ひときわ目に付くのは、中央にデカデカと存在する巨大なクラーケンの石像。
ここのガーディアンモンスターに違いない。
どこかの井戸の底に住み着いてそうだが、もしやこれは……
「またも謎解きか……ヒノモトの遺跡でもこれが難関だったのだ」
アルフィスが嘆く先には六色のボタンが付いた、一枚の石板があった。
「イロイッカイズツ……順番にボタンを押せと言うのだろうが、何か今までにヒントとか、あったか?」
無い……多分。
「こういうのは私はちょっと……エイジなら分かるんじゃない?」
と、ソフィア。
分かるけど、分からんとも言える。
恐らく正解はカラーコードの順番です。
「カラーコード?何だそれは」
問題は、これがどの機種なのかという点だ。
機種によってコードの順番が違うし、昇順なのか降順なのかも違うのだ。
この大広間の何処かに機種を示すヒントでもあるのだろうか……
何となく、無い気がする。
前回のグラディウスコマンドでもそうだが、わざわざメジャーじゃ無い方を選ぶとか、この謎解きを考えた奴は、かなり意地悪だ。
簡単にクリアされたら、悔しいじゃないですか。
という製造者の胸の内が、透けて見えるのだ。
コードの順番はわかりません。
「なんだそれは、結局何も分からないのと一緒だろう」
と、アルフィス。
「やはり適当に押してみるしかないか、そしてすぐに宝珠を取って逃げ出す」
あの、俺今魔術封じられてるから、あのデカブツが動き出したらヤバイんですけど。
「……そうだなあ、お前があの巨大タコに喰われている間に、二人で逃げ出すという手もあるが」
ええーっ。
「それはダメです。やっと一緒になれたのだから、絶対に連れて帰ります」
と、俺に抱きつきながら言うソフィア。
お互いに触手ぐるぐる巻きでなければ、もうちょっと絵になったのだろうが……
「フフ、冗談だ。だが、答えが分からぬのならコイツが動き出すことを前提に、逃げる準備をしてから強引に取り出すしか……」
と、突然ズシーンという重低音が大広間に響き渡った。
続いて部屋全体が振動し、何処かで何かが割れる様なミシミシという音が断続的に聞こえてきた。
「なんだ!また、崩落が……」
再び響く重低音。
出口側の天井に亀裂が走り、上から天井を突き破って何かの脚が飛び出てきた。
あれは見覚えがある。たぶん骨龍の……
バリバリと音を立てながら、骨龍の脚が天井を次々とぶち抜いていく。
外の空が見えるぐらいぶち抜いた所で、一隻の黒いガレー船が降下してきた。
ニャル導師のガレー船艦隊の旗艦、ラ・レアルだ。
なんという強引すぎる接舷降下、下手すりゃ俺も埋まっちゃうでしょ。
さすがに船体全部は入りきれず、船底がつっかえてそれ以上降下出来なくなると、小型連絡挺みたいなのが切り離されて、大広間へと着底した。
連絡挺からは、ピアとニャル導師、それに続いて二十名ぐらいの触手灰色カエルさん「月棲獣」、そして縄で簀巻きにされた青ローブの男が降りてきた。
「エイジ君、無事か!」
と、ピア。
ええ、なんとか。
形勢逆転という訳だな。
さて、どうする?女騎士さん。




