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闇からの誘い

 順調にネクロマンサー生活を続けている俺の元に、ある日来客があった。

 あのダークエルフの少女、ピア・ネファラムだ。


「そう警戒しないでくれ、もう戦うつもりはないよ」


 そうは言っても、腕を斬り落とされるほどの戦いを演じた相手だ。

 多少は身構えてしまう。


「今日は、ちょっと話したい事があってきたんだ。

 少し時間いいかい?」


 どうぞどうぞ。

 可愛い女の子の訪問はいつでも歓迎します。

 警戒もしますけどね。


 マイホームにピアを招き入れた。

 中は完全な暗闇なので、照明が必要か訊いたのだがダークエルフは元から暗視能力があるそうで、無くても大丈夫らしい。

 入口から奥へ奥へと進んで行く。


「本当にここに住んでるんだな。

 それに配下の数もずいぶん増えたようだ」


 ここに攻め込んで来る敵への防衛用戦力ですよ。

 冒険者ギルドで受けてるクエストの消化にも役立ちますしね。


「クエストか。私も君に依頼したいことがあってね」


 やがてマイホーム最奥の、ゴブメイジやピアと戦いを繰り広げた部屋へ来た。


「この部屋だけ、他の部屋とは少し違うと思わないかい?」


 そういえば、他の部屋は手堀り丸出しのゴツゴツした部屋なのに、ここだけは直線的でちょっと立派だ。


「ここには古代王朝の地下遺跡があるんだ。

 長い年月の積み重ねで入口などは埋もれてしまったが、たまたまゴブリンが横から巣穴を掘り進み、ここを堀り当てた」


 なるほど、それでここだけ違うのか。


「この部屋は遺跡の前室のような場所でね、本来は遺跡本体がある巨大地下空間まで続いているはずなんだ。

 でも今は途中までで、ここから先は埋もれてしまっている」


 ピアはそう言いながら、行き止まりの壁をコンコンと叩いた。


「私があの時ここに居たのは、ゴブリン達と交渉するためだったんだ。

 ここから先の地下空間までの通路を、掘り進めてくれるよう依頼していた。

 そしたら君がいきなり攻め込んで来るもんだから、交渉どころでは無くなった」


 そりゃ悪いことしてしまったね。

 でもこっちも街の人々を襲うゴブリン達を、討伐する必要があった。


「ゴブリンについては、私からは何も言わないよ。

 でも、悪いと思っているのなら、代わりに受けてくれないかい?

 この先にある古代遺跡には、どうしても手に入れたい物があるんだ。

 もちろん報酬は出すから」


 掘り進めるだけで報酬が貰えるクエストか。

 スケルトンに掘らせて放置しておくだけで達成可能なおいしい話だな。

 崩落する危険には注意する必用があるが。


 ええ、受けても良いですけど。

 マイホームの地下にある、その遺跡とやらにも興味ありますし。

 ところで、その古代遺跡から何を手に入れるんですか?


「すまない、そこはあまり詳しく話せないんだ。

 ある筋からの依頼で、ある物を、としか」


 ふうむ、どうしたものか。

 なんか断っても無理矢理掘りに来そうな雰囲気だなあ。

 まあいいか、ここは話に乗っておこう。


 じゃあ受けますよ。

 下僕達にピッケルでも持たせて24時間掘らせ続けます。


「そうか!ありがとうエイジ君。

 それではよろしく頼むよ」


 そういうとピアは、ナップサックから小荷物を取り出し、俺に渡してきた。


「それから、これは私からの友好の証ってやつだ。

 依頼の前金とでも思って、受け取って欲しい」


 小荷物を開けてみると、中には上等そうな黒色のローブが入っていた。

 頭巾とマスクの付いた一体型で、着込めばこちらの人相を完全に隠せる優れもの。


 しかもマジックアイテムだった。


 着ていれば暗視(ナイトビジョン)骨鎧(ボーンアーマ)の効果が常時発動するようだ。


 初めてのマジックアイテム!

 RPGプレイヤーなら誰もが頬の緩むその瞬間。

 もちろん俺の顔もおもいっきり緩んでしまった。


 これは……ありがとうピアさん。

 大切に使わせてもらいます!


「喜んでもらえて嬉しい」


 そう言って微笑むピアの姿は、銀髪の小柄な少女、にしか見えなかった。


 だが彼女はダークエルフで、その外見とは裏腹に、実年齢は俺よりも上のはずだ。

 彼女は信用しても良い相手なのだろうか。


 ーー


 ふと、ピアが視線を部屋の片隅の木箱の辺りに向けた。

 戦いのあと、彼女が寝かされていた場所だ。


「……正直、あの時は死を覚悟したよ。

 でも君は、私のことを殺さなかった……」


 そう言いながら、振り返りまた俺の方を向いた。

 左脇腹の辺りを触っている。

 俺が刺した場所が、その辺りなんだろうか。


 俺を見つめるその眼は、非難するものではなく、どちらかというと、むしろ……

 俺はなんとなく居たたまれなくなって、質問でもして誤魔化す事にした。


 ゴブリン族は、あなた方の仲間なんですか?


「……ダークエルフとゴブリンとは、微妙な間柄でね。

 先の北方戦争、つまりダークエルフ王国とオーク帝国が同盟を結び人族と戦った時は、ゴブリンはダークエルフの同盟者だった。

 基本的にゴブリンはオーク帝国の支配下に入っているからね」


 戦争か。


「知っての通り、戦争はダークエルフ王国とオーク帝国の大敗に終わった。

 ダークエルフ内でも主戦派は失脚し、穏健派が主流となった。

 この時、オーク帝国との同盟は破棄され、新たに獣人連合と同盟が結ばれる事になった。

 獣人とオークは犬猿の仲だ。

 自然とゴブリンとの繋がりも薄れていったが、全くその線が無くなったわけでもない。

 そんなところさ」


 大敗、のところでピアはやや心苦しそうな表情をしていた。

 もしかして、その戦争を経験しているんですか?


「まさか。

 私はそこまで年寄りじゃないぞ、だが君よりは歳上だからね。エイジ君」


 そう言いながら顔を俺に近付けてきた。

 姿かたちは俺の妹ぐらいにしか見えないのになあ。


 ふと、ピアの表情がやや真面目なものに変わった。


「ところでエイジ君。

 君はいったい何者なんだ。

 なぜ人族の身でありながら、それほどまでに高い闇属性の魔力を持っているんだい?」


 それは……俺にもわからないんです。


「教えてくれないか。まあ、いい。

 だが、その並々ならぬ闇の力、君は私達の側の人間さ。種族なんか関係なく、な」


 そうだろう?

 と、その眼は俺に訴えかけているように思えた。


 しばらくしてピアは帰っていった。

 次に来るときは探索メンバーを連れてきて、俺に紹介してくれるらしい。


ーーーーーーーーーーーー


 さて、ここまで万事順調に進んでいると思われた俺のセカンドライフだったが、唐突に綻びが現れ始めた。


 始まりは、冒険者ギルドに張られていた新規のクエスト依頼書

「アンデッド討伐」


 はあ?

 この辺でアンデッドと言えば、俺の下僕以外で見たことは無い。

 早速受付のおばちゃんにこの依頼を聞きに行った。


「ああ、最近ゴブリンや魔物の目撃報告がとんと無くなってねえ。

 その代わりアンデッドの目撃情報が増えたから、それに切り替わったんだよ」


 そのアンデッドは何か悪いことをしたんですか?


「幸いなことに、今のところ被害報告は無いね。

 でも被害が出てからじゃ遅いからね」


 そんな、何も悪いことをしていないアンデッドを討伐するなんて、アンデッドの人権侵害だ!断固抗議するぞ!


「まあ、あんたならアンデッドも簡単に討伐できるでしょ」


 しょうがない。

 俺は討伐した魔物を、わざわざ一旦アンデッドにした後、討伐証拠品を切り出すという方法をとることにした。

 無意味な二度手間な気がするが、仕方あるまい。


 次に問題となったのは、収集系のクエストだった。

 最近は森の奥の方にある群生地にも、街の人が収集しに来るようになった。

 俺が魔物を討伐しまくったので森が安全になり、街の人の生活テリトリーが広がったのだ。

 人がいるところにアンデッドを引き連れて、ノコノコ出ていく訳にはいかない。

 逆にアンデッドを見せ付けて、街の人をビビらせて追い払ってから収集するという方法もあるが、あまりにセコい小物悪党みたいでやりたくはないなあ……。


 こうして収集系クエストから得られる収入は、大きく減少することになった。


 そしてある日、とうとうこのクエストが張られるようになった。

「アンデッドの洞窟攻略」


 えっ、この洞窟というのはもしかして……


 ーーーーーーーーーーーー (冒険者フォル視点)


 募集をかけて名乗り出てきたのは、3人だった。

 カマルとバン、そしてエイジとかいうガキ。

 エイジはミラージの魔術学校から家出してきたガキだそうで、最近になってこの街に住み着いたらしい。

 ガキだが魔術師なんてこの辺りじゃ珍しい、熱心に頼み込んでくるからパーティに入れてやった。


 薬草の群生地を抜けて、更に森の奥へ進む。

 ちょっと前までは、魔物が多すぎて侵入するのを躊躇うような場所だったが、今ではめっきり数が減ったらしい。

 俺達、冒険者の活躍の賜物だな。


 やがて目的地の洞窟へと到着した。

 依頼書には大型の骨魔物が何体か目撃されたとあったが、そんな怪物は一体も居なかった。


「きっと見間違いだったんですよ、慌ててる人は大袈裟に報告したりとか、するものです」


 妙に上ずった声でエイジが言った。

 相当緊張してるようだな。


 洞窟の中は完全な暗闇だったが、エイジが光源(ライト)の魔術を使い辺りを照らしてくれた。

 松明やランタンを持つと片手が塞がってしまうので、こういうときに魔術師がいるとありがたい。


 二部屋ほど進んだが、全く敵と遭遇しなかった。


「全然居ませんね。やはりアンデッドなんて居なかったのでは」


 エイジがそう言ったが、俺はこの場所に違和感を覚え始めていた。


「いや、この床の足跡を見ろ。最近まで何体もここに居たようだ。

 この足跡の形状は、恐らくスケルトン。

 それに……」


 辺りを見渡してから言葉を続ける。


「ここは妙に清潔過ぎる。アンデッドだけじゃなく、人がいるのかもしれん。

 アンデッドを操っているような奴が」


 俺がそう言うと、エイジの奴が急にオドオドし始めた。

 今ごろになってビビり出したらしい。

 やっぱまだガキだな。


 更に洞窟の奥へと進む。

 進むにつれ道幅が広くなってきた。

 やはり不自然な構造だ。

 まるで奥から何かを運び出すためかのような……


「敵だ!」


 カマルが叫んだ。

 やや大きめの骨蛇(ボーンスネイク)が1匹、先に立ち塞がっていた。

 強敵だ。全員でやりあってギリギリ勝てるかどうか……


 ーー


 骨蛇(ボーンスネイク)は弱かった。

 いや、途中から急に弱くなったというべきか。

 最初のうちは強敵で、剣士3人で取り囲んでも攻めあぐねる程だった。

 不用意に近付き過ぎたバンが、大型な鞭のようにしなる尻尾の一撃をまともに喰らい、壁にはね飛ばされた。

 腕の骨を折る大怪我を負った。

 そこから何故か急に弱くなった。

 二三回剣で叩かれると、骨蛇(ボーンスネイク)はバラバラになり、ただの骨の塊に還った。


「終わりましたね。もう帰りましょう」


 エイジのヤツは本当にだらしがない。

 ここから逃げ出したくてしょうがないようだ。


「もう少し調べよう。ここは不自然過ぎる」


 俺がそう言うとエイジはガックリとしていた。


 バンの折れた腕に応急措置を施し、調査を続行する。

 バンは使うのが勿体ないからと回復スクロールの使用を断ってきた。

 愚かな奴だ。金をケチって命を落とすことにならなきゃ良いが。


 ここで洞窟は行き止まりだが、先を掘り進めようとしている跡があった。

 やはり何かを掘り出すためにこの洞窟は作られたようだ。


 カマルが部屋の片隅にあった箱を蹴破り、なかに入っていた薬草やポーションをナップサックに詰めこみ始めた。

 それをエイジがジト目で見つめている。

 欲しかったらお前も持っていって良いんだぞ、数少ない戦利品だ。


 少し時間をかけて行き止まりの部屋を調べたが、特にめぼしい物は無かった。


「やっぱもう帰るか」


 来た道を引き返して、ひとつ前の部屋へ戻る。

 するとカマルが、


「あの壁のところ、何か怪しいぞ」


 見たところ他の壁と違うとは思えない。

 だがカマルのシーフとしての腕は確かだ。

 壁の前まで行き、小型のハンマーの様なもので何ヵ所かコンコンと叩き、


「……こいつだ」


 隅の方の一ヶ所を押すと壁が動く。隠し扉か。

 隠し扉を開けると、登り階段があった。

 さて、ではこの先へと探索を、


「何か降りてくるぞ」


 ガチャガチャという足音。

 スケルトンか?


 全員、扉から離れて武器を構える。

 階段から降りてきたのは……


 完全装備のスケルトンエリート。

 勝てる見込みがない、とんでもない格上の強敵。


 まずい、これはもう逃げるしかない。


 だがそこへ新手が現れた。

 洞窟の入口へと続く扉からも、何体もスケルトンが部屋に侵入してきたのだ。


 退路も塞がれた。

 こうなったら……こいつらを見棄ててでも……


 突然、光源(ライト)の魔術が途絶えた。

 辺り一面、真っ暗な闇に包まれる。

 おいエイジ、なにやってんだ!

 暗闇のなか、スケルトンのガチャガチャいう歩行音が近付いて来る。

 ちくしょう、ここまで……なのか…


 ーーーーーーーーーーーー (エイジ視点)


 よし、3人まとめて簀巻きにしちまえ!


 俺は下僕達に命じて、この3人を生け捕りにしてロープでぐるぐる巻きにしてやった。


 洞窟を攻略したと思わせて帰ってもらおう作戦は、完全に失敗した。

 しょせん即興で思い付いた無理のある作戦だったのだ。


 人ん家に勝手に入ってきて、箱をぶっ壊して薬草を盗み取るだけでも許せんが、あの隠し小部屋に入られるのだけは絶対に阻止せねばならない。

 あの部屋には俺の全財産が保管してあるのだ。

 よくRPGで隠し扉の先に宝箱があって、中に金やら装備やらが入ってたりするのが謎だったが、その謎が解けた。

 正に今の俺の部屋だ。


 俺は小部屋に行くと、ピアからもらった例のマスク付き黒ローブを身に纏った。

 これで俺がエイジだとはわからないだろう。多分。


 下僕達に命じ、生け捕り3人組を肩に担がせてマイホームの外へ出した。

 遠くへ隠しておいた骨熊2匹も呼び寄せる。

 こうなったら第二作戦。

 ここには強いモンスターがいるから、なるべく近付くな作戦、を始めるしかないな。


 黒ローブの俺の姿と、大型の骨熊の姿を見て、3人組が青ざめているのが見てとれた。

 よしよし、じゅうぶん恐怖を与えたな。

 下僕達を引き連れて、あの薬草群生地へと向かう。


 群生地には先客がいた。

 街の人達が薬草集めに来ていたのだ。

 冒険者でもない普通の一般市民である彼らは、アンデッド軍団を引き連れて登場した怪しい黒ローブの魔術師を見て、恐怖の悲鳴を上げた。


「はっはっはっはっは!儂は宇宙の帝王ザカリテ。

 貴様らごときに倒されはせん!」


 適当に悪役っぽいセリフを吐いて、3人組を放り投げ、マイホームへ帰宅した。


 ーーーーーーーーーーーー


 マイホームで再び灰色ローブに着替えて街へ戻った。


 街では邪教徒の幹部が現れて侵略を宣言したとか、そういう噂で大騒ぎになっていた。


 冒険者ギルドも騒然としていた。

 ごった返す人々をかき分け、受付へと向かう。

 受付のおばちゃんは俺を見るなり心配そうな声を上げた。


「ああ、あんた無事だったのかい?」


 ええ、まあなんとか。


「フォルが、あんたと途中ではぐれて、生きてるかどうか解らんっていうから、心配で」


 あの3人は助かったんでしょ?


「いや、1人死んだよ。バンだ」


 え?


「街まで運ばれてくる途中で腕の怪我が悪化してね、しかも腕以外にも強い衝撃でダメージがあってそれを放置してたものだから、慌てて回復スクロール使ったけど間に合わなかったって」


 死んだ。

 俺のせいで、モンスターとかではなく、人間が死んだ。

 武器や魔法で切った張ったやってる世界だ。

 いつかはこういう時が来ると解っていたはずだ。

 そうなのだが……


 今日はもう帰ります。


「ああ、そうしなよ。気を付けてね。

 どうやら、これからキナ臭くなってきそうだから」


 マイホームへ帰って、しばらくひとりで過ごした。

 時折、骨犬の頭を撫でてやった。




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