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氷の神殿1

上空から見下ろす氷の神殿は、まるで前世のギリシャ神殿を、氷付けにしたかのような造形をしていた。


その神殿の入口付近には、聖教会の紋章を付けた馬車が何台も停まり、辺りには神殿の探索隊とおぼしき人員が、テントをいくつも広げて設営を行っていた。

大体全部で百人規模ぐらいだろうか?

その様子は、まるで前世の南極観測隊の様でもあった。


上空から接近する俺達に、全く気がついていないらしい。

対空警戒を怠るとは、怠惰にもほどがあるな。


よし、空襲を開始しろ。


虎虎虎、ワレ奇襲攻撃ニ成功セリ。


のんびり設営作業なんぞを行っていた探索隊員達に、いきなり上空から三本の極太毒ブレスが浴びせかけられた。


三頭の骨龍が横並びになってブレスを吐き出しながら上空を通過(フライパス)すると、建設中だったテントごと隊員達は吹き飛ばされ、極寒の地に生身で投げ出された。


猛毒と寒さの二重苦に、文字通り震え上がっている隊員達へ向かって二千名のスケルトン部隊が進軍を開始した。

アンデッド達には寒さも暑さも毒も影響が無い。

横隊を維持したまま、無慈悲に事務的に聖教会の連中を屠っていく。


ほとんど何の抵抗も無いまま、入口付近の敵軍の排除に成功した。

辛くも生き残った何名かは神殿内へ逃げ込んだようだが、大多数は討ち取られた。


「相変わらず素晴らしい手際の良さよのう。あっという間に百人ほど血祭りにあげよったわ」


嬉しそうにはしゃぐニャル導師と共に、俺、ピア、ルナの三人はガレー船艦隊の旗艦ラ・レアルから極東の地へと降り立った。

俺達三人は防寒着を着こんでまるで雪だるまみたいになっているが、ニャル導師は深紅のドレス姿のままだった。

寒く無いのかね。


「わらわは問題無い、だが月棲獣(ムーンビースト)どもは寒さが苦手のようじゃ。ガレー船から出たくないそうじゃ」


ふうむ、しょうがないな。

まあエリートスケルトン部隊だけでもなんとかなるだろう。


俺はピアとルナと共に神殿の入口に行き、魔導拡声器を使って内部へ呼び掛けた。


「あーあー、テストテスト……こちらはネファラム軍である。外にいる貴様らの部隊は全て排除した。中に残っている者には降伏をお勧めする。降伏した者は武装解除した後拘束するが、命の保証はしてやる。降伏しない者には容赦せん。俺の配下のアンデッドどもは文字通り血も涙も無いのでな、以上終わり」


降伏勧告はしてやったが、神殿から出てくる者はいなかった。


あいつらって、ほんっと降伏してきませんね。


「闇の者共に屈するぐらいなら死を選べと、聖教会の教えにあるからな。まず乗ってこんよ」


と、ピア。


仕方ない。

選りすぐりのエリートスケルトン百体、神殿内に侵攻開始せよ。


ーー


神殿内の捜索(サーチ)()殲滅(デストロイ)をスケルトン部隊に任せて、俺達三人は悠々と神殿の本道を進んで行く。

ニャル導師は外に残り、ガレー船艦隊と共に入口の確保を頼んでおいた。


最初のうちは散発的に隠れ潜んでいた敵兵が狩り出されていたが、徐々にその回数は減っていった。

どうやら最深部で残存兵力を集結させているらしい。

兵力を小出しにするよりは正しい戦術だ。

でも今さら抵抗したところで無駄だろう。


本道は段々と下り坂になっていき、地下深くへと道が続いている。

相変わらずの寒さで防寒着が手放せない。

こう着だるまの状態だと、思うように身体が動かせないな。


エリートスケルトンから報告があり、この先の広間で敵は大勢で待ち構えているようだ。


手出しをせぬように命じ、俺達は広間へと進んで行った。


ーー


広間に集結していた残存兵力は、ある意味見知った面々だった。


女騎士、女侍、赤ローブ、青ローブ、そして白ローブのソフィア。

あとは防寒着を着こんだ聖教会の兵士が十名ほど。

例のミラージ五組は防寒着を着ていなかった。

寒さ対策のマジックアイテムか何かを身につけているのだろう。

でなければ凍死する。


「お前が……兄様の…カタキ……」


赤ローブのツインテールの女の子が、俺に杖を掲げるのが見えた。

外見年齢は俺より数歳年下の気の強そうな顔立ちの女の子。

あれ、赤ローブって若い兄ちゃんじゃなかったっけ?

……死んだのだったかな、名前もよく覚えていない。


「待て、早まるな」


女騎士が赤ローブの前に割って入り、杖を下げさせた。


「エイジよ、今回は随分と大勢で攻め込んで来たのだな」


と、女騎士。


いつぞやのドワーフ遺跡の時と、立場逆転ですね。


「こんな大勢で攻撃してくるなんて、恥ずかしいと思わないの!」


女騎士の後ろから赤ローブが叫んだ。


ああ、思わない。

相手より多くの兵力を用意するのは、戦いの基本だ。

少数で多数を破るのは、カッコいいけど、そんなのばかり狙っていたら、どこかの宇宙の魔術師やどこかの絵描きに怒られちゃうぞ。


俺達は戦争をやってるんだ。

少数精鋭の冒険者ごっこじゃない。


「エイジよ、お主、顔つきが少し変わったのう……前に会ったときは、ここまで非情では無かったぞ」


と、どこか悲しそうな声で女侍が言った。


ならば降伏して下さい。

そうして貰えれば、これ以上死ななくて済む。


「本当に死ななくて済むか?」


と、青ローブが言った。


「あの邪神アザトースのしもべどもの、エサにされるのではないか?」


月棲獣(ムーンビースト)の事を知っているのか。

ええ、触手でチュウチュウなんてさせないから、安心して。


「エイジ、分かっていると思うけど、この先には宝珠が二つあるわ。それをどうするつもり?」


と、白ローブのソフィア。


もちろん、アザトース教団に捧げます。


俺がそう言うと、周りがざわめいた。


「あなたは騙されているのよ、邪神アザトースに宝珠を五つ捧げ、顕現させるということは、人類の滅亡を意味するの!」


俺はそんな事をさせないよ。

ただこれ以上は闇陣営へ攻撃する事はやめてもらう。

そうなるようにアザトースの力を利用する。


「信用出来んな」


と、青ローブ。


「そう言っといて、光陣営を滅亡させるつもりだろう」


じゃあ、叡知神とやらにお前らは五つ捧げるつもりなんだろ?

そのときはどうなるんだよ。


「叡知神は叡知に溢れる存在だ。盲目にして白痴の邪神アザトースとは違う」


「信用できないな」


同じ様にそう言ったのはピアだった。

青ローブへの当て付けだろうか。


「聖教会は方舟計画とやらを準備しておるそうだな、知っているぞ、闇属性の者を根絶やしにする計画だと……」


そ、そんなのあるの?


「聖教会の主流派がそういう計画を起こそうとしているのは事実です。でも改革派は反対しているし、そもそも根絶やしにするのが目的ではなくて……」


と、必死に弁明する白ローブ。


うーん、見事なまでの囚人のジレンマだな。

考えてみれば、この宝珠のシステムは罪作りなシステムだ。

こんなの、闇と光は永遠に争い合うしかないじゃないの。


ーー


とにかく。

この戦いは俺の勝ちだ。

とっとと降伏してくれ。


しないなら無理矢理にでも排除して、宝珠を取りに行かせてもらう。


「出来ません!アザトースが顕現などしたら、世界は……人類は……」


ああ、もう。らちが明かない。

こうなったら……


「こ、殺すっていうの……外にいた人達みたいに……」


泣き崩れてしまう白ローブ。

う、うーん……


スケルトン、こいつらを全員拘束しろ。

殺してしまわないように、気をつけて拘束しろ。


命令はしたが、そこまで気を聞かせてアンデッドが動くとは思えんな。

でも、もうしょうがあるまい。


一斉に襲いかかる百体のエリートスケルトン。

いくらあの女騎士や侍が強くても、所詮は多勢に無勢、多少の損害は出ても勝てるだろう。


「し、仕方ありません」


そう言いながら白ローブは何かを取り出した。

あれは……魔術スクロールか?


スケルトン!あれを取り上げろ!


と、俺が号令を掛けるより早く、


暴風(タイフーン)!」


風属性上位魔法?

馬鹿、こんな狭いところでそんなの……


次の瞬間、とてつもない暴風が部屋の中で渦を巻いて吹き荒れた。

部屋の中にいた全員が暴風竜巻に巻き込まれ、宙を舞い、ぐるぐると空中メリーゴーランドのように回転して行く。


こんなの、もう制御不能だろ……と、思ったが、女騎士と女侍が二人がかりで俺の防寒着に手をかけるのが見えた。


どうやって……何か前もって対策でもしてたのか……?


「お前さえ押さえれば……」


「外のアンデッド部隊も、全部……」


俺を倒したら、スケルトン兵は全部死体に戻るとでも思っているのだろうか?

暫定制御オーブの無いここで、俺が死ぬか気絶したら、全部野良アンデッドになるだろう。

骨龍には一体ずつ小型オーブが仕込んであるが、二千体のスケルトンは、もう手が付けられなくなるだろうな。


俺を押さえ込みに掛かる女騎士。

だが、そうはいかない。


触手召喚(サモンテンタクル)


防寒着を突き破って何本もの触手がにゅるにゅると生えてきた。

うーん、絵的に俺自身が見ても気持ち悪い。


「なに!」


「まだこんな手を……」


手じゃなくて触手だよー。

俺は触手で打ち払い、女騎士と女侍を撥ね飛ばした。


これでひとまずは……と思った矢先、


「威力増強、火球(ファイアボール)!」


ツインテールの赤ローブが、巨大な火球(ファイアボール)を放っていた。


俺に向かって飛んでくる……かと思われたが、暴風に巻き込まれ、あらぬ方向へと飛んでいき、氷の天井で炸裂した。


バキバキという音と共に天井に大きな亀裂が走り、次の瞬間大規模な崩落が始まった。


ヤバい。

俺は全身を触手で包み込んで、防御膜にした。


外が全く見えなくなった触手の肉壁の中、あちこちに俺が叩きつけられるのが分かった。

骨鎧(ボーンアーマ)と触手の二重防護でも凄まじい衝撃が俺を襲い続けた。


ピア、ルナ、お前達は無事なのか……頼む、無事でいてくれ……。


やがて最大級の凄まじい衝撃が俺の頭部にもたらされた。


ああ、これは……いかん…気を…失うわけ…には……


限界だった。

俺は触手に包まれたまま、気を失った。



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