第四の宝珠
平和に時が過ぎるネファラム城に、ニャル導師から黒玉石に通信が来たのは、アンニュイな午後の事だった。
「第四の宝珠が出現したのを検知した、すぐに出発の準備に取りかかるのじゃ」
ついにこの日が来たか……ところで場所はどこなのです?
「チャイカ連邦の極東地域にある、通称氷の神殿と呼ばれる遺跡の中じゃ」
極東地域ですか……
チャイカ連邦の東の端っこですね。
かなり遠いなあ。
「うむ、じゃが前回のように見過ごす訳にはいくまい。今回はわらわもお主と共に行くことにするぞ。ガレー船艦隊も何隻か派遣するつもりじゃ」
それは心強い。
こっちからも骨龍とスケルトン部隊を出します。
ーー
急いで準備を始めることにした。
今回の遠征メンバーは、俺、ピア、ルナの三人とし、キュー、テリー、ミーアにはネファラム城の防衛を任せた。
前はキューだけに任せたりしていたけれども、こう城の規模が大きくなると、もう一人だけでは管理しきれまい。
「城の方は任せておいてくれ。宝珠、必ず取ってこいよ」
と、どことなく嬉しそうにテリーは言った。
元々テリーは前世の俺と同じ引きこもり野郎なのだ。
「俺、そういうのパス」が出来て、内心喜んでいるのかも知れない。
城にはサクヤ王女とそのメイドさん達もいる。
ゴウラ王国から来た人質兼側室の彼女らは、まだまだ安心して気を許せるような間柄では無い。
一応、出発前にサクヤ王女の所へ顔を出した。
「ご出陣なされるのですか」
ええ、ちょっと極東地域まで。
「極東……それはまた随分と遠くまで」
骨龍使って空から行きますから、ひとっ飛びですよ。
「ご武運をお祈り致します」
ありがとう。
もし、俺が戦死したらあなたはゴウラ王国へ帰れるよう手配しておきますから、安心して下さい。
「……そのような言い方。確かに政略結婚としてここへ来て、側室となった身ですが、あなたの事を全く案じていない訳では無いのですよ」
少し拗ねたようにサクヤ王女は言った。
「あなたは、結局私の事を一度も抱いてくれません」
そういう事って、お互いに愛し合った身となってからする事でしょ?
二人の間ですれ違いや回り道を何度も繰り返して、もどかしい思いをしながら段々と距離が縮まっていって、最終回間際でやっと一回ふれあって終わるという物なのでは。
「……意味の分からない事を。愛などというものは、婚姻を結んだ夫婦が何度も肌を重ねているうちに、徐々に身に付いていく物です。私の母上もそう言っていました」
順序逆でしょう。とは思うが、平和な国の恋愛観と、戦国期の政略結婚とでは、違って当然なのかも。
「それに、一回やって終わりって……随分酷い話です。確かに瞬時にして燃え上がる『一夜限りの情事』も、吟遊詩人の題材としてよくありますが、夫婦となった二人の人生は初夜を迎えた後にも長く続き、むしろそこからこそが始まりでしょうに」
それは……そうかも知れませんが……
「と、言うわけで。戦地からお戻りになられたら、私の事を抱いてくださいまし」
な、何が「と、言うわけ」なんですか。
「長いこと別れ別れになるし、あなたは戦地で大変な思いをするのです。それぐらいのご褒美があっても良いでしょう?あなたにも……私にも」
そう言うとサクヤはクスッと笑った。
ーー
斯くして準備は整った。
骨龍の赤城、加賀、飛竜の三頭とニャル導師のガレー船艦隊十隻。そこに満載されるスケルトン兵士二千名。
総員帽振れ。
一万を越える残りのスケルトン兵士と、もうほとんどテリーの物になってしまった蒼龍を城の防衛のため配置し、俺はネファラム城から出陣した。
ーー
地上で行軍させながらなら一ヶ月以上かかる極東地域までの旅も、空を飛ぶなら数日間。
骨龍だけで全速力で行くなら一日もかからぬが、ガレー船艦隊の速度に合わせるなら、まあこんなもんだ。
「極東地域は恐ろしく寒いと聞く、十分に対策をしなければな」
と、ピア。
「そして、氷の神殿の近くにはチャイカ連邦の強制収容所もいくつかあるらしい。そこでは、多くの捕虜達が囚われているという……」
少し、悲痛な顔をしている。
「エイジ君、私の両親はね、チャイカ連邦に囚われその地へ送られたんだ。そこで強制労働の任についた者は、数年で力尽きて死んでしまうという。随分前の話だ、だから……もう……」
いたたまれなくなった俺は、ピアの身体を後ろからそっと抱き締めた。
「ありがとう……今は宝珠の獲得に全力を尽くすべきだな。聖教会の連中は、距離的にも恐らく先に到着して既に探索を開始しているだろうから」
ーー
順調に空の旅が続く中、あと少しで到着、というところでニャル導師から黒玉石に通信が入った。
「どうも、宝珠の反応がおかしいのじゃ」
おかしい?反応が弱いとかですか?
「逆なのじゃ、強すぎる……これは、もしかすると宝珠は二つあるのかも知れぬな、それぐらいの反応なのじゃ」
一度に二つって、今までそんな事なかったじゃないですか。
「一度に一つずつ、なんて決まりは存在せぬぞ。二つ出現する事もあろう」
そうかもしれないが……
叡知神側の能力、理の変更。
それが行われたのでは。
「もし、理の変更が行われたのだとしても、わらわにはその変化に気がつけぬ……じゃが、お主がそれに違和感を覚えると言うのなら、その可能性はありえるじゃろう」
変更が行われたのか、元からそういうものだったのか。
俺には全く分からない。
だが、二つ出てきたと言うのなら好都合だ。
二つ共頂いて、こんな寒いところからは、さっさと帰ってしまおう。




