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ネファラム・ハーレム3

その日のネファラム城は、一種即発の状態であった。


中でも、サクヤ王女が呼び寄せたヒコネ外交官と、ツラギ王国のパーク外交官とは犬猿の仲らしく、睨み合いや罵り合いが続いていた。


重大発表を行う、としてパーク外交官が人を呼び寄せた席ですらこれだ。

お互いの外交部がこれでは、平和は程遠いだろうな。

両国の護衛兵士たちの間もピリピリしてるし。


今は、ミシマ川周辺地域の領有権について争っているようだった。

その国境紛争にはネファラムも手を貸しちゃったしなあ……。


「ああ、その領有権については、ネファラムからも一つ発表がある」


おもむろに言い出したのはピアだった。

うん?何の話だ?


「テリー、例の物を」


「ああ、調べておいたぜ」


テリーは大きな巻物をスルスルとテーブルに広げていった。

相当古い物らしく、あちこちボロボロだったが、かろうじてネファラム城の周辺地図らしいという事は分かった。


「これは、ネファラム城がダークエルフ王国の領土だった頃の地図だ。それによると、かつてのネファラム家は城を中心に広大な領地と荘園を有していた。西は自由都市になる前のナガッセまで含めて全部、北は現緩衝領域のほぼ全土、東は今のツラギ王国のほぼ全領地、そしてゴウラの鉱山地はネファラムの荘園鉱山の一つだった」


ピアがそう発表すると、ツラギ側にもゴウラ側にもざわめきが広がった。

これは、つまり……


「要するに、領有権を主張するならネファラムにも大義名分はある、ということだ。ツラギ、ゴウラの両王国を併合しても構わないだけの、理由がな」


得意満面の顔で宣言するピア。

いつの間にこれを準備していたのだろう。


「お、お待ちくだされ!」


叫んだのは、発表の場をすっかりピアに奪われてしまったパーク外交官だった。


「その領地は北方戦争が起きる前のもの、終戦時の取り決めで現在はダークエルフ王国の領土では無くなったのですぞ」


「そ、そうだ。ゴウラ王国は、その戦争が終わったあとに建国され……」


珍しくパークに同意したヒコネ外交官は、そこまで言ったあとハッとした表情になった。


「旧ゴウラ国建国史、についても調べてあるぜ」


と、テリー。

一冊の古い本を持っている。


「それによると、だ。かつての北方戦争で大活躍したヒノモトの騎士……ああ、向こうはお侍って言うんだっけ?……まあその活躍した男は英雄と呼ばれ広大な領地が与えられた。それが旧ゴウラ国だ。今のゴウラ王国とツラギ王国を全部足したぐらいの領地だな」


なるほど、それでヒノモトから遠く離れたこの地に、ヒノモトっぽい名前の場所があるのか。


テリーはいくつかページを捲り、


「その後、旧ゴウラ国は内部分裂やら他国の侵略やらでゴタゴタになり、今のゴウラ王国とツラギ王国の二つに別れた。で、その旧ゴウラ国の初代王様、つまり北方戦争の英雄とやらの名前が……」


テリーは俺の方をチラッと見て、


「驚くなかれ、エイジだ」


え、俺?

なわけないでしょ、そんな大昔産まれてないし。


けど、ほんの数回勝ったぐらいで英雄呼ばわりされた理由は分かったな。

昔の英雄とたまたま同じ名前だった、というわけか。


「で、この建国の英雄さんは面白い条件を残している、要約すると、今後この地を領土とする者は俺の子孫に当たるものに限る、と言うような意味だ」


自分の子孫に後を継がせる、ってどこの王家でもやってそうだが。


「ああ、にもかかわらずこの英雄は、子供を残さず死んでしまった」


なにー、じゃあ今のゴウラ王国とツラギ王国の王族の人たちは……


「正確に言うと、継承権は無いのさ。実際にあるのはエイジの子孫に対してなんだから」


エイジ、って言ってるけど俺も関係ないでしょ、たまたま名前が一緒なだけで、その人に子供が居なかったのなら子孫にも当たらないし。


「けどなあ、今のツラギもゴウラも、実はエイジには隠し子がいてその子孫だ、と言い張ってるんだぜ?」


うん?


「つまりだ、名前が同じであるネファラムのエイジ、が子孫を主張したってかまやしねえ。大義名分はここにもある、って訳だ」


そうは言っても、二国相手に……

いや、今なら勝てるかも。

ニャル導師に頼んでガレー船艦隊を借りれば、まずはツラギ、その次ゴウラで……


と、両国の人たちが俺を仰視しているのが分かった。


え、ああ?

やらないですからね、俺は両国に攻め込んで併合して自分の物にしちゃう、なんて事は出来てもやらない。


「……出来てもやらない」


ボソッと誰かが言ったのが聞こえた。

あ、言い方が不味かったかな。


「継承権があるのはエイジの血筋の者、ならば彼との間に子供が産まれれば、その子は……」


パーク外交官が、やや考え込みながら言った。


いや、そのエイジって俺じゃ無くて、大昔のエイジさんですからね?


「エイジ様、やはりこの話を進めましょう。ツラギ王国はあなたと婚姻関係を……」


と、言い出したパークを遮るように、


「えー、ここで皆様に残念なお知らせがありますー」


言い出したのは緑ローブのサイアだった。

何やら書類を鞄から取り出している


「ここに、まだ彼がミラージの魔術師ギルドに所属していた頃に作成された、身体能力についての資料がありますー。ミラージ魔導衆の重鎮であるイカーデ博士自らが調査を行った、大変興味深い資料です」


所属していた、というか、無理矢理の拉致監禁だったぞアレ。


「それによると、彼は子孫を残せませんー。あまりに強い闇属性の因子が、人の因子を覆い潰してしまうからだそうですー」


ああ、イカーデ博士はそうやって言ってたな。


「つまり、エイジ殿は種無しですー」


なんでそんなに嬉しそうに言うんだよ……


「何、子孫を残せない?」

「ならば、側室を持っても……」


うん?なにか、周囲の俺を見る目が、少し変わったような……


と、護衛士のライガーが俺のところへ歩いてきて


「まあ、なんだ」


俺の肩にポンっと手を置いて。


「そう気を落とすな」


哀れむような顔で俺にそう言った。


ーーーーーーーー


結局パーク外交官の重大発表とやらはお流れになり、ツラギ王国の使者達は帰っていった。


パーク外交官はそれでもゴウラに対抗する為に、婚姻関係を結んでおくべきだと主張したが、ヒルダ王女はそれを断った。


「エイジ殿はツラギに攻め込んで来たりなどせぬよ。私は彼を信頼している」


やや晴れやかな顔で、唇を指でさわりながら、ヒルダ王女はそう言っていた。


ゴウラ王国の使者達もやがて帰国していった。

サクヤ王女も帰ってしまうかと思われたが、彼女はここに残るという。


「私はもうエイジ様の妻の一人ですわ。ここに残るのは当然です」


サクヤ王女はそう言った。


ーーーーーーーー


夜、今日はピアと二人きりでベッドに入っていた。


結局、俺の身体ってどうなっているんでしょうね。


「ミラージのイカーデによる報告書、あれについての事かい?」


キュー姉は違うと言っていましたが。


「ああ、キュー姉によるとイカーデの説は半分だけ正解だそうだ。闇属性の因子が強過ぎて、人の因子に干渉する。これは本当」


そう言いながら、ピアは俺の身体の上に覆い被さって来る。


「その干渉に割り込めるのは、同じく闇属性の因子だけ、つまり私の様に闇属性の因子を持つダークエルフには、君の子を孕める可能性がある、ということだそうだ」


そうだったのか……


「だが、エルフ族はダークエルフもハイエルフも繁殖力が弱い種族、人族相手となると更に下がるのだ。だからこそ」


ピアは俺の身体をギュっと抱きしめ、


「これからもいっぱい愛し合おうな、エイジ君……」


ピア……。


俺もピアの身体を抱きしめ返し、唇を重ね合わせた。

今夜も長い夜になりそうだった。


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