ネファラム・ハーレム2
ーーーーーーーーーー ???視点
ほ、本当にやるんですか、ピア。
「決まっているだろう、その為に彼女はここに居るんだ。これは彼女の仕事なんだよ。AG君」
ネファラム城三階にある俺の部屋。
ピアがサクヤ王女を引き連れて部屋にやって来ていた。
本当に良いの?
これって浮気行為に当たるのでは……
「側室と寝るのが浮気って……」
ピアはやや呆れた様な顔をした後、
「構わん、良いぞ。君の妻である私が許可する。というか……やろう。君と私の二人で、ネファラム流のおもてなしを施してやるべきだ」
そう言いながらサクヤの後ろに回り、俺に向かって彼女の身体をずいっと前に押し出した。
「え、AG様。存分にこの身体を味わって下さいまし。なにぶん、初めての事ゆえ至らぬ点もありましょうが、そこは平にご容赦を……」
凛とした佇まいは崩さぬが、それでも緊張しているのかサクヤの肩が小刻みに震えているのが見えた。
俺と同じぐらいの背丈と体格であるサクヤ王女は、その清楚な顔立ちをほのかに赤く染めていた。
巨乳という訳では無いが、ピアよりもややある胸の膨らみが、白い寝間着の下からも自己主張している。
これからこの王女を自分の好きにして良いのかと考えると、俺の下半身も自己主張してきそうだ。
サクヤの腕を掴むと、一瞬彼女はビクッと身体を震わせた。
そのまま手を引き、ベッドヘと誘う。
「なあに、痛いのは最初のうちだけだ。すぐに気持ち良くなって、自分から欲しがるようになるさ……フフフ」
と、ピア。
どこで覚えたんです、そんな言葉。……って俺でした。
「最初はどうするAG君。いきなり触手拘束からいくか?」
えーーっ、さすがにそれは……。
ーーーーーーーーーー エイジ視点
「うあっ………あ、っぐ……」
ハッとして目が覚めた。ひどい寝汗をかいていた。
何だったのだ、今の光景は。
酷く悪い冗談のような夢だったが、妙に艶かしいリアルさがあった。
今のは絶対に夢のはずだ、俺はサクヤと寝てなんかいない。
そのはず、そのはずなのだが……
俺は過去に本当にそうする道を選んだことがある。
そう思えてならないのだった。
ーーーーー
「本当にやらないのかい?エイジ君」
うん、やらない。
「しかしなあ……はっきり言えば、あの人族の王女は君と寝るためだけにこの城に来たようなものなのだぞ。そしてあわよくば君の子を身籠り、ネファラム家に影響力を作ろうと考えておるのだ」
と、ピア。
「人族はその手の血縁戦術を好むのだ。世代交代が早いせいだろうな」
だったらなおのこと、やらない方が良いんじゃない?
「仮に寝たとして、果たして彼女の思うように進むかな?……だがまあ君がやりたくないと言うのなら、無理強いはしないさ。夜のレパートリーが増えて、面白くなると思ったのだがなあ」
もしかして、自分がやりたいからサクヤ王女を側室に入れたのでは……
「フフ、それは否定しないよ。でも、私がこんな風になったのは、君に散々身体を弄られたからでもあるんだぞ、エイジ君」
そう言うとピアは、小悪魔の笑みを浮かべた。
ーーーーーーーー
食堂に一同に介して昼食を取る、いつものネファラム家の風景。
研究棟に引きこもってるキューがいないのもいつもの事。
いただきまーす、ってみんなで合掌してから食べ始めるのだ。
明らかに戸惑った顔をしているサクヤ王女の後ろに、彼女が連れてきたメイドさん二人が、同じように戸惑いながら立っている。
メイドさん達も一緒に食べればいいのに。
「姫様と同じテーブルで食事を取るなど、そのような事は出来ません」
メイドの一人、たしかレムの方がそう言った。
「一緒に済ませれば、洗い物一回で済むから楽なのに」
と、ミーア。
「あなたはネファラム城の使用人では無いのですか?なぜそのように食事を……」
ミーアはネファラム家の一員で、どちらが上って事も無いですよ。
「これではまるで、市井の一般庶民の様ではありませんか」
と、戸惑いながら言うサクヤ王女。
ええ、まさにその一般庶民の家に、あなたは嫁いできたのですよ。
「ええっ!」
ーー
食事が終わると各自自分の食器を持って、隣の台所へ。
よく分からないでいるサクヤ王女の食器は、メイドさん達が運んできた。
蛇口を捻ると水が出る、彼女らからすると謎の装置を使って軽く食器を洗い、これまた謎の箱形装置の中へ食器を入れていく。
「これは、何なのですか?」
と、サクヤ王女。
これは俺とキュー姉とで開発した魔導家電「食器洗い乾燥機」ですよ。
これに入れてボタンを押せば、自動で洗ってその後乾燥までしてくれるんです。
「これが出来てから洗い物楽になったわー」
と、ミーア。
やや驚愕しているサクヤ王女とメイドさん達が食堂に戻ると、執事服を着た雑用スケルトン達が、残りの後片付けと部屋の清掃まで始めていた。
「すごーい」
と、メイドの一人リア。
「でもなんだか、お仕事取られちゃいそう……」
と、レム。
ーーーーーーーー
それから何日か過ぎたある日、またネファラム城に馬車がやって来た。
ツラギ王国のパーク外交官だった。
こころなし、なぜか酷く慌てているように見える。
「単刀直入にお聞き致します。ゴウラ王国から第二夫人を娶った、というのは本当ですか!?」
ええ?第二夫人?
「それは正確に言うと違います」
応接室に、サクヤ王女がピアと共に入ってきた。
「正しくは、第三夫人ですわ。パーク外交官殿」
「あなたはゴウラ王国のサクヤ様……」
パーク外交官は驚愕の眼でサクヤ王女を見つめ、
「第三ということは、他国ともすでに……このパーク、外交官としてあるまじき失態。一生の不覚!」
あ、あの……
「エイジ様、どうかツラギ王国からも妻を娶って頂きたい」
俺の呼び方、殿から様に変わっちゃったよ。
「こうはしていられない。エイジ様、ご無礼ではありますが、どうかお許しを。急いでツラギへ戻り、出直して参ります」
嵐の様に騒いで、パーク外交官は出ていってしまった。
うーむ、いったい何が始まるんだ。
「そんなこと決まっておりますわ、エイジ様」
サクヤ王女?
「ここ、ネファラム城を舞台に、ゴウラとツラギの兵士を使わない戦争が始まるのです」
おいおい、勘弁してくれよ……
ーー
それから数日の内にパーク外交官は多数の馬車を引き連れて戻ってきた。
ヒルダ王女を筆頭に、宮廷魔術師のサイア、護衛士のライガーまでパーク外交官と共にネファラム城にやって来た。
しばしネファラム城に滞在させて欲しいという。
パーク外交官はあえてなにも言わなかったが、ヒルダ王女を連れてきた理由は朧気ながら察しが付いた。
ーー
あれよあれよという間に進む婚姻合戦。
困惑しているのは俺だけではなかった。
「なんだか、あたしの知らない内にどんどん増えて行っちゃってる」
と、少し不貞腐れた様子でルナが言った。
うん、俺にも何がなんだか……
「でも、あたしは何があろうとあなたの側にいるからね」
そう言いながら、ルナは俺の身体に横から抱きついてきた。
ありがとう、ルナ。
俺もルナの小さな手を、優しく握り返した。
ーー
「ほうら、私の言った通りになりましたねー」
突然声を掛けられ、振り返って見ると緑ローブのサイアが立っていた。
「男なんて、ちょっと権力を握ったらすぐハーレムを作りたがる」
でも、俺が進んで集めた訳じゃ無いですよ。
「みんなそう言うんですー、俺のせいじゃないって」
……。
「ふふ、まあでも、能力のある所には勝手に人が集まってくるものですよー。それだけの魅力があなたには有るってことです」
自由恋愛の皮を被った優勢思想というやつですか。
でも、俺のどこに魅力があるんですか。
ガイコツ操ったりしてるんですよ。
「そのガイコツの軍勢は、チャイカ連邦の総攻撃を跳ね退けて、あまつさえ彼らの要塞さえ陥落させた。分かってますかー?あなたの力で国を一つ二つ滅ぼす事すら可能なんですよ……あなたという、たった一個人の魔術師の才覚で」
それは……俺だけの力じゃ無いですよ。
ピアやルナやキューやニャル導師やらの力があってこそです。
「またまたーご謙遜を。それだけの魔術が使えながら、誰にも良い顔をしようとする八方美人で、頼まれたら嫌と言えない損な性格。片方の陣営に染まりきれない、どっち付かずの蝙蝠は、酷い目にあって死ぬのが昔からの習わしですねー」
酷いこと言うなあ……
「ふふ、そうならないためにも、どうです?ネファラム城にも宮廷魔術師を置いてみては。命令にただ従うだけのスケルトンメイジではなく、自分で考えて判断出来る魔術師が必要なのでは?」
確かに城の留守を任せたり、軍勢の一部を指揮したりする人材は欲しいですね。
でも、あなたは裏切りそうで恐いです。
「……ええー、じゃあ……ハーレムの一人にはどうです?これだけ増えるんだから、もう一人ぐらい…」
またサイアの冗談が始まったか。本気にしない方が良いだろう。
あなたを入れると、ベッドでやってる最中に接触魔法で首閉められて死にそうだから、止めときます。
「ええー、そんなあ……」
サイアは本当にショックを受けたように見えた。
まさか、ね。
と、そこへ。
「エイジ殿、少し時間はあるか?二人だけで話がしたいのだ」
赤髪ショートヘアの、ドレスを着た女性。
ヒルダ王女だった。
ーー
ヒルダ王女と共にネファラム城の屋上ヘと移動した。
「君はすごいな。この城をぐるりと取り囲むぐらいのチャイカ軍に勝利したという」
それはこいつらのお陰ですよ。
俺は骨龍を指差した。
骨龍のうち、赤城と加賀は屋上に止まっている。
飛竜と蒼龍は中庭にいる。
「チャイカの軍隊を一薙ぎで蹴散らした、と言われる骨龍か。君がその気になれば、ゴウラ王国など簡単に攻め滅ぼせるのだろう……もちろんツラギ王国も」
真剣な表情でヒルダ王女は俺を見た。
俺は、ツラギに攻め込むつもりなんて無いですよ。
ツラギ王国は「友人」なのですから。
「私も君を信頼し、そう思いたい。だが、外交部や国王はそうは考えておらぬようだ」
……。
「私がここへ来た理由も、君は薄々分かっているだろう。今や、ゴウラはネファラムの「友人」を越えた存在だ。ツラギもそうする必要がある」
そんな、だからって無理矢理……
「無理矢理、か……エイジ殿から見て、私はどう見える。魅力的な女性には、見えぬか」
え。
ヒルダ王女は俺よりも数歳年上の、二十代半ばぐらいのお姉さんだ。
身長も高く、俺よりも頭一つ分ぐらい高い。
そしてこの世界のご多分に漏れず、中々の美形。
俺が返答に困っていると、
「……無理もない。私は幼少の頃から武術一筋にやって来た武骨者だ。この歳になるまで、浮いた話の一つも無い様な女だ」
少し傷付いた様子でヒルダ王女は言った。
「王族に産まれた身として、政略結婚はいつか来ることだと思ってはいた。その相手が君だというのならば、私は構わない」
ヒルダ王女……
「それにだな、君にあの戦いで命を救われたときから、どうも私のなかである種のときめきの様な物があるのも事実なのだ。私の中にもまだ、乙女の部分があったのか……」
それはもしかすると、属性酔いのせいですよ。
とは思ったが、口には出さないでおいた。
というか、なんて純情な人なのだと感動すらした。
「君はどうなのだ、私をネファラム家の一端に加える事に抵抗はないだろうか?」
……ヒルダ王女がそれで良いというのなら。
「そうか!君はやはり優しい男だな。私の様な魅力の無い女でも……」
そんな事はありませんよ。
「うん?」
俺はヒルダ王女を引き寄せ、精一杯背伸びをして唇を重ね合わせた。
ヒルダ王女はびっくりしていたが、そのまま俺と重ね合わせ続けた。
ややあって、唇を離し、
あなたはとても魅力的な女性ですよ、ヒルダ王女。
俺なんかを選んでくれて、嬉しく思います。
「ふふ、ありがとうエイジ殿。正式な話は、明日パーク外交官からあろう」
ヒルダ王女はやや顔を赤らめて、唇を指でさわりながら、屋上から去っていった。




