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根拠地

 ゴブリンニンジャ、改めダークエルフアサシンは寝息をたてて床に横たわっている。

 損傷転移(ダメージシフト)は怪我や傷は治せるが、失われた体力は取り戻せない。

 回復魔術の本家とも言うべき光属性には、体力回復の魔術もあるようだが、あいにくと俺は光属性魔術を全く使うことが出来ないようだ。


 街へ連れていって、病院だか診療所的な場所へ運ぶべきかもしれないが、大抵のRPGではダークエルフというのは人間と敵対していたりする種族だ。やめておいた方が良いだろう。

 ゴブリンと一緒にいたぐらいだしな。


 とりあえずこのまま地べたに放置しておくのも何なので、木箱を並べて簡易ベッドのようなものを作ってやり、そこへお姫様だっこで運んで寝かせておいた。


 小柄な彼女の身体は、非力な俺でも運べるぐらい軽かった。

 まるで短距離走の女性アスリートのように、鍛えられ引き締まった身体、そして控えめだけど形が良くて柔らかそうな胸の……

 は、あまり見ていると目の毒だから胸元を正しておいてやる。


 彼女を殺してしまわず、結果的に助けたのは、可愛い女の子だったから、というわけでは、

 もちろんあるが、

 あの場面で彼女をゾンビに変えてしまうという行為をすることが、人として越えてはならん一線のような気がしたからだ。


 じゃあ、ゴブリンは良くてなんでダークエルフはダメなんだ、と聞かれると、俺は返答に困ってしまう。

 俺自身のモラルの境界線がそこにある。としか言いようがない。


 ああ、この問題を真面目に考えるのが少し怖くなってきた。

 今はまだ、深く考えるのは止めておこう。やめやめ。


 巣穴の行き止まりであるこの部屋は、倉庫として使われていたようで木箱がいくつもあり、俺が集めるのに苦労していた薬草や、その薬草から作られる体力回復ポーションなどが置いてあった。

 その緑色の瓶を何瓶か彼女のそばに置いてやり、巣穴の調査を再開する。


 ひとつ前の集団寝床らしい部屋に戻ると、部屋の片隅に、来たときには無かった入口が開いていた。

 かなり巧妙に隠された隠し扉になっているようで、閉じてしまうとほとんど壁と変わらない。

 そのため気がつかなかったのだ。


 隠し扉の先は人ひとりがやっと通れるぐらいの狭い登り階段になっていて、登りきると四畳半ぐらいの小部屋に出た。

 小部屋からはまた狭い登り階段が続いていて、登っていくと地上への出口に続いていた。

 こちら側の出口は、小高い丘の上の岩場の見つかりにくい場所にあるようで、言うなれば巣穴の裏口とでもいうべき存在のようだ。

 また四畳半の小部屋の側面には覗き穴のようなものがあり、そこから覗くとゴブメイジ達と死闘を繰り広げた行き止まりの通路兼倉庫を、天井付近の壁から見下ろす事が出来るようになっていた。

 あのダークエルフは、この隠し部屋に潜んで様子を伺っていたのだろう。


 結局この巣穴は、隠しも合わせて全部で四部屋しかない、小ぢんまりとした規模のものだった。

 というか、まだ拡張途中の新居のようなものだな。

 行き止まりの部屋には、新たに掘り進めようとしている痕跡もあったし。


 新居か……

 それなら制圧してやったことだし、いっそここを俺の新しい家にしてしまおうか。

 街には連れていけないアンデッド達を隠しておく事ができるし、何より毎日の宿賃が浮く。

 一石二鳥だ。


 そうと決まれば早速行動に移ろう。

 全アンデッドは直ちに清掃開始!

 ここはゴブリン臭がキツすぎる!


 ーーーーーーーーーーーー


 ひと通り新しいマイホームを見て回り、行き止まりの倉庫部屋に戻ってくると、あのダークエルフの少女は居なくなっていた。

 あれ、もう回復して帰っちゃったのかな?


 ふと、自分の喉元に短刀が押し当てられた。

 あの少女はいつの間にか俺の背後を取っていたのだ。


「捕虜を拘束もせずにほったらかしにするとは、随分と余裕があるんだな。

 それとも何も考えてないマヌケか?」


 すぐ耳元で彼女の声がする。それと汗の甘い香りも。


「なぜ私を殺さなかった。何か理由があるのか?」


 それは……君が可愛い女の子だったから殺したくなかったんだよ。


「……へあ?

 ……お前、私を馬鹿にしているのか?!」


 本当のことを、正直に言ったのに……


「そんな理由で殺さなかったというのか、ダークエルフを」


 それ、自分で言います?


 喉元に突き付けられた短刀に、力が込められるのが解った。

 だが透明な力場に遮られ、それ以上は刃が通らない。


骨鎧(ボーンアーマ)か」


 闇属性魔術、骨鎧(ボーンアーマ)

 術者を守る透明な骨の薄い幕。

 もう不意討ちで刺されるのは嫌だから、あらかじめ張っておいたのだ。


「だが、この程度なら私は破れるぞ」


 首筋に刃が押し当てられ、スパッと。

 痛っ!


 あわてて振りほどこうとするが、彼女は既に飛び退いていて、今度は俺からやや距離を取った位置に立っていた。

 左手にはいつの間にか奪い取っていた俺の杖を持っている。

 相変わらず素早い。


 切られた首筋に手を合わせる。

 血は出ていなかった。

 わざと薄皮一枚だけ切ったらしい。


「そんな甘い態度でよくこれまで生きてこられたな。よほど平和な国からきたお坊ちゃんか?」


 これまでっていっても、ここに来てからまだ数日しか経ってないけどね。


「そのくせ、ガキのわりに杖の魔力増幅無しで損傷転移(ダメージシフト)まで使えるとはな。いったいどこでこんな上位魔術を習ったんだ」


 習った訳じゃなくて、最初から知ってたんだよ。

 それにガキって、お前なんて俺より年下だろ。


 俺がそう言うと、一瞬彼女はキョトンとした顔をして、


「……驚いた、ホントに何も知らないんだね」


 ああー、そういえばこの手の世界ではエルフというのは大体人間よりも長命で、見た目が若くても本当は百歳越えてたりとかするんだっけ?


「お前と話してると、なんか調子狂うな。

 それで、さっきからお前のアンデッド達が世話しなく動き回ってるけど、何をやらせてるんだ」


 ああ、ここに住もうと思っててね。

 今は絶賛清掃作業中だ。


「ここに住む?本気か?」


 宿無し親無しの名もない魔術師なんでね。

 雨風がしのげるこの洞窟は、ホームレスにはありがたい場所なんだよ。


「……面白い奴だな、お前は」


 そう言いながら彼女は少しクスッと笑った。

 ちょっとだけドキッとした。


「人族なのにこれだけの闇属性の力、お前何者なんだ?」


 ええー、また邪悪だとか人の道を踏み外したクズだとか言われるんですか。


「邪悪?……ふふっ、人族達ならばそう言うだろうな」


 え、闇属性でも良いんですか?


「闇属性こそ我らダークエルフの本質だ。何が邪悪な物か。

 それだけ高い属性力を持っているのなら、むしろ誇るべき事だぞ」


 闇属性を受け入れてもらえる場所があるんだ……


「ピア・ネファラムだ」


 え?


「名前だよ、君の名は?」


 エイジだ。


「エイジ君か。また近いうちに会おう」


 そう言うと彼女は杖をこっちに投げて寄越した。

 慌てて受け取る。


 あ、待ってくれ色々と聞きたい事が……


 だが彼女はもう既に居なくなっていた。


 よほど平和な国から来たお坊ちゃん、か。

 本当にそうだな。

 これからはもっと気を付けよう。


 ーーーーーーーーーーーー


 そこから先はトントン拍子に上手く事が進んでいった。


 まず俺の下僕達は、全員ゾンビタイプからスケルトンタイプに召喚しなおした。

 まんま動く死体であるゾンビと、四六時中いっしょに居るのはさすがに気が滅入るからだ。

 骨もあれだが、死体よりはまだマシだ。

 それに腐臭がしないのが良い。


 下僕となったエリートゴブ2匹とゴブメイジは戦力として非常に優秀で、この辺りに出没する魔物はどれも簡単に討伐することが出来た。

 冒険者ギルドの討伐クエストを片っ端から受けまくって、次々に討伐していった。

 倒した魔物のうち何匹かは新たな下僕に加えていった。

 おかげで俺のマイホームの回りには骨熊、骨猪、骨大角鹿、骨大蛇などが集まっていき、骨のミニ動物園が開けそうなほどだった。


 薬草などの収集クエストも、どんどん受けた。

 何しろ下僕達は24時間不眠不休で働いてくれて、文句のひとつも全く言わないので、クエストが捗る捗る。

 超絶ブラックな派遣会社の経営者にでもなった気分である。


 定期的に街に戻ってクエストの報酬を受け取った。

 たまにルース達に見つかって、批難するような目で見られる事もあったが、気が付かないふりをして乗り切った。

 ギルドの受付のおばちゃんは、

「ほんとにこれ独りで全部こなしたの?」

 と最初は聞いてきたが、実際に討伐証拠品や収集品を納品すれば事務的に報酬を払ってくれた。

 ビジネスに徹した実に良い受付嬢だなあ。


 所持金の方も順調に増えていき、人生のタイムリミットをだいぶ先伸ばしにすることが出来た。

 金銭的な余裕が出てきたので、服装など身の回りの日用品を買い揃えた。

 やっぱ魔術師はこれだろう、と思って灰色の頭巾付きローブを買った。

 杖も魔術変換効率の多少良いやつに買い換えた。

 家具もいくつか買った。

 マイホームの四畳半小部屋に机や椅子、ベッドなどを運び入れた。

 街を出るまでは自分で運び、途中からは下僕達に運ばせるのだ。


 小部屋は前世の引きこもり部屋とまでは行かないが、たいぶ快適になった。

 裏口への階段は骨犬に番犬として警備させた。

 この骨犬は一番最初に下僕にした奴の唯一の生き残りだ。

 見ため骨なのに、長いこと一緒にいると段々と愛着がわいてくるから不思議なものだ。

 頭を撫でてやると、骨のしっぽをブンブンふって喜んでくれるのだ。


 マイホームを掘り進めて部屋を拡張していくのは止めておいた。

 土木工事の知識なんか全然無いから、いい加減に掘り進めて崩落させて、マイホームを失ってしまう危険を避けたかったのだ。


 マイホームへの魔物の襲撃などが最初のうちはあったが、回りに骨のミニ動物園が出来上がると、ほぼ無くなった。

 今や俺の戦力はゴブリンの巣穴だった頃よりも格段に増強されており、そう簡単に手出しができる場所じゃ無くなったのだ。


 ゴブリン達がこの場所を奪還するためにここへ攻め込んでくるんじゃないかと警戒はしていたが、そのようなことは一回も無かった。


 というか、ゴブリン自体を全く見かけなくなった。


 ーーーーーーーーーーーー


 こうして、労働し対価を得て生活を改善し貯蓄も出来るという俺の生活スタイルは完成した。

 貯蓄が進めば夢の引きこもり生活も始められるだろう。

 前世ならポ○ンと一軒家の取材が来そうなぐらいだな。


 しかし、街から離れた洞窟に潜み、多数のアンデッドを従えた謎のネクロマンサーか。

 まんまRPGの中ボスだよ、今の俺。


 というか、ネクロマンサーの技能しか持たないものが生きていこうと思ったら、自然とこういうスタイルになるのかも知れないな。


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