攻略準備
ケーニヒスグラード要塞の攻略に先立ち、各国へ色々と根回し的な調整を開始した。
ダークエルフ王国とオーク帝国に、アザ教団のガレー船を介して連絡を取り合い、ネファラム平原北部のオーク帝国砦で会談が開かれる事になった。
ネファラム城からは俺とピア、アザトース教団のニャル導師、ダークエルフ王国の代表としてエベル男爵、オーク帝国からはグインザ将軍が出るらしい。
ツラギ王国へは打診をせずにおいた。
さすがに、オークと一緒にチャイカを叩きましょう、という戦いには参加させられまい。
ーー
オーク砦の前に降下していく、黒いガレー船とボーンドラゴン。
どちらもかなりの大きさで、相当な威圧感がある。
ある意味、砲艦外交だな。
やや緊張した面持ちで警戒しているオーク兵士達の前へ、俺はピアとエベル男爵を伴って下船し、大地へ降り立った。
護衛の強化スケルトンも何体か後に続く。
ニャル導師もガレー船から降りて来ていた。
仮面のダークエルフ達が護衛に付いている。
い並ぶオーク達の中から、一際巨躯な男が前に進み出た。
グインザ将軍だった。
「久しぶりだな死霊術師。先の戦いでは貴殿からもたらされた情報で、随分美味しい思いをさせて貰ったぞ。何しろ待っているだけでカモが向こうから荷物満載でやって来てくれるのだからな」
鋭い歯を見せてグインザ将軍は楽しそうに笑った。
「ニャル導師様もよくぞいらっしゃった。かつて北方戦争でオークと共に戦ったという『黒きガレー船』。まさか本物を見ることが出来る日がくるとは」
「うむ、再び闇陣営が同盟を結び、忌まわしい光の者共を駆逐する。その日の始まりが今日かも知れぬのう」
ニャル導師も上機嫌だ。
中々の好感触からのスタート、ではあったが、一人浮かない顔をしていたのがエベル男爵だった。
ーー
砦内に通され、会議室のような場所へ案内された。
全員着席し、会談が始まる。
「あのケーニヒスグラード要塞を攻略するだと?
これはまた、とんでもない事を言い出したな。だが貴殿が言うからには勝算があるのだろうな」
と、グインザ将軍。
「あの大要塞を包囲するだけでも、数万の兵が必要だろう。それだけの兵力を用意出来るのか?」
いや、包囲はしない。
包囲せずとも要塞を屈服させる方法があるのだ。
「……ほう」
オーク帝国とダークエルフ王国の両国へは、この攻略作戦への協力をお願いしたい。
もちろん、相応の見返りは用意出来ると思う。
「見返りか。まあ、この前のような美味しい思いをさせて貰えるのなら、協力もやぶさかでは無い」
と、グインザ将軍。
うむ、オークをやる気にさせるには、物で釣るのが一番だな。
良い感じで話が進む中、徐に口を開いたのはエベル男爵だった。
「申し訳ないが、ダークエルフ王国はこの作戦に協力出来ない」
沈痛な面持ちで言うエベル男爵。
「ダークエルフ王国は光陣営相手の戦争には協力しない。それは北方戦争敗戦時の協定に反するからだ。これが国王ダーレス陛下の意思だ」
むう、ダークエルフは穏健派が主流になったというからなあ……
「ダーレスの坊っちゃんは相変わらず慎重じゃのう。父君はあれほど勇敢だったと言うのに、ダークエルフは北方戦争終戦時にすっかり牙も爪も抜け落ちたか」
と、ニャル導師。
「導師様、いかにあなたと言えども陛下の事は……」
「分かっておる、分かっておる」
ニャル導師は手をひらひらさせて言葉を遮った。
グインザ将軍は二人のやり取りをニヤニヤしながら見ていたが、
「獣なんかと組みおって……闇の眷属とやらも地に落ちた物だな。死霊術師殿、我らだけでも勝算があるのだろうな?」
もちろん、では具体的な作戦説明を……
これ以降、エベル男爵が会議に口を挟む事は無かった。
ーーーーーーーーーー グインザ視点
会議、というかほとんど一方的な奴からの作戦説明は終わった。
ま、楽して美味しい思いをさせて貰えるのなら、こっちは何でも構わんが。
帰路に付くガレー船とボーンドラゴンを見送ってやる。
「本当に良いんですかい?あれで」
と、副官のドーガが言った。
何がいかんというのだ?
「攻略後のケーニヒスグラード要塞を、アザトース教団の管理下に置くと」
あの要塞が本当に落ちるのか、未だ半信半疑だが、本当にあいつらだけで落とせるというのなら、落とした者の所有になるのが筋だろう。
まあ、あんな何もない平原のど真ん中に建つ要塞。
取ったところで旨味はあまり無い。
「へえ、そういうもんでやすか」
……それよりも、だ。
皇帝陛下は、より旨味のある作戦の準備を進めておる。
「と、言うと……いよいよ?」
ああ、チャイカの連中に、積年の怨みを晴らすときが来たのだ。
ーーーーーーーーーー エイジ視点
今回もオークからの協力は簡単に取り付けることが出来た。
彼らの思考回路は良くも悪くも単純だ。
相手が自分より強いか弱いか、やった結果儲かるか否か、
基本的にこの二点だけなのだ。
だからこそ、城を奪い返された自分達にも協力的なのだろう。
難しいのはダークエルフ王国の方だった。
事実上の国教とも言えるアザ教団が、これほどまでに積極的なのにも関わらず、それでも協力しないと言う。
「誤解の無いように言っておくがエイジ殿、かつて主戦派と呼ばれた人達も、私のような穏健派も、ダークエルフ王国と先祖代々受け継いできた暗き森を守りたい、という気持ちは同じなのだ……ただ、そのやり方が異なると言うだけで」
エベル男爵は、俺に対してだけではなく、隣で聞いているピアにも話しかけるように、そう言った。
「正直、ダーレス国王陛下は君達の事をどう扱うべきか、悩んでおられるのだ。無論、同じダークエルフの一族としてネファラム家を蔑ろにするつもりは全く無い。だが、かつてのネファラム家は強硬な主戦派で、そして今また緩衝地帯に城を取り戻した」
「だがな男爵、あの城は元々ネファラム家の物なのだぞ」
ピアがやや気色ばって言った。
「分かっている。失われた領地を取り戻したい、そう思うのは当然だ。それに緩衝地帯を設けるにしても、空白地と言うのは不味かった。実際、オーク帝国に進出される事になったしな」
宝珠の件はどうするのです。光陣営に五つ揃えられたら、我々はお仕舞いだ。
「確かにそれはある。けれども、あまり宝珠の奪い合いを加熱させるべきではない、という意見もあるのだ。もし闇陣営が五つ揃える直前、という事になれば光陣営は全力を上げてその阻止に乗り出すだろう」
ここでエベル男爵は一旦言葉を区切り、
「それは最終戦争の始まりを意味する」
分からないなあ……じゃあ、光陣営に揃えられるのを黙って見てるんですか。
俺がそう言うと、エベル男爵は首をゆっくりと横に振り、
「……戦いの前に水を差すようで悪いが、あまりアザ教団の力を過信すべきではないぞ。ピア殿は知らないだろうが、キュー殿はもう物心がついた頃だから知っているはずだ」
そう言いながら、ニャル導師の乗る黒いガレー船の方を見て、
「あの黒きガレー船が、次々と光陣営の手によって沈められて行く、あの戦いをね」




